第268話 見知らぬイケおじ
キッチンから戻るとこたつに見知らぬイケおじがいた。
「ちょ!」
「アルバロの知ってる人?」
「梵天様!」
「…梵天様ってアルバロの育ての親の?」
以前、クズさんがアルバロとクズさんは幼馴染で梵天様のもとで共に育てられたと言っていた。梵天様は眼鏡男子系イケオジだった。
「そう…って、九頭龍まで!」
イケおじは子狸のクズさんを抱いてこたつにあたっていた。おこたが気に入ったのか子狸なクズさんの顔が気持ち良さそうだ。
「これは快適だな。冷たかった足先が温まって心地良い」
「来るなら来るって事前に知らせてよ」
イケおじがぷいっとした。
「梵天様!?」
「待っていたのだ」
「…梵天様?」
「それなのにお前は眷属や九頭龍たちとばかり楽しそうにしおって」
「のぞきですか?」
「み、見守っていたのだ!」
態度も声も震えている。目が泳いでいるし、後ろ暗い気持ちがあるのだろう。
「ハナお腹すいた〜」
アルバロが育ての親の梵天様と言い争っていたらハナがぐずった。
「ごめんごめん、ご飯にしようね」
ハナを抱き上げてポンポンした。
「クズさんは食べていくでしょう?梵天様もいかがですか」
「カナったら甘いよ」
アルバロが渋い顔だ。
「久しぶりなんでしょう?」
「たった2年前に会ってるし」
「せっかく会いに来てくれたんじゃん」
アルバロの愚痴に付き合いながらさっさと配膳した。クズさんは子狸から子供に変化して1人で座っている。
「サラダとスープと取り皿は行き渡りましたね、お肉はお好きに取ってください。じゃあいただきまーす」
「ます!」
ギスギスした神様たちは放っておいて食べることにした。
「カナちゃん、お肉とって!」
「はいはい。どれがいい?ウイングはどう?コラーゲン豊富で旨味が濃い部位だよ」
「それ食べる!」
ハナに1ピース取ってやり、自分の分も確保して食べ始める。
「おいしー」
「うん、久しぶりに食べるとやっぱり美味しいね」
ハナが両手で肉を持ってかじりついている。熊になったハナは骨を上手に避けて食べてくれるので安心だ。愛犬時代はあげるもの、与え方に気をつけていたけど、今はなんでも食べられるようになった。
そっと神様たちの様子をうかがうと夢中で食べていた。
「12ピース追加しましょうね」
あっという間に無くなると判断して追加で召喚した。
「これ本当に美味しいね!再現できないの?」
「レシピは企業秘密だもん。似たものは作れても同じにはできないよ」
「そっかー」
見るからに残念そうだ。
「また召喚しようよ」
「そうだね!」
話している間に追加分まで無くなりそうだったのでまた召喚した。
「サラダも追加で召喚しましょうね、今度はさっぱり味のドレッシングにしますよ」
シーザーサラダの次にビネガーの効いたドレッシングのサラダを召喚した。
4回追加してやっと神様たちのお腹が落ち着いた。私たちは梵天様とクズさんにつられる事なく普段通り適量で食事を終えた。
「カナの言う通り美味しいチキンだったね、サラダもスープも美味しかったよ」
「サラダとスープは再現できるよ」
「作る時は僕も手伝うよ」
「ありがとう。ハナもお茶でいい?」
「うん」
満腹で辛そうな神様たちを放置して会話を続けた。揚げ物の食事の後は急須で淹れたお茶がさっぱりして美味しい。
「うう…苦しい」
「クズさんたら食べすぎでしょう」
「…美味すぎた」
「向こうの世界で作ったフルーツ大福はお土産で持って帰ってね」
フルーツ大福を詰めた重箱を渡すとクズさんがニコニコで受け取った。
「いつもすまんな!」
「お嬢さん…」
イケおじが何か訴えるような目で見つめてくる。
「アルバロの育ての親の梵天様もどうぞ」
こうなると思ってアイテムボックス内で複製しておいたフルーツ大福入りの重箱を渡そうとしたらアルバロに阻止された。
「アルバロ?」
「のぞきをしない。予告なく僕たちの家に上がりこまないって約束して」
「アルバロは細かいことにうるさいのう」
まったく改める気がないと私でも分かる態度と口ぶりだった。
アルバロから冷気が漂う。
「僕だけならいいけどカナがいるからダメ」
「確かにのぞかれるのは抵抗あるかも…」
「でしょう?のぞき魔にお土産なんて渡すことないよ」
アルバロがぷりぷりしている。確かにここで我慢してしまうと今後も似た場面で小さな我慢が続くだろう。積み重なって自分がキレる予感がした。私のために先回りして言葉にしてくれてありがたい。
「確かにそうだよね、神様ならどこまでも見えちゃいそうだし、家族以外の人が家にいたらびっくりするし寝起きに家族以外の人に会いたくないなあ」
重箱を引っ込めた。
「お、お嬢さん…カナ?」
イケおじが挙動不審だ。フライドチキンで腹パンなのにスイーツへの意欲がすごい。
「梵天様はデリカシーに欠けるよね。カナの嫌がることしないって約束して」
「する!」
食い気味に返事が返ってきた。
フルーツ大福の重箱が梵天様の手に渡った。




