第293話 大晦日の格闘技番組
「いやあ、すまんな!」
「大晦日を楽しみにしていたのだ」
軍神テュールと雷神トールが大晦日の格闘技番組を観にきた。
テュールさんとトールさんは頻繁に我が家でテレビを観ている。お目当てはボクシングやらプロレスやら地球の総合格闘技なんかで今では格闘技好きな近所の高校生男子のような存在だ。
初対面の時は偉い神様たちだと緊張したけれど我が家で頻繁にテレビを観てご飯を食べてゆくのでお互いにすっかり慣れてしまった。今日は裏山温泉で一緒にテレビを観ながら肉を食べる。
「2人ともすっかり格闘技にハマっちゃって」
「アルバロはハマらんのか?格闘技がスポーツとして成り立つというのは平和な証拠だぞ」
「ワシらの世界はまだまだだ」
「そうだねえ、こうして一緒に観るのは楽しいけど2人ほど熱中はしないかなあ」
テュールさんとトールさんの世界では強さイコール権力らしい。2人の間を行ったり来たりするハナを交代でモフりながら説明してくれた。
「ハナちゃんは今日も可愛いな!」
「毛皮もふかふかだ。ハナちゃんは大切にされているんだな」
「えへへ〜」
モフモフされて嬉しそうだ。
「皆さんの加護のおかげて怪我もなく過ごせているからな!今日はたくさん食っていってな」
「リオ」
「すまんな」
「ほらほらテーブルに集まれ」
父さんは偉い神様達を近所の悪ガキ扱いだ。今日もたくさん肉を用意していた。
「今日はすき焼きとしゃぶしゃぶだ。ハナちゃんがダンジョンで獲った高級肉が1トン以上あるからな!」
「ハナちゃんは凄いな!」
「偉いぞ!」
「えへへ〜」
テュールさんとトールさんにたくさん撫でてもらって満足したハナを隣に座らせた。
「すき焼きは甘辛い味付けだ。卵を溶いて準備しておけよ」
素直なテュールさんとトールさんが高速でかしゃかしゃ卵を溶く。ハナの分は私が溶く。
お鍋にお肉を入れてさっと焼き目をつけたらいったん取り出す。長ねぎ、しらたき、椎茸、焼き豆腐、春菊をいれて割り下を注ぐ。
長ネギにじっくり火を通すと美味しいよね。様子をみながらお肉を一枚ずつ戻してゆく。
「そろそろいいぞ、どんどん食ってな!」
父さんの合図で食べ始める。
「美味い!肉も長ねぎも美味い」
「ああ美味いな!」
テュールさんもトールさんもすき焼きを気に入ってくれたようだ。リザが凄い勢いでお肉を食べている…食べているというかゴクゴク飲んでいるようなスピードだ。ハナはマイペースに食べている。
自分のペースを崩さないという点でリザとハナは似ている。
「しゃぶしゃぶの鍋は半分が麻辣出汁で、もう半分が昆布出汁だ。好きな方でしゃぶしゃぶしてな。しゃぶしゃぶしたら好きなたれで食うんだ」
たれはポン酢、ゴマだれ、和風な鰹出汁のたれ。全部父さんの手作りでどれも美味しい。
「ハナは昆布出汁でしゃぶしゃぶするといいよ、麻辣は辛いからね」
「うん!」
ハナがフォークに刺したお肉を昆布出汁でしゃぶしゃぶしてポン酢で食べる。
「これ、おいしー」
「気に入った?」
「うん」
ハナに食べさせたり灰汁をすくったりする合間に私も食べる。── うん美味しい。ダンジョンのお肉も家庭菜園の野菜も美味しい。
「アイテムボックスってのは便利だよな!あらかじめ全部収納しておけば台所と行ったり来たりせずに済む」
「器ごと複製できるのも良いよね!」
「そうだな!肉を盛り付けた皿を100皿用意してアイテムボックスに入れておけば鮮度抜群の状態でどんどん出せるしな!」
「空になったら浄化して収納すれば良いんだもん!後片付けも楽だよねえ」
アルバロ達が授けてくれた能力に大満足なリオとカナだった。
「ほら、アルバロもテュールさんもトールさんももっと食べて!」
「食べ盛りだろ?いろいろ便利な能力を付けてくれたおかげて準備も後片付けもバッチリだから遠慮すんなよ!」
せっかくアルバロの世界で無双したり大富豪になれる能力を授けたのに家庭菜園や食事の支度や掃除など、家事にしか役立てようとしないリオとカナ親子に生ぬるい視線を注ぐ神達だった。




