第286話 アルバロの溺愛
レーションについてクラリッサに丸投げしてから少し経つが次のステップに進むにはまだ時間がかかるだろう。春ごろに進展させると言っていたので引き続きアルバロの拠点で過ごしている。冬の間は冬ならではの課題が多くてギルドも忙しいらしい。
今日は朝食の後、アルバロと手分けして拠点の家の掃除をしている。
「アルバロ〜、向こうは終わったよ」
キッチンの掃除を終えてアルバロに声をかけるとソファーを見下ろしてデレデレ笑っていて不審者だ。
側に寄ってアルバロの視線を追うとソファーにハナが落ちていた。落ちていたというか座面に大の字で眠っている。へそ天だし、何もかもおっ広げて大の字であられもない。
「昨日の夜はリオとリザが来てたからね」
いつも通りハナは父さんとリザに溺愛された。はしゃいだハナがなかなか寝てくれず困った。
遅く寝たのに今朝はいつもの時間に起きたので睡眠時間が足りず朝食後に眠ってしまったようだ。
お腹がゆっくり上下しているから眠っていると分かるが、何も知らずに見たら無造作に投げ出されたぬいぐるみに見えるだろう。
「お人形さんみたいに可愛いよね」
アルバロがさらにデレた。
「分かる!」
もちろん異論はない。
「もともと可愛いハナを可愛く転生させてくれた臨水夫人に感謝だよ〜」
愛犬時代も可愛かったけどハナは生まれ変わっても可愛い。前から見ても後ろから見ても横から見ても上から見ても、どの角度から見ても可愛い。
「このままじゃ、また風邪をひいちゃいそうだから何か掛けてあげてよ。私は洗濯物を干してくるね」
「分かったよ」
ブランケットを手に取ったアルバロとハナを置いて洗濯物を干しにいった。天気が良いのでよく乾きそうだ。
全部干して戻ると、ソファーに座るアルバロに抱っこされたハナがマグカップを両手で持ってお水を飲んでいた。
「このお水、おいしー」
「ハナのために北の地方から取り寄せたんだよ。まろやかで美味しいって評判の湧水」
「ありがとー」
寝起きだから美味しいのではなく本当に美味しいお水だった。アルバロはよく「カナがハナを甘やかしている」と指摘するがアルバロの溺愛もなかなかだった。
数日後、アルバロが裏山に行っている間にハナといちゃいちゃした。
「可愛いいぃぃぃぃ〜」
溺愛のあまり言葉が乱れてしまったが誰も見ていないので気にせず抱きしめてすりすりした。ハナはご満悦顔でされるがままだ。
「ああ…もう可愛いなあ、ハナが可愛いぃぃぃぃぃ〜」
ハナの頭に顔を埋めてスーハー吸っていたら視線を感じた。
── 恐る恐る振り返ると生暖かい表情でアルバロが私たちを見ていた。
「………見てたの?」
「うん」
アルバロの眼差しが生暖かい。
「………いつから…?」
「30分くらい前からかな」
──最初からじゃん!もっと早く声をかけてよ!
デレデレのキモ顔を30分も見られていたと知って逃げ出したい…。
「カナがハナを溺愛してるのって、すっごく可愛いよね!」
「…へ?」
「カナもハナもお互いを好きって気持ちが溢れてて可愛いよ」
アルバロがニッコニコだ。
──ふーん…そうか。アルバロはデレデレなキモ顔の私も可愛いと思っているのか。そーかそーか。
悪い気はしないカナだった。




