第330話 ハナの野望
最近のアルバロとハナは午前中の家事が終わると、2人で特撮ヒーローや戦う美少女ヒロインのテレビシリーズを1日1話ずつ観ている。昨日が美少女ヒロインだったから今日は特撮ヒーロー、明日は美少女ヒロインだ。2人がテレビに向かっている間は静かで良い。
「ハナ、昨日は『セーラー⭐️キュアガール』を観たから今日は『宇宙から来た特撮ヒーローQ』を観ようよ」
「仕方ないのよ」
今日はハナが譲歩する日のようだ。
「ハナ、アルバロ、私は父さんのとこでパンを焼いてくるね」
「うん!」
「いってらっしゃーい」
2人に見送られて父さんとリザの家に向かった。2人はさっそく番組を選択したようだ。背後でいつものオープニング音楽の音が聞こえた。
「おじゃましまーす!」
「カナさん、いらっしゃい」
「おお、来たか」
「パン生地は出来てるよ。どこに出す?」
「ちょっと待て、こっちに用意してある」
案内されたキッチンでまずは手を洗った。
「浄化魔法でキレイになるんだけど、つい手を洗っちゃうよね」
「長年の習慣だからなあ」
3人全員が石鹸で手を洗った。
「じゃあ出すね」
用意してくれていた作業台にパン生地を出した。大きなパン生地の塊の他にお弁当カップに生地を入れて真ん中を凹ませた状態のものもたくさん用意した。
「お!ここまでやってくれてるのか、助かるぞ。具材はこれな」
その横に父さんがいろんな具材を出してくれた。
「すごいね!どれも美味しそう」
今日は3人で惣菜パンを作るのだ。街のパン屋さんみたいなやつ。
「私は加工肉を用意しました」
リザが持つトレーには大量のハムとウインナーとベーコンがあった。
「リザの具材も美味しそうだね!さっそく包んでいこうよ」
ツナマヨコーン、海老グラタンパンには刻んだパセリを散らして、コロッケパンにはソースとマヨネーズ、明太ポテトパンにはマヨネーズを絞った。
角切りポテトとソーセージのジャーマンポテトパン、ごぼうサラダパン、ハムエッグロールパン、ベーコンチーズパンなどを黙々と作った。出来た順にオーブンに入れて焼いてゆく。
「リザのミートソースのパンは揚げ茄子とゆで卵の輪切りを乗せて見た目にも美味しそうだね!」
「カナさんに褒められるなんて嬉しいです」
「本当に美味しそうだもん、ねえ多めに作れる?」
「出来ます!余ったら半分持って返ってくださいね」
「やった!ありがとう」
包んだり具材を乗せたりした順にオーブンに入れて、焼き上がったらいったんアイテムボックスに入れておく。食べる直前に出せば焼きたてで最高だ。
「そろそろカレーパンを揚げちゃうぞ」
「やった!父さんのカレーパン大好き」
「私はスープを温めますね」
「ありがとうリザ、父さんと一緒にサラダとかも作ってくれたんだね」
「今日はミモザサラダとカプレーゼとキャロットラペ、スープはオニオンスープですよ」
「全部好き!」
「カレーパンも良さそうだ。今日は焼きたてパンの昼メシだな、もし手が空いてたらリザはハナちゃんとアルバロを迎えに行ってくれるか?」
「行きます!」
リザがハナを可愛がってくれて嬉しい。ハナもリザのことが大好きだ。毎日父さんとリザに会いに行っては気が済むまで撫で回されてご機嫌で帰ってくる。
「パンは4等分と2等分にカットするね」
「そうだな、丸ごと食うのはリザくらいだろ」
父さんと一緒にカットしたパンを大皿や籠に盛り付けてテーブルに運んでいたらリザに抱っこされたハナが来た。リザもハナも嬉しそうだ。
「おいしいにおい!」
「焼きたてパンの匂いって食欲をそそるよね〜」
「ね〜」
パンの香りでアルバロもご機嫌だし今日もハナと気があっている。
「ハナちゃんの席はここですよ」
リザがハナを座布団に座らせてくれた。
「ありがとリザちゃん」
父さんがスープを配ってくれているので私はハナに取り分けしよう。
「ハナ、カプレーゼとミモザサラダを取り分けたよ。キャロットラペはなし?」
「ニンジンはいらないのよ」
ハナは相変わらず人参が嫌いだ。
「パンは?」
「どれにしよう…」
「カレーパンとミートソースが美味しそうだよ。あとこれはハナのために焼いたんだよ。ふわふわのパン生地にたっぷりクリームチーズを乗せてはちみつを掛けて焼いたの」
「それ食べる!」
1/4にカットしたカレーパンとミートソースパンの他にクリームチーズとはちみつパンは丸ごと取ってやる。
「おいしそー!いただきまーす」
ハナがクリームチーズはちみつパンにかぶりつく。
「おいしー!はちみつー!」
気に入ってくれたようで何よりだ。私もいただこう。
「…うん。思った通りミートソースのパンが美味しいね。具沢山で最高」
「ミートソースはリザが作ったんだ」
「リザ、本当にお料理が上手になったよねえ」
「ふふっ」
優雅に微笑みながら大量のパンを食べている。もちろんリザの分はトッピングの肉類が倍量だ。
「僕はカレーパンが好き。かじるとサクって音がするんだ。中のカレーも絶品!」
「それは中のカレーも揚げたのも俺だ」
「リオのカレーって美味しいよね〜」
アルバロもご機嫌だ。作り手として最高に嬉しい。もちろん私も美味しくいただいている。
「スープもサラダも美味しいよ」
「タッパーに入れてあるからアイテムボックスに入れて持っていくといい。料理する気分じゃないけど品数が足りない時に食え」
「いいの?ありがとう」
いつも通り食べながら会話が弾んでいた。
「今日はアルバロとハナちゃんは何をして遊んでいたんだ?」
「今日は地球のテレビ番組を観たよ」
「きょうはアルバロの日だったのよ」
「明日はハナが好きな『セーラー⭐️キュアガール』の日だよ」
「今日は何を観たんだ?」
「『宇宙から来た特撮ヒーローQ』だよ」
「俺が子供の頃から人気の特撮シリーズじゃないか」
「格好いいよね、ハマっちゃったよ」
「俺は初代の特撮ヒーローAから観てるぞ」
「そうなんだ!僕も初代から観ようかな〜」
父さんとアルバロの間で特撮話が盛り上がってきた。私は男の兄弟がいなかったのでお付き合いで観る機会もなかったから全然分からないなと思っていたらハナが反応した。
「ハナもQはかっこいいと思う!」
「だよね〜!」
「うん!」
アルバロとハナが見つめあってニコニコしている。お付き合いで観てると思ったらハナも楽しんでいたようだ。
「だからね、お願いがあるのよ」
「なんだい?」
「ハナもスペース光線だしたい!」
──── は?
「ハナもシュワッチ!ってスペース光線だしたい〜!ねえ〜いいでしょ?アルバロ〜」
「む、無理だよ〜」
「ダンジョンでスペース光線出したい〜」
「ダメダメ!いくら僕が神でもビームを出せる生き物は創造できないよ!」
「え〜」
父さんと私から『きっぱり断れ』『寝ぼけてビームを出すから絶対にダメ!』という圧力を感じたアルバロが汗をかいている。
「ほら!僕の世界にたくさん生き物がいるけどビームを出せる生き物はいないだろう?無理だからいないの!」
「………」
ハナが黙った。駄々をこねる感じじゃないけどまだ納得できない雰囲気なので父さんと私も気配を消しながら成り行きを見守る。リザはモリモリ食べている。
「…じゃあブレス出したい」
「え、ええ〜…」
「ブレスはリザちゃんも出せるもん」
「ハナとリザは種族が違うから…」
「ハナもブレス!」
どうしよう…ハナが一歩も譲らない雰囲気だ。がんばれアルバロ。
「ハナもブレス!」
ことん。
リザがフォークを置いた。
「ハナちゃん」
「なあにリザちゃん」
「ブレスはやめた方がいいです」
「む!どうして?」
「ブレスは吐いてる自分の顔もすごく熱いんです。ドラゴン化している時は顔が厚い鱗で覆われていますが、それでも熱いです。人型の時に耐えられる気がしません」
「あついの?」
ハナがゴクリと喉を鳴らした。
「熱いです。もしもハナちゃんがブレスを吐いたらお顔の毛皮が焦げてチリチリになって禿げます」
「ハゲ…」
「ハナちゃんの顔が禿げても、火傷で引きつれても私がハナちゃんを愛する気持ちは変わりませんよ」
ちょっとズレてるリザが愛を込めて微笑んだ。
「や、やだ〜」
ハゲも火傷も怖いハナが涙目だ。怯えるハナを抱き寄せた。
「ブレスはやめておこうね。ハナは今のままでも強いし可愛いよ」
「うん…」
甘えてきて可愛い。
「ほら、パン食べよう?クリームチーズのパンにはちみつを追加でかける?」
「かける」
即答したので追いはちみつをしてやると機嫌が戻り、私たちもほっとした。
食後、ハナが父さんとリザに撫で回されている間に召喚魔法という名のインターネット通販で『セーラー⭐️キュアガール』のヒロインが持っている魔法のステッキを買った。
ピンク色で金色の星が付いててハナ好みのおもちゃだ。降るとキラキラ光って音が鳴る。夜の間に届くらしいので明日以降のテレビ鑑賞会はこのおもちゃに夢中になってビームとブレスのことは忘れてくれ。




