第83話 父さんの野営飯
「すっきりしたー!」
アルバロが調整したのか今日のお散歩ダンジョンはワイバーンだった。討伐で何も出来なかったストレスを発散させるように倒しまくってハナのお散歩は終わりだ。
素直に抱っこされてくれたので父さんたちと合流して警備隊のいる場所まで戻った。
「この岩山に他の魔物はいなかったぞ。キメラの棲家だったから弱い魔物は近寄ることも出来なかったんだろうな」
「周囲の警戒までしていただき感謝します」
「ついでだ。ついで。解体が終わるまでもう少しかかりそうだな」
「すみません、討伐のサポートが依頼だったので指名依頼は完了しています。解体完了まで付き合っていただく必要はありません」
「まだだ。解体が終わった後で浄化する必要がある」
ずいぶん血が流れてしまったので放っておくとアンデッドが出現するポイントになってしまう。
「ありがとうございます」
「今夜はここで野営だろう?飯は任せろ」
「いえ!レーションがありますので!」
「…言ってはなんだが、くそマズだ」
「仕方ないんです。あれしか無いので…」
「1小隊から1人ずつ出してくれ」
「え?」
「俺の本職は料理人だ。美味い野営飯の作り方を教えてやる。材料はダンジョンで取ったのがたくさんあるからな!」
「しかし…」
「さっさと人間を寄越してくれ、お散歩で機嫌をなおしたのにご飯が遅れたらハナちゃんがグズる」
「は、はい!」
隊長さんが7人連れて来てくれた。竈門の組み方は教える必要もなく私たちの分まで手際良く組んでくれた。
「ほうれん草と干し肉のカルボナーラ風スープパスタと、もも肉のハーブマリネ焼きを作るぞ」
まずはハーブマリネ焼きの下拵え。
ローズマリーは茎を外して刻む。たまねぎは薄切り、もも肉に切り込みを入れておく。
もも肉にすりおろしニンニク、塩、絞ったレモン汁、ローズマリーをすり込んで置いておく。
次にスープパスタ。
干し肉と乾燥キノコをお湯で戻しておく。戻し汁が味の決め手になるからたっぷり使う。ほうれん草を食べやすい大きさに切って下茹でしておく。
寸胴鍋にオリーブオイルを入れ、戻した干し肉と乾燥キノコを炒める。肉とキノコに火が通ったら戻し汁と牛乳を入れ、沸騰したらパスタを半分に折って入れる。
パスタを入れたら弱火にして、パスタが柔らかくなるまで茹でる。
下茹でしたほうれん草を入れたら塩で味を整える。食べる時に温泉卵を落として絡めながら食べると美味しい。
「スープパスタの出来上がりに合わせてもも肉を焼き始めるといい。ハーブを使い慣れるといろんな味を楽しめるから覚えるといいぞ。行軍のついでに摘んでおくのもおすすめだ。乾燥させても風味は落ちないからな!」
「美味しいにおい」
父さんの足元でハナがフンフンする。
「ハーブで焼いた肉はうちのハナちゃんも大好きなんだ」
ちょうど全員の調理が終わる頃、解体も終わったようだ。
「私が浄化してくるから父さんは続けてて」
解体場所に向かって走り出すとアルバロも一緒に来てくれた。
「1人で大丈夫だよ」
「そういう訳にはいかないよ」
「そうなの?ありがとう」
アルバロと一緒に浄化を済ませて戻ると配膳が始まっていた。
「ちょうどいいタイミングだ」
敷物に座ってお皿とスープ腕を受け取る。
「あったかいねえ」
岩山は冷えるので暖かい料理が嬉しい。
「おいしー」
フォークを使って上手に食べて今日もハナが可愛い。
警備隊の方を見ると元気で楽しそうに食べている。ワイバーンの圧倒的な存在がトラウマになるのではと心配したが、暖かい夕食が怖かった記憶を和らげているのかもしれない。
野営の見張りまでさせる訳にはいかないと固辞されたので馬車に戻ると見せかけて我が家に帰ってお風呂に入って寝た。明日の朝、山を降りた辺りで解散予定だ。
翌朝起きて外に出ると父さんが朝のスープ作りを指導していた。
「昨日のスープパスタにも使った干し肉だ。商業ギルドで最近売り出されたもので割高なんだが美味いだろう?」
── 近づいてみたら、またステマしてた。




