第326話 レーションの契約
今日は家族みんなで商業ギルドに来た。
「いらっしゃいませ」
クラリッサが仕事の顔で出迎えてくれた。
「クラちゃん!」
ハナが駆け寄って手を伸ばすとデレデレの甘い顔で抱っこしてくれた。仕事の顔はどうした。
「どうぞ案内いたします」
ようやくハナを離したクラリッサが別室に案内してくれた。
商業ギルドと冒険者ギルドと錬金ギルドとの協業なので3つのギルドから集まってくれた。
商業ギルドからは担当のクラリッサ、冒険者ギルドからは王都の冒険者ギルドマスターのパルミラさん。錬金ギルドからは織物が盛んな街のドス・グラントから、わざわざギルドマスターで熊の獣人のマルコスさんが来てくれた。
「マルコスさん!?」
「おう!」
私たちに向かってニカっと笑ってハナに声を掛ける。
「ハナちゃん、久しぶりだな」
「クマのおじさん!」
ハナが駆け寄るとマルコスさんが抱き上げてくれた。
「ドス・グラントから来てくださってありがとうございます」
「他にもいろいろ用事が溜まっていたんだ。久しぶりに王都に来たかったし、ハナちゃんにも会えるしな!」
ハナの頭を撫でるマルコスさんの手が優しい。
ハナがカナのお膝に乗って全員が落ち着いたところで会議が始まった。
「今日のアジェンダは3つです」
クラリッサがファシリテーターだ。
「錬金ギルドにフリーズドライ食品製造の魔道具とぴったり重ねられる均一な容器の登録」
マルコスさんがうなずく。
「おじさんのフリーズドライ食品のレシピとカナのエナジーバーのレシピは商業ギルドに登録」
父さんも私も文句なしだ。
「お湯で戻すだけの状態の食品やカナのエナジーバーは冒険者ギルドで販売」
パルミラさんがうなずく。
フリーズドライの魔道具は錬金ギルドと商業ギルド、冒険者ギルドに販売することになった。
「ギルド同士で話し合って120台ほど欲しいんだが」
「時間をくれ、我が家は兼業農家で春は農作業が忙しいんだ」
「ああ、もちろん構わない。容器もたくさん欲しいが無理ない範囲で頼みたい」
「とりあえず今日はあるだけ置いていきますね!冬の間に内職していたんです」
本当はアイテムボックスでコピー&ぺぺぺぺぺぺぺぺぺ…で増やした。
「同じ理由でフリーズドライ済みの食品も冬の間に作り溜めした。あるだけ置いていくな!」
「助かります」
「容器はリサイクルしましょう!洗って冒険者ギルドに持ち込んだら、買取するんです」
ビール瓶や一升瓶などリサイクル可能なビンを一本5円で買取してくれる日本の仕組みを真似したい。
「ああ、それはいいね。冒険者ギルドで浄化してから商業ギルドに持ち込むよ」
パルミラさんが賛成してくれた。
「それを利用して商業ギルドで再び商品化して冒険者ギルドに持ち混み、冒険者ギルドで販売すれば容器不足にはならないだろう」
誰からも反対意見が出なかったので決まりだ。初回の卸し数をたっぷり用意したし当分困らないだろう。
「レシピの買取はいつものレートで良いとのことですが…」
「構わないよ。駆け出しの冒険者でも気軽に購入できるようにしよう」
「おじさんのレシピは、もっと価値があるんですよ…」
クラリッサが不満顔だ。
「ありがとう。クラリッサちゃんが、そう言ってくれるだろうと予想して家族で相談したんだよ」
「何かあるんですか?」
「冒険者ランクが上のものはたくさん稼いでいると考えていいよな?」
「はい」
「冒険者ランクに合わせて価格を変えるんだ。このビーフシチューとこのビーフシチューはまったく同じ商品だ。内容量も味も素材も同じ。冒険者ランクがBなら1,200シル。冒険者ランクがFなら350シル」
「いいんじゃない?高ランクはもっと高くても良いわよ」
…パルミラさんは冒険者に厳しい。
「確かにそれならおじさんたちにより多くお支払いできますね」
誰も揉めることなく商談が終わった。
「じゃあ容器と魔道具と食品をあるだけ出すね、どこで出そうか」
クラリッサが倉庫に案内してくれて鑑定の担当者が5人も応援に来てくれた。
魔道具を60台、容器を2,000個、父さんのフリーズドライ食品を13,000食、私のエナジーバーを8,000個納品した。
「じゃあ俺たちは田植えがあるから帰るわ!」
数えるの大変そうだな…と横目で見ながら秘境の家に帰った。




