第296話 雷雪
新年早々、吹雪だった。雷まで鳴っている。
「雷雪って言うらしいよ」
発達した積乱雲から降る、雷を伴った雪のことで、日本では北海道や日本海側で発生するらしい。
ガラガラッ!
「ぴいっ」
ゴロゴロゴロ!
「きゅう〜…」
ピッシャーン!!
「ひんひんひんっ」
雷が鳴る度に震えながら悲鳴をあげるハナ。
「ハナ、ここはアルバロが守ってくれているから大丈夫だよ」
しがみつくハナを抱きしめながら宥めるが外の音に怯えて聞こえていないようだ。夕飯の途中でゴロゴロ鳴り始め、食事どころではなくなってしまった。
ひんひん鳴くハナを抱きながら片手でスマホを操作、雷雪について調べた。
── 冬の雷は夏の雷の100倍以上に達する凄まじいエネルギーを持つ。
……マジか…もの凄い音だと思ったら実際に凄かった。確かにこの音は怖い。
「ハナ、私と一緒にもう寝る?ここでみんなと一緒がいい?」
「一緒がいい〜」
添い寝して寝かしつけたところで雷の音で起きてしまいそうなので、しがみついて鳴くハナを抱っこしてぽんぽんする。
「ここには落ちないようにしてるから大丈夫だよ」
「ありがとうアルバロ、でもそういう問題じゃなくて音が怖いみたい」
「あぁ〜、音は防げないなあ」
「愛犬時代から雷が苦手だったもんなあ」
父さんがお茶を淹れてくれた。
「花火もダメだったよね」
「花火大会の日もひゃんひゃん鳴いてたな。うっかり逃げ出して行方不明にならないように花火大会の日は早めに散歩を済ませて家から出さないようにしていたっけ」
ハナを溺愛していたおばあちゃんが近所の花火大会のスケジュールを管理してハナを守っていた。
「本能で怖いんだもん、怖がるなって言っても無理だよねえ」
しがみついて震えるハナをぽんぽんする。
「アルバロ、なんとかならないか?」
「人の多い場所で災害にならないように、あえて秘境で雷や吹雪を発生させているから…」
ここで雷が鳴っている理由があった。
「無理だよねえ」
「…ごめん」
「ダメ元で聞いたんだ、無理言って悪いな」
「ハナ、雷はおへそを隠しちゃえば怖くないよ」
「きゅう〜」
鳴いてしがみつくハナをみんなで宥めていたら泣き疲れたハナが寝てしまった。
「今日は温泉の代わりに浄化魔法にしておくよ。みんなはゆっくりしてて」
「もう寝るのか?」
「私はまだ眠れそうにないけどハナに添い寝するね、おやすみ」
先に寝室に下がると断ってハナに添い寝したが、まったく眠くないのでスマホとイヤホンで映画を観た。外はまだ荒れており、ゴロゴロしている。
映画を見終わってネットニュースを見ていたら眠くなってきた。ハナが起きる気配がないので寄り添って寝た。
「……ん?」
何かが顔をこしょこしょする気配がして目が覚めた。
「カナちゃん」
こしょこしょしていたのはハナだった。
「おはよう…早いね」
寝入ったのが早かったので目が覚めてしまったのだろう。窓の外を見ると吹雪いているが雷は鳴っていない。
「もう雷は鳴っていないね」
「怖かったのよ」
「そうだね、大きな音だったねえ」
ハナを抱き寄せて撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
ハナをベッドに置いて顔を洗ってから戻るとアルバロが起きており、ハナを撫でていた。
「おはようカナ」
「おはよう、起こしちゃった?」
「僕はもともと少しの睡眠で充分だから」
そうだった。うらやましいショートスリーパーめ。
「ハナお腹すいちゃった」
「昨日は晩ごはんの途中で雷だったからね。リオがハナの朝ごはんを用意してくれていたよ」
「食べる!」
「じゃあ行こうか」
アルバロがハナを抱っこで運んでくれそうなので、先導してドアを開けようとしたら引き止められた。
「ちょっと待ってカナ」
「何?どうしたの」
アルバロの治癒魔法に全身を包まれた。
雷に怯えるハナにしがみつかれて肩や腕に穴が空いていたことを思い出した。
可愛いけど熊なので力いっぱい掴まれれば爪が刺さって結構痛い。後で自分で治癒魔法をかけようと思っていたけど痛みに慣れてしまい忘れていた。
今も温泉旅館の浴衣を着ているので見えないはずだけどアルバロは気づいていた。
「…ありがとう」
「うん、じゃあ行こうか。ハナ、今日のメニューは鮭のおむすびと具沢山のお味噌汁って言ってたよ」
「鮭!」
アルバロに抱かれたハナがご機嫌だった。私は見えないところまでアルバロに守られているようでくすぐったい気持ちになってしまった。




