第46話 ケレンカ村で調査
「パパ、ハナお腹すいた」
山に入ってすぐにハナが空腹を訴えた。
「そういえばちょうどお昼の時間だね」
「飯にするか」
「作り置きでいいよね、カレーパンとカップケーキがあるよ」
「こっちには作り置きのミネストローネがある。野菜もとれよ」
「おいしー!」
「カレーパンとミネストローネって合いますね」
「カップケーキおかわりしてもいい?」
「複製したから好きなだけどうぞ」
敷物を敷いてピクニックのようだった。
「そういえばアルバロはこの山の異変について分かっているの?」
「うん。みんななら解決出来るよ」
「そっか」
答えを聞いてしまったら冒険者っぽくないだろという父さんの圧力を感じてアルバロと私は黙った。
何事もなくランチを終えて再び調査。
「あっちに魔物がいる」
最初に気づいたのはハナだった。
「どんな魔物か分かるか?」
「遠くて分からない」
「そうか、偉いぞハナ。ゆっくり近づいてみよう」
みんなでハナをたくさん撫でてから父さんが先頭に立って進む。
── マタンゴだった。胞子を飛ばして眠り攻撃を仕掛けてくる比較的大人しいキノコの魔物だ。
父さんが弓矢で倒すとマタンゴは魔石に変わった。
「もう近くに魔物はいないよ」
「ハナちゃんは頼りになるねえ」
「えへへ」
ハナの頭を撫でていたら魔石を拾った父さんが戻ってきた。
「魔物って倒すと解体が必要なはずだろう?あいつは魔石になったぞ」
「魔石とドロップ品に変わるのはダンジョンだけだったよね」
「……」
「あるんじゃない?」
「俺もそう思う」
「木や下生えが多くて見通しが悪いので焼き払いましょうか?」
「ダメ!」
「地道に探すぞ!」
なぜダメなのか歩きながら父さんがリザに言って聞かせている。父さんに手を引かれるリザが嬉しそうだ。
しばらく歩くとハナが反応した。
「あっちに何かあるよ」
「魔物?」
「違うかんじ」
「ゆっくり進んでみよう」
見るからに怪しい洞窟があった。
用心しながら進んでみるとマタンゴがポップした。ドロップ品は魔石とどんこ。さらに進むとラージマタンゴ。ドロップ品は魔石と本しめじ。さらに進むとお化けマタンゴ。ドロップ品は魔石と舞茸。
全部で5階で最上階のボス部屋は魔人マタンゴでドロップ品は魔石とポルチーニ茸など各種キノコだった。
「溢れてくるぐらいだから、かなり多くポップしたな」
「中には毒攻撃してくるマタンゴもいるけど遠くから弓矢で倒せるから、あの村の人たちでもなんとかなりそうだね」
いったん村に帰って報告することにした。
「なんと…ダンジョンが!」
「キノコしか出ないダンジョンですか…」
「マタンゴ…」
村人たちの反応は微妙だった。
「宝石なんかがドロップするダンジョンに現れる魔物は強敵だからマタンゴで良かった。遠くから弓矢で倒せるぞ」
「それは、まあ…」
「それに奴らがドロップするキノコは高級キノコだ。俺が料理してやる」
張り切った父さんがキノコの炊き込みご飯とポルチーニ茸のクリームパスタを作った。大量にポップしたから素材は充分ドロップしたので村人全員に行き渡った。父さんは味噌や醤油を使えたら汁物も作れるのになと残念そうだったけど村人たちに大好評だった。
さらに魔法でキノコを乾燥させる方法を教えた。干したどんこや乾燥ポルチーニは高級食材なので美味しく食べてほしい。
「明日から山全体を歩いて討ちもらしがいないか、他に異常はないか確認するから2〜3日は戻らない。念のため俺たちが戻るまで山には入るなよ」
「ありがとうございます。こんなに早く来てくださった上に対応も早くて感謝します」
「過剰な感謝は必要無い。ちゃんと報酬も支払われる仕事として受けているからな」
父さんの言う通り、仕事として受け取る報酬以上の気持ちを受け止めるのは危険だと思った。いつもうまくいくとは限らない。到着が間に合わず犠牲が出ることもあるのだ。




