第297話 裏起毛
「カナちゃん、何してるの?」
タブレットで買い物していたらハナがのぞき込んできた。
「毎日寒いから暖かい服を買ったんだ。ハナの毛皮がうらやましいよ」
「えへへー」
ハナをモフっていたら段ボールが届いたのでハナに見守られながら開封した。
「それ?」
「そうだよ」
あまりの寒さに裏起毛の生地で仕立てられた服を買った。強制力でこちらの文化レベルに自動変換されて化学繊維が天然素材になった。安く買ったのに品質がグッと上がった気がする。
「ほら見て、裏側がモコモコしてるでしょう?」
裏返して見せるとハナが顔を突っ込んできた。
「やわやわ〜」
「ね、いい手触りだよね」
お高いカシミアのような手触りだ。カシミアもピンキリで本当に良いカシミアの手触りは素晴らしいからハナも気に入ったみたいだ。
「ハナもほしい〜」
後ろ足で立ち上がって両手でゆさゆさしてくるハナが可愛い…。
「ハナはお洋服を着ないけど、どんなものがいい?」
「わかんない」
「そっかー」
何が欲しいか分からないけど、このすべすべ&やわやわを堪能したい気持ちは分かる。
「アルバロが帰ったら相談してみようか」
「うん!」
「……という訳」
神々の寄り合いから帰ったアルバロに買った服を見せて経緯を説明した。
「へえー!表は普通に厚い生地で裏側がモコモコだね!手触りも滑らかでいいね」
「冬に助かるんだ、こっちに召喚したら天然素材に変換されて超高級な手触りになっちゃった。カシミヤみたいだよね」
「カナたちの世界のカシミヤってどんな素材なの?」
「軽くて手触りが滑らかで暖かくて高価な織物。繊維の宝石とも呼ばれているかな。山岳地帯に生息するカシミヤ山羊の毛で織った毛織物だよ。綿毛みたいな、冬の下毛で織るから手触りが最高なの」
「へえー」
アルバロがハナをチラチラ見てる。
「ハナの毛を刈っちゃだめだからね!」
「……そんなことしないよ」
間が怪しい。ハナちゃんの下毛はふわふわなのだ。
「こんな感じの柔らかい毛を裏打ちした布を作りたいってことでいい?」
「うん」
「心当たりはあるよ。北東部に生息するノーザン・シープは現地で一般的な家畜なんだ」
「柔らかい羊毛が取れるの?」
「そう、最高級品だよ」
「北西部は雪兎。羊くらい大きい兎なんだ。こちらもいい毛が取れるよ。もっと北に行くとプランプリー・ゴートって山羊がいる」
「プランプリーってplumplyのことか、“むくむく”とか“ふっくら”とか、そんな感じの意味だっけ」
「そうそう!プランプリー・ゴートのシルエットって、すごく丸いんだけど本体は小さいんだ。ほぼ毛皮」
「へえー!それはいいね」
「本体が小さいし食べても美味しくないので家畜化されていないから捕まえに行くよ!」
「そこから!?」
真冬に最北端に行くことになった…。




