第284話 熊の守護神アルティオさん
本格的な冬を前に熊の守護神アルティオさんが訪ねてくれた。
「ハナちゃんは去年も冬眠しなかったわよね」
「うん」
アルティオさんがハナを抱き上げる。
「寒くなってきたけど元気そうね。とっても健康だわ」
「でもハナは寒さが苦手なんです。ハナの種族は温暖な地域に生息してるらしいし心配です」
冬はこたつにあたってばかりだ。それも可愛いけど。
アルティオさんがハナのお腹を両手でモミモミする。
「ちゃんと皮下脂肪も増えているし、毛皮も厚くなっているから普通に過ごせるはずよ」
「おこたが必要なの」
ハナが真剣な表情で訴える。
「ハナがお散歩をサボらず良い子にしてればおこたは片付けないから」
「行きたくない日もあるのよ」
「だめ。そんな日は必ず夜になってヒャンヒャン鳴くんだから」
「………」
確かにお散歩をサボった日の夜は暴れたい欲求が湧き上がってたまらなくなる。お外に行こうとヒャンヒャン鳴いてねだったことが何度もある。“そんなことないもん”と言いたいけど否定できないハナだった。
「そうやって深夜にお散歩した次の日は朝も起きられないでしょう?」
「………」
その通りなので反論できないハナ。
「ダンジョンまでは抱っこでいいから、ね?」
「…うん」
── 甘やかしている自覚はある。自覚はあるけどペットスリングの中で甘えるハナは可愛いのだ。
「ハナちゃんは大切にされているのね。それに聞き分けがよくて良い子ね。ちゃんとお散歩に行く約束が出来て偉いわ」
アルティオさんがハナの頭を優しく撫でる。
「……」
こう言われてしまうとワガママを言いにくいハナだった。
「ハナちゃんが無事に冬を過ごせそうで安心したわ」
「わざわざ来てくださってありがとうございます」
「いいのよ。久しぶりに会いたかったし」
アルティオさんがハナの全身をモミモミする。文字通りゴッドハンドの手によるモミモミでハナが骨抜きだ。
「アルティオさんは熊の守護神ですけど食べ物の好みが熊に似ている訳じゃないですよね?」
「似てるわよ。私好みに創造したんだもの」
念のため聞いてみたら味覚も熊だと自己紹介された。
「はちみつは?」
「大好物よ」
「ナッツや栗は?」
「それも大好物ね」
「フルーツも?」
「もちろん大好きよ」
おやつの時間なのではちみつのマドレーヌ、マロングラッセ、ナッツのクッキー、フルーツの盛り合わせを出した。
「凄いわ!私の大好物ばかりよ!」
「全部ハナの好きなやつ!」
アルティオさんとハナが興奮している。
「飲み物はどうされますか?」
「そうね…ハナちゃんは?」
「ミルクティーにして!」
「いいわね、私も同じものを」
とっておきの茶葉を使ってお鍋で丁寧にロイヤルミルクティーを淹れた。
「どうぞ」
「ありがとう」
「ハナのは温くしたよ」
「ありがとカナちゃん!」
「アルティオさんは好きな物を自由に取ってくださいね。アルバロもいつも通り自由に取ってね。ハナは全部を少しずつでいい?」
「うん!」
一度にたくさん食べられないハナに少しずつ盛り付けてやる。
「ありがと!」
ハナはマロングラッセから。お手手で可愛く摘んでぱくん。
「おいしー」
「本当に美味しいわ。栗もナッツも美味しいわ…」
アルティオさんが味わってくれて嬉しい。アルバロもいつもの笑顔だ。
「お土産に詰めますから時間停止で保存してくださいね」
重箱にスイーツ、籠にフルーツを盛り付ける。ナッツのはちみつ漬けは大きめの瓶ごと。
「カナ…」
何か考え込んだアルティオさんがボフン!と変化した。
「すっごく可愛い…」
大人のアルティオさんが熊耳と熊尻尾付きの高校生くらいの美少女に変化した。妹みたいで可愛い。子供の頃は幼馴染の仲良し姉妹がうらやましかったのだ。
「カナ、たまにおやつを食べに来てもいい?」
「大歓迎ですよ!」
「嬉しい!」
「その姿の時はアルティオちゃんて呼んでもいい?」
「いいわよ!」
アルティオちゃんが可愛い!
「お土産を追加しましょうね。ロールケーキは好き?」
「好きよ!」
「ミルクレープは?」
「食べる!」
「あざとい…」
せっせとアルティオちゃんへの貢物を積み上げていたらアルバロがつぶやいた。
「こう見えて1,000歳を超えてるからね!」
「アルバロったら意地悪なこと言わないの。超可愛いじゃん〜」
「カナは騙されてるってば!ロリばばあだからね!アルティオは頻繁に来ないでよ!」
「カナが良いって言ったもの」
アルティオちゃんがプイッとした。
「ここはカナとハナと僕の家だけど敷地は僕の拠点だから!」
さんざん言い争ったアルバロが魔法でいい感じに出禁にしたのでアルティオちゃんは頻繁に来ることが出来なくなった。月一くらいの頻度で解除されるらしい。
熊耳と熊尻尾のアルティオちゃんも可愛いけどアルバロのやきもちがちょこっと嬉しかった。




