第65話 干し肉のスープ
治療費の代わりに棒をくれと言ったら静まりかえった。
「この棒は藪をかき分けるために3階で拾ったもので…」
「ハナにとっては宝石より価値がある棒のようです」
「はい、どうぞ」
「ありがとー!」
ハナはアデマールさんが渡してくれた棒を咥えてセイフティゾーンを3周した。喜びの疾走だ。
棒を咥えてハナが戻って来た。
「良かったね」
「気に入ったのか?」
「うん!」
私と父さんに答えたハナが棒をインベントリに収納した。
「ハナがインベントリに入れたぞ!」
「いいぼう!」
「ハナのインベントリに入れてもらえる棒は選ばれた棒なんだ」
「ハナの中で厳しい審査があるんですよ!」
……私と父さんの興奮はいまいち伝わらなかった。
「いいにおい」
ハナがフンフンする。
「そろそろいいな!」
私がインベントリからお椀とスプーンを出すと父さんがよそって配る。
「スープでも飲んで落ち着いたら一寝入りするといい。体力はもちろん気力が回復してから戻った方がいい」
アデマールさんたちは休んでから戻るとのことだった。アルルの盾は上層階を目指すらしい。私たちは牛乳を確保したので戻る。
「おいしー」
「そうかそうか」
「本当に美味い…」
「干し肉を刻んでいなかったか?」
「干し肉は煮ても不味いはずだ」
「この干し肉は俺の手作りだ。ダンジョンでドロップした肉で作った。きちんと下処理して下味をつけると美味いのが出来る。うちのハナちゃんも俺の干し肉が大好きだ」
両手でお椀を持ってふーふーするハナにキュンだ。
「可愛いですね」
「まあな!ハナは娘と契約しているが俺の愛娘でもある」
「スプーンとって」
「はい」
スプーンを渡すと上手に使って具を食べる。
「干し肉は俺の手作りで野菜は市場で買ったものだ。干し肉から美味い出汁が出るし、香りの良いハーブを上手く使うと味が変わっていろんなスープを楽しめるぞ」
「美味い干し肉というのが無いんですよ」
「そうそう、いろいろな店で試したけど、どこも似たり寄ったりの不味さだったな」
「…最近、商業ギルドで販売を始めた干し肉は少し高いが美味いって話だぞ」
── お父さま、それはステマです。




