第329話 ハナとお盆
「おはようカナ、今日も暑くなりそうだね」
「おはようアルバロ、今日も家で過ごそうよ」
「そうだね」
アルバロとハナと3人で暮らすアルバロの拠点は猛暑ではないけれど夏らしい暑さだ。家の中は空調を効かせており、全身がフワモコなハナも快適に過ごせている。
「朝ごはんはパンと目玉焼きに残り物のスープで良い?」
「最高!ラピュタパンだね」
昨日の夜はハナと3人でラピュタを観た。夏休みといえば金曜ロードショーでジブリだから。
映画の途中でハナとアルバロが明日の朝食は絶対にパンと目玉焼きにしてと興奮していたのだ。
「ヨーグルトもあるよ」
「いいね!」
ゆっくりとスープを温めているとハナがのそのそ起きてきた。
「おはようカナちゃん」
「はい、おはよう」
アルバロと交代でハナをわしゃわしゃした。
「じゃあ目玉焼きを焼くよ」
「ありがとう、それじゃあ私はパンを焼くね」
!な顔のハナが私たちの足元でチョロチョロする。
「目玉焼きのパン?昨日言ってたやつ?」
「そうだよ、ハナが食べたがってたラピュタパン」
「うれしー!」
完全に目が覚めて丸い尻尾をぴこぴこさせている。
「一緒にお皿を用意しようか」
「うん!」
目玉焼きを作るアルバロの邪魔になるのでハナをちゃぶ台に誘導した。3人分のお皿とカトラリーを用意しているとアルバロが目玉焼きの乗ったお皿を運んできた。
「お待たせ」
「ありがと!」
ハナが大興奮だ。スープもヨーグルトも準備OKなのでさっそくいただこう。
「いただきまーす!」
ハナが両手でパンを持ってかじりつく。
「んー!」
半熟の目玉焼きが垂れるので慌ててハナのお皿を寄せるとハナがパンをお皿に置いた。
「おいしー!」
「我ながら半熟が上手く出来たよね」
「パンもたまごもおいしーよ」
アルバロとハナが盛り上がっているうちに私もいただこう…半熟の目玉焼きがウマウマだ。
「本当に卵が最高!ありがとね」
「カナが作ってくれたスープも美味しいよ、昨日より美味しくなってる気がする」
「私もスープは作った翌日の方が好き、野菜に味がしみしみになるよね」
「ハナもスープ食べる!」
アルバロと盛り上がっていたらハナがスープにも興味を持ってくれた。
「スープもおいしー」
「よかったね」
大満足の朝食が終わったら後片付けをして、洗濯機を回す。その間にハナの布団を干して、家の掃除。家の掃除が終わる頃には洗濯が終わったので洗濯物を干した。今日もハナがずっと後をついてきて可愛い。
「今日の家事は終わりでいいよね」
「そうだね、じゃあ行こうか」
お盆の間は秘境の家で一緒に過ごそうと父さんたちと前から決めていたのだ。ハナを先頭に父さんとリザの家に行くと盛大に迎えられた。
「ハナちゃん!」
「パパ!リザちゃん!」
昨日も会ったのに今日も10年ぶりの再会のようだ。
「じゃあ行くか」
アルバロ世界の秘境にある我が家に帰ったら最初に向かうのはおばあちゃんの仏壇だ。ハナもここでおばあちゃんに挨拶するものと理解している。
アルバロの拠点で生活するようになってからは父さんたちが毎日来ている。ハナが父さんたちのところに遊びに行くと、父さんたちがハナを連れていき、家庭菜園の手入れをしたりお仏壇のお供えを交換したりしてくれている。
私たちは温室とか力仕事とかを担当することが多いけど毎日ではない。ちゃんとした親とサボりがちな子供みたいだという自覚は少しだけある。いつもデリカシーが足りないとか言ってごめん。
「精霊馬も作ってくれたんだね、ありがとう」
「昨日、家庭菜園で収穫したきゅうりとナスだ。ハナちゃんと一緒に作ったんだ」
「おもしろかったよ」
「…そっか」
愛犬だったハナが亡くなった後はおばあちゃんと父さんと3人でハナのための精霊馬を作っていた。当時も家庭菜園できゅうりとナスを作っていたので、犬だったハナが乗りやすい形のきゅうりとナスを3人で真剣に選んだし、帰りのナスはできるだけ足が遅そうな形にこだわった。少しでも長く一緒にいて欲しかったから。
神様たちの話を聞いていると、その時すでにハナは生まれ変わって別の犬生を生きていたようだ。転生を重ねたハナと小熊の姿でもう一度会えるとは夢のようだ。
感謝を込めて父さんと私は大量のスイーツと料理を作った。お盆前に秘境で収穫した葡萄で作ったワインと一緒に届けて回ったら、全て察しているだろう神様たちは何も言わずに受け取ってくれたし、いつも以上にハナを可愛がってくれた。
「向こうで家事は済ませてきたよ、お腹空いちゃった」
「ハナも〜」
「メシは任せとけ!」
ご飯、汁物、煮物、和え物、漬物の一汁五菜の基本セットが全員の前に並んだ。もちろん精進料理だが真ん中に大皿で唐揚げやシャウエッセン、角煮などが並ぶ。
リザもハナもお肉無しでは食べた気がしないだろうし、愛犬だったハナが亡くなった後は肉肉しいドックフードをお供えしていたからいまさら精進料理にこだわらない。
「すっごい豪華〜!」
いつもと違う食器にハナとアルバロが大興奮だ。
「パパ頑張ったぞ、さあいただこう」
「ありがとパパ!いただきまーす」
ハナに合わせて全員でいただきます。
「おいしー」
ハナは煮物の高野豆腐を気に入ったようだ。
「汁物も煮物も優しい味だね、どんどん食べられるよ」
「煮物と汁物は昆布や干しシイタケなど植物性の食材で出汁をとっているんだ」
「へえ〜!上品だねえ」
「精進料理だからな!」
アルバロが精進料理と肉を交互に食べるといつもより量をいけると言っている。アルバロ、その道はデブに続く道だ。
肉食なリザの箸が進んでいて良かった。父さんのことだから精進料理もリザの分は塩加減とか味付けをリザ好みに調整していそうだ。仲が良くて何よりだ。
「カナちゃん、ハナにシャウとって」
「はいはい」
シャウエッセンは亡くなったおばあちゃんも大好きだったし、シロクマになってから初めて食べたハナの大好物になった。ハナはシャウと呼んで他のソーセージと区別している。
「1本? 2本?」
「2本!…ありがと!」
リザとアルバロが大量の角煮と唐揚げを平らげてと全員大満足なランチが終わった。
「美味しかったね!」
「良かったね」
ランチの後はみんなでトトロを観た。お盆は休むと決めてあるのだ。ハナとアルバロはサツキのお弁当に反応しなかった。2人ともメザシに興味は無いようだ。
「おもしろかったね!」
「そうだね、もうちょっと涼しくなったら裏山で遊びたいね」
「うん!」
トトロで田舎の夏っていいなと思ったけど現実は暑いのだ。
「ずっと座っていて身体が凝ったし、お散歩に行こうか」
「いくー!」
父さんとリザも一緒に行くというので全員でお散歩ダンジョンで走ってモンスターを倒した。
「ハナ、はあはあしてるから休むよ」
張りきり過ぎなハナを捕獲してセイフティゾーンに入った。
泉で手を洗うとアルバロが大きなシートを敷いた上にちゃぶ台と座布団まで出してくれたので全員で座った。
「おやつにしようよ、暑いからアイスを作ったんだ」
「うれしー!カナちゃんのアイス大好き」
大興奮のハナを父さんが抱っこしてくれたのでパフェグラスを出してアイスを盛った。
「アイスは行き渡った?カットしたフルーツはこれ、好きなだけのせてね、今日はゆで小豆もあるよ」
「やったあ!」
ハナとアルバロが大喜びだ。
「ハナはどれがいい?」
父さんからハナを抱き寄せながら聞く。
「いちご!キウイとパインも!」
ハナが欲しがるだけフルーツをのせてやった。
「はいどうぞ」
「ありがとカナちゃん!」
可愛くアイスをぱくん。いちごもぱくん。
「おいしー」
「美味しいよな、カナのアイスは店で食べるよりも濃厚で美味い」
「材料を贅沢に使っているからね、濃厚なバニラアイスと収穫したての甘酸っぱいフルーツの組み合わせが好きなんだ」
「私も好きです」
「先週カナがくれたアイスな、アイテムボックスで複製してリザと2人で毎日食ってるんだ」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
濃厚アイスは神様たちにも大好評だった。
おやつのあと、散歩で大暴れしたハナが昼寝をしたので膝枕していると父さんがハナを抱き寄せた。
「まさかまたハナちゃんと過ごせるようになるとはな…」
「会話も出来るしね」
「同じものを一緒に食べられるのが嬉しいよな」
「これからも一緒に暮らせるんだよね」
「ありがたいよな」
お盆だからか父さんも愛犬だったハナが年老いて亡くなってしまった頃のことを思い出しているようだ。
「今日の夜もハナちゃんの好物を作るぞ。夜もなでなでする」
「きっと大喜びだよ」
昼寝から目覚めたハナと一緒にお散歩ダンジョンをもう一回りしてから家に帰り、家庭菜園で食べごろの野菜を収穫した。立派なとうもろこしにハナが大喜びだった。今年のお盆は実に良いお盆だった。




