第307話 親バカなリオとリザ
「すべるから見てて!」
すべり台を購入した翌日もハナが張り切っていた。
「今日はパンを焼かないと。明日のパンがないのよ」
「ええー…」
後ろ足で立ち上がって両手で私につかまりながら、しょんぼりするハナが可愛い。
「ハナ、僕と一緒に遊ぼうよ」
「ごめんね、アルバロと一緒に遊んでてくれる?」
ハナがアルバロを振り返ったり私を見上げたりを繰り返す。
「カナちゃんも〜」
「バゲットを焼いて明日の朝食をフレンチトーストにしてあげるから」
「…しょうがないのよ」
フレンチトーストはハナの大好物なのだ。
ハナとアルバロを残してキッチンに向かい、大量のパン生地を捏ねて発酵しまくった。
バゲット、バタール、カンパーニュ、クロワッサン、パンドミ、小麦粉とライ麦粉のミッシュブロート、カイザーゼンメル、フォカッチャ、チャパタ、ベーグルを魔道具と化したオーブンに入れてタイマーをセットした。
「…結構疲れたな」
タイマーをセット済みなので見守る必要は無いから可愛いハナを見に行こう。その前に父さんに連絡だ。
アルバロがスマートフォンを使えるようにしてくれたのでチャットアプリを起動して、1時間ほどでパンが焼き上がるから必要なら取りに来てと送った。後片付けをしている間に既読になってサンキューのデカいスタンプが返ってきてた。
「ハナ〜」
リビングの襖を開けるとハナがブランコに揺られていた。
「カナちゃん!」
「終わったの?」
「全部オーブンに入れたよ。タイマー設定してるから焼きすぎる心配はないから大丈夫。父さんたちに連絡したから後で来ると思うよ」
「そっかー、ハナが今日も可愛いよ〜。さっきまですべり台だったんだ。今はブランコでひと休み」
「本当だ、可愛いねえ」
「えへへー」
しばらくゆらゆらしていたら飽きたようだ。
「すべり台!」
またすべりたいと主張するのでアルバロがハナを抱き上げてすべり台の頂上に乗せた。
すいー。
「今日もハナが可愛い〜」
「えへへ〜」
何度か繰り返していたら廊下の方から話し声がする。父さんとリザが来たようだ。
「カナー!」
ハナがすべる瞬間、父さんが元気よく襖を開けた。
すいー。
「ぐふう」
父さんとリザが崩れ落ちた。
着地したハナが父さんとリザの足元までトコトコ歩いていって不思議そうに見上げる。
「どうしたの?」
「ハナちゃんが…」
「可愛くて…」
2人とも口元を押さえながらぷるぷるしている。
ハナの表情がパッと嬉しそうに変化した。
「えへへー」
「カナが見つけたんだよ!昨日ハナがリオとリザの家に遊びにいっている間に2人で組み立てたんだ」
「アルバロが遊具に合わせて部屋のサイズをリフォームしてくれたの。神様って凄いよねえ」
「たのしーよ」
「ハナ、もう一回すべってみたらどう?」
「うん!」
ハナがカカカカっと爪音を響かせながらすべり台を逆走して頂上にたどり着く。
「いくよー!」
すいー。
ハナは下で待ち構えていた父さんとリザにもみくちゃにされて大喜びだ。まだしばらく遊びそうなのでキッチンに行ってみた。
オーブンを確認すると、すべてのパンが焼き上がっていたのでパン籠に入れてアイテムボックスに収納した。渡す時に出せば焼きたてを渡せるだろう。
収納せず残しておいたバゲットでハナと約束したフレンチトーストを仕込んだ。これも半分は父さんとリザに渡した。




