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第280話 父さんのレーション

 その日の夕食は父さんとリザが作ったお湯で戻すレーションの試食だった。


「じゃあ戻すぞ」

 父さんがお湯を計りながら注いでゆくと湯気と共に美味しそうな匂いが広がる。


 ビーフシチュー、ポークビーンズ、チキンのトマト煮、クリームシチュー、ポトフ、ミートボールのトマト煮込み、ラタトゥイユ、ミネストローネ、イタリア風の牛すじ煮込み、豚肉とキノコのデミグラスソース煮込み、ロールキャベツのスープ煮…全部汁っぽい。


「全部汁っぽいね」

「お湯で戻すから多少お湯を入れすぎて失敗しても塩を足せばなんとかなるだろ」

「そっか!さすが父さんだね」

「まあな!」

父さんはこういう時に謙遜しない。


「カナちゃん、ハナにミートボールとって!」

「はいはい」

 ミートボールのトマト煮込みをとってやるとスプーンで上手に食べた。


「おいしー」

「ハナちゃんに気に入ってもらえたか!ミートボールを小さく平たく作ってお湯で戻しやすくしてるんだ」

「へえ!アイディアだね」

「まあな!」



「…うん、全部美味しいね」

「僕も好き」

 試食なので全種類を試したら本当に全部美味しかった。


「じゃあ全部を商品化でいいか」

「いいと思う!」

全員賛成だった。


「保存方法だけど、以前試作した魔道具は使えそうかな?」

「使える。今日のレーションは全部あの魔道具で作った」


 以前作ったのはフリーズドライ食品を作る魔道具だ。下準備として平らな容器に料理を平らに注ぐ。── 薄く平らであることが美味しく戻すコツだ。ぶ厚い部分があるとそこだけ戻らない。



平らな容器ごと箱型の魔道具に入れてボタンを押す。


1. 料理を凍結させる。

2. 凍った料理を真空状態にする。

3. 乾燥させる。


 この3工程が完了するとチーン!と音がする。イメージは電子レンジだ。


「容器はインターネット通販で召喚したアルミの弁当箱だ」

 父さんが空っぽのお弁当箱を取り出す。


「こっちの世界の仕様に変換されて鉄製でちょっと重いが、こっちの世界では誰もが大なり小なりアイテムボックスを持っているから重さは気にしなくてもいいだろう?」

「うん、いいと思う!」

アルバロが大喜びだ。


「じゃあ売り込みに行くか!」

「明日は家庭菜園と裏山の温室の世話をしたいから明後日以降にしない?」

「そうだな!売り込み先はクラリッサちゃんのところでいいよな?」

「いいと思う、クラリッサが喜ぶよ」




 翌日、父さんとリザとアルバロが裏山の温室、私とハナが家庭菜園の担当になった。秋も深まり家庭菜園はあまりやることがなかった。


「終わっちゃったね」

 私の横でフンフンして一緒に仕事をした気になったハナがやり遂げた風に言った


「じゃあクラリッサのところに持っていくのを作り足そうか」

「カナちゃん、なに作るの?」

ハナの尻尾がぴこぴこ揺れて可愛い。

「ビスケットとキャラメル」

「うれしー!」

どちらもハナの大好物だ。



「ビスケットは甘くないのと甘いのを作るよ。甘くないのは父さんが作ったレーションの煮込みと一緒に食べるやつね」

「パンの代わりだね!」

「そうだよ」

 うちのハナちゃんは可愛い上に賢いな。思いっきり撫でてやった。



 薄力粉と粉チーズをフードプロセッサーに入れて軽く混ぜる。バターを入れてバターがそぼろ状に混ざったら溶き卵を入れてまとまるまでフードプロセッサーを回す。


「これを魔法で冷却します」

あっという間に生地が扱いやすくなった。魔法って便利!


 薄く四角く伸ばしてフォークで規則的に穴を空けてから長方形にカットして焼いた。甘いビスケットも似た手順で焼いた。見た目で味付けが分かるよう甘い方は正方形にした。



「次はキャラメルね」

 リッチな材料は使わずに、どこにでもある材料で作ることにした。


 牛乳、砂糖、バターをフライパンにいれて弱火でじっくり温める。焦げないように常にヘラで混ぜ続ける。だんだんヘラが重たくなってくるので、頃合いをみてクッキングシートを敷いた容器に平らに流して冷ます。


「甘いにおい…」

ハナが目を細めてフンフンする。


「冷めたら食べてみようね」

「うん!」


 キャラメルが冷めたら食べやすい大きさにカットしてワックスペーパーで包んだ。


「ビスケットも冷めたね」

「アルバロとパパとリザちゃんのとこに持ってこ?」

 今すぐ食べたい気持ちをこらえて皆んなで食べようと提案するハナがいい子で可愛いのでぎゅっとしてからビスケットとキャラメルを持って温室に向かった。



「パパー!」

 温室でハナが駆け出すと父さんが出てきてハナを受け止めた。

「あのね、一緒におやつ食べよ」

「ハナちゃんに誘ってもらって嬉しいぞ」

 父さんがハナをぎゅっとして手荒にモフった。



 アルバロとリザも揃ったのでテーブルにビスケットとキャラメルを並べる。

「以前、父さんが研究のために取り寄せたレーションにビスケットとキャラメルが入っていたでしょう」

「そういえば入っていたな!」

「長方形が粉チーズ入りで甘くないビスケット、正方形は甘いビスケットだよ」


説明しながらハナの手を浄化した。


 少し前にハナが進化して私では浄化できなくなった。アルバロが管理職の神々に相談したら最初はダメと言われたらしいけど、『汚れたおててでご飯を掴んで食べたらハナがお腹を壊しちゃう…』と悲しそうにつぶやいたら例外で認めてくれたらしい。動物好きな管理職の皆さまありがとう。



「これは食事に合いそうだな」

「長方形や正方形だから5枚1組とかで重ねたら数えやすくて収納もしやすいと思うんだ」

この形状は父さんが取り寄せたレーションを真似した。


「おいしー」

「ハナはキャラメルが気に入った?」

「うん!」



 ビスケットも好評だったのでクラリッサに提案することになった。

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