最終話 カルソッツのBBQ
「炭はもういいよ」
アルバロの拠点で裏庭の竈門に炭火を起こした。いつもBBQでは火おこしに苦労するけど火魔法があると楽々だった。
「こっちも準備出来ているぞ」
父さんとリザが余裕の表情だ。かなりの量のネギと肉を用意したらしい。
昨日はネギや肉の準備を父さんたちに任せて私とアルバロは裏庭にハナの遊具を組み立てた。
大きなすべり台、平均台、ジャングルジム、ぶらんこ、鉄棒を組み合わせた大規模な遊具だ。大喜びのハナが張り切ってすべっている。
「みてて!」
すいー。
「可愛い〜」
「上手だよ〜」
父さんとリザと4人揃って親バカな自覚はある。
ハナが遊ぶ姿を眺めてきゃっきゃしていたら表の方が騒がしい。
「来たね、僕が迎えに行ってくるよ」
アルバロが神様たちを迎えに行ってくれたので私たちはドリンクや前菜をすぐに出せるように準備した。ハナはすべっている。
すいー。
「ハ、ハナちゃん…」
「…ぐっ」
「なんと愛らしい!」
ゲストの神様たちが裏庭に踏み入った瞬間、ハナがすべる姿が見えたようだ。駆け寄った神様たちにちやほやされてハナがご機嫌だ。
今日のゲストはハナを可愛いく転生させてくれた安産の神の臨水夫人、戦いの女神のカーリーさん、軍神のテュールさん、雷神のトールさん、死神のチョルノボーグさん、熊の守護神のアルティオさん、風神の志那都比古さん、火の神の迦具土さん。
アルバロの幼馴染のクズさんと応竜ちゃん、クズさんとアルバロの保護者の梵天様、応竜ちゃんの保護者の大黒様。
クズさんと応竜ちゃんが子狸や子竜の姿になってハナと一緒にすべると神々は再びキュン顔で胸を押さえた。
「可愛いぞ…」
「…九頭龍も応竜もハナちゃんもいい子だ」
「ビールをどうぞ、あちらのテーブルにワインもありますよ。向こうのテーブルは前菜です。温かい前菜も冷たい前菜もありますよ」
「今日はビュッフェ方式だから好きなものを取ってくださいね。スープはコンソメスープ、中華風コーンスープ、トマトスープの3種類です」
ちびっこにデレデレな神様たちにビールを配りながら声をかけて回る。
「じゃあネギを焼いていくぞ!焼けるまで少し時間がかかるから前菜を食べながら待っててくれ!」
「みんなも前菜をどうぞ、飲み物はミルクもジュースもあるよ」
遊具に夢中なちびっこ3人に声をかけた。好みの飲み物を渡して前菜を取ってやると仲良く並んで食べ始めて可愛い。
「このスープうまいな!」
「ハナもパパのコーンスープ好き」
応竜ちゃんは中華風コーンスープが気に入ったようだ。
「この肉も美味いな!」
「もっと食べる?」
「食う」
父さんがダンジョンでドロップした肉で作ったハムが気に入ったクズさんに大きく取ってやる。
「この後、メインのネギや肉を焼くからね。まだお腹いっぱいにならないようにしてね」
本番はこれからだと釘を刺した。
神々が盛り上がってきた頃、第1陣のネギが焼き上がった。
「焼けたぞ!」
黒く焼けたネギが山盛りだ。本場っぽくお皿ではなく大きな瓦に乗せてある。
「食べ方はこう!黒焦げの部分をぐいっと剥く!」
父さんが右手で真っ黒なネギの上の方を持ち、左手で根の部分を引っ張ると外の黒く焦げた部分がするっと外れた。
「このトロトロになった内側の柔らかい部分にたっぷりソースを付ける。それを頭の上まで持ち上げて、上を向いて口に入れる」
父さんが天を仰いで口に入れる。
「美味い!手が黒く汚れるから浄化する。この浄化魔法ってのは本当に便利だな」
神々がネギを剥いて真似をする。クズさんと応竜ちゃんは子供だけど手が長い。しかしハナの手足は短い…。
「ちょっと待ってね」
あーん。
ハナが口を開けて上を向くのでソースを付けたネギを運んでやる。
「おいしー」
「本当だ!」
「葱がトロトロで甘い」
ハナもクズさんも応竜ちゃんも気に入ってくれたようだ。
「このソースもおいしー」
「父さんの手作りだよ」
オレンジ色のロメスコソースはトマト、ニンニク、ナッツなどが入っている。現地で食べ歩いた父さんによると店によって味が違ったらしい。
「もっと食べる!」
3人とも気に入ってくれたようだ。クズさんと応竜ちゃんは自分で剥くがハナの分は私が剥く。
「はい、どうぞ」
あーん。
「おいしー」
「ソースがこってりしているから食べすぎるとお肉が入らなくなるから気をつけて」
ハナは2本、クズさんと応竜ちゃんは4本でやめておくと言う。周りを見ると神々が手を真っ黒にしてネギを食べている。あちこちから美味い美味いという声が聞こえてきて父さんたちも嬉しそうだ。
豪快にビールを飲みながらネギや肉を焼いている。
「カナさん」
声をかけられて振り向くと焼けたお肉を持ったリザだった。
「ハナちゃんたちにどうぞ」
「ありがとう!」
リザは肉を焼きに戻ったので3人に本場から召喚(インターネット通販)したブティファラと呼ばれるソーセージとラム肉とチキンを取り分けた。
「おいしー」
「ソーセージが美味い!」
「ラムも美味いな」
3人がメインまでたどり着いてよかった。食後に遊具で遊んでくれたらお腹が落ち着いてデザートも美味しく食べてくれそうだ。
「美味かった!」
「呼んでくれてありがとう」
「来てくれてありがとう、遊具でハナと一緒に遊んでくれる?」
「遊ぼうハナ!」
「うん!」
どろん!
クズさんが子狸に化けると応竜ちゃんも子竜に化ける。3人で元気よく遊具に向かって行ったので怪我をさせないように付き添おうとしたら引き止められた。
「梵天様と大黒様?」
「付き添いは儂らに任せろ」
「2人とも全然食べていないし、休んでいないだろう」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
「遊ぶ3人は可愛いしな」
「ありがとうございます!」
お言葉に甘えて私たちもネギを食べることにした。竈門に行くと父さんとリザが焼きたてのネギと肉を渡してくれた。
「俺たちは焼きながら飲んで食ってるから2人は座って食え」
「ありがとう」
さっそくネギを剥いて上を向いて食べるとトロトロで甘いネギとロメスコソースが美味しい。
「美味しい!」
「炭火で焼くと美味しいね」
アルバロと一緒にネギの黒い皮が山盛りになるほど食べた。ブティファラも美味しい。
「父さんの手作りロメスコソースって本当に美味しいよね!」
「まあな、俺の自信作だ!」
── 父さんは今日も謙遜しないな。
「神様たちに喜んでもらえて良かったね」
父さんとリザが大量に用意した前菜もスープもネギも肉も完食に近い。ビールサーバーもワインもかなり減っている。悪酔いする人がいない陽気なお酒で楽しい日だ。
「準備も父さんとリザに任せちゃって、ありがとう」
「今日は俺なりの感謝の日なんだ」
「ハナに再会できてリザに出会えたから?」
「しかもハーレム展開だしな」
父さんがニカっと笑った。
「ハ…ハーレム……?」
「ああ!」
── ああじゃないってば!
「ちょ!父さん!!」
「なんだ?」
「ハーレムってどういうことよ!リザ一筋だと思ってたのに」
「…リザ一筋だぞ?」
「じゃあどうしてハーレムなんて言うの?」
「ハーレムだろ?」
「はあ?」
「リザだろ?」
「うん」
「カナとハナちゃんも女の子だろ?」
「…なっ…ど…どうして私とハナを数に入れちゃうの!?」
「そりゃ入れるだろ、家族なんだから。風呂上がりにビールを飲みながらテレビをつけたら、そういうアニメをやってた。男の主人公を中心に女の子が3人一緒に暮らしててハーレムだって言ってたぞ」
普段観ないアニメをたまたま1話だけ観た時の記憶と思い込みで話しているようだが、ハナと私が父さんのハーレムの一員だとは容認できない。ものすごく嫌だ。しかも自分を主人公に例えるなんて!おっさんのくせに!
「どうして父さんが主人公なの!どう考えてもハナが主人公じゃん!私も父さんもただの脇役だよ!」
私の声に驚いたハナが駆け寄るので抱き上げた。びっくりさせてごめん、うちのハナちゃんは可愛いな!
「カナは酔っぱらったのか?ハナちゃんを驚かせてかわいそうじゃないか」
「飲んでないし…父さんの厚かましさに腹が立ってるだけだし!お酒を飲んでるのは父さんじゃん!」
「まあまあまあ」
「仲良し家族だな!」
さらに興奮して食ってかかろうとしたら酔っ払いの神々に囲まれてなだめられた。
「父親が調子に乗りすぎてて恥ずかしい!父さんのバカ!」
しかし父さんは聞いていなかった。おっさん仲間の梵天様と大黒様と一緒にジョッキを掲げて乾杯してた。虚しい叫びだった。
「カナ」
アルバロにcalmの魔法をかけられ、一瞬で冷静さを取り戻した。
「こっちに連れてきた時は神々に恐縮しっぱなしだったカナが、僕の仲間に囲まれても言いたいことを言えるようになって嬉しいよ」
「無理矢理連れて来られた訳じゃないのに。気にしてたの?」
「そりゃあね、元の世界から勝手に連れてきた責任を感じていたし。さらに成り行きで眷属にしちゃったし」
「嫌じゃないよ。…あんなアホでも父さんを残してきたら心残りだったと思うし」
怒りが再燃してきた。ジョッキを煽ってガハハ笑いが腹立つな…。
「カナ…」
アルバロを困らせてしまった。
「永遠にハナと一緒に暮らせるのが何より嬉しいよ」
「ハナも」
ハナがぎゅっとしがみつく。頭に顔を埋めて吸った。
「アルバロとの生活も楽しいよ。アルバロは働き者だし理想のパートナーだよ」
「そっか」
「アルバロの世界もいいところだしね!」
眷属になって神様たちに初めて会った時は畏れ多くて隠密スキルを習得するくらい怖かったけど、ご近所さんのように接してくれて毎日が楽しい。
「アルバロの眷属になって幸せだよ」
「ハナも」
ハナとひとまとめに抱き締められた。長命になって将来が不安でたまらなかったけど、慣れてみれば眷属生活は快適だ。これからも穏やかな眷属生活が続くだろう。
ご訪問ありがとうございました!
ハナちゃんを可愛がってくださって心よりお礼を申し上げます。冬になってコタツを出した時にハナちゃんを思い出していただけると嬉しいです。




