第301話 裏起毛を売り込み
── 錬金ギルドに来た。
「いらっしゃいませ」
「新しい物があるんだ。売れるか見てもらえるか?」
「承知いたしました」
ギルドカードを確認して奥の部屋に通された。屋内に入ったら、やっとハナが顔を出したのでマントを脱いで、マントをアイテムボックスにしまった。
「お部屋あったかいね!」
「商談が終わったら帰ろうね」
「うん」
ハナが抱きついてきた。甘えん坊で可愛い。
「待たせたな!」
ノックの後、ギルドマスターで熊の獣人のマルコスさんが入ってきた。
「おう!ハナちゃん久しぶりだな」
「ハナを覚えていてくれたんですか」
「お前たち全員、強烈に印象に残っているぞ。冒険者ギルドのネルソンから最近の話も聞いているしな!」
そういえばマルコスさんはネルソンさんと親しかったと思い出した。
「それで?今日はどんな物があるんだ」
「布に動物の毛を合体させる仕組みです。サンプルはこれ。触ってみてください」
3種類作った裏起毛の布を取り出すとマルコスさんが両手でモミモミしたり裏返したりする。
「ほう!これは暖かいな」
「これで服を作ると暖かいんです。特にアウターで効果を感じられると思います。マントにするのもオススメです。あとはこれ」
皮とモコモコの毛を合体させたものを取り出した。
「これでブーツを作ると快適なの」
「ほほう!」
「この魔道具で合成出来るよ。見てて」
アルバロが巨大なパスタマシーンのようなものを取り出す。
「ここに布を通して、毛はこっちの箱の中。このハンドルを回すと毛とガッチャンコされた状態で出てくる…」
毛は刈って洗った状態で入れておくといい感じに布や皮と合体される。
「毛の厚さや状態はここのツマミで調整できるよ」
「ほっほー!」
「このサンプルを置いていくね。マントやブーツを試作して試してみて」
「いいのか?」
「ああ。何日かしたらまた来る」
「できれば門番さんたちに暖かい装備を早めに提供出来たらと思うの」
「この街なら高級メゾンが欲しがるぞ」
「ああ…そういう人たちには割高で、必要としている人には割安で提供したいんだ」
「分かった。その希望も含めて相談してみるから時間をくれ」
1週間後にまた来ることになった。
「じゃあ帰ろうか」
アルバロがハナを抱き上げてくれたので私も立ち上がってアイテムボックスからペットスリングを出した。ペットスリングを肩からかけるとハナが手を伸ばしてくるのでペットスリングを広げてやる。アルバロに支えられながら必死な顔で中に入ってきて可愛い。
「きゅう」
ハナが甘えた声を出して甘えてくる。
「苦しくない?」
「へーき」
大丈夫そうなので裏起毛マントを出してハナごと羽織った。
「…甘やかし過ぎじゃないか?ハナちゃんはウルサスだろう?このくらいの寒さは平気なはずだぞ」
マルコスさんの冷静な意見を聞いたハナが絶対に離れないとばかりにしがみついてきた。
「大丈夫、出さないから」
なだめるようにポンポンする。
「人も寒がりとか暑がりとか個人差があるでしょう。ハナはウルサスの亜種だから標準のウルサスとも違っていいんです。…まあ甘やかしている自覚はあるけど可愛いからいいんです!」
ハナを甘やかす宣言をしたらマルコスさんが、やれやれって顔で送り出してくれた。




