第259話 家族で海釣り
「昨日の裏山たのしかったね!」
ハナは翌日もご機嫌だった。
「そうだね、いろいろ採取できて良かったね」
もう少しすると去年のように鎧蜂が巣を作りにやってくるので冬が来る前にもう一度採取に行く予定だ。
たくさん採れた薬草はアイテムボックスに入れておけば採れたての状態をキープできるから冬の間に錬金することにして今日は裏山温泉で休養だ。たくさん歩いた身体に温泉が沁み渡る。
温泉からあがって家族部屋に行くとみんな集まっていた。
「明日はまた家の用事を済ませる日だっけ」
「そうだな」
家庭菜園や温室や果樹の世話は何日かおきで充分だが養殖しているウニや海老の世話は毎日欠かせない。
「少し時間が余りそうだから海で釣りもしたい」
「いいんじゃない!」
寒くなってくると美味しい魚が増えるので楽しみだ。
翌日、家庭菜園や温室の仕事を終えてから家の前の海に集合した。
「別に競争じゃないから無理はするなよ!」
「うん、釣れるといいね」
釣り竿を持ってここぞと言うポイントに散らばった。自然にできた桟橋のような地形を進むとハナが私についてきてくれて今日も可愛い。
「マッピングスキルを起動して…あの辺に魚群がいるね」
狙いを定めて竿を振るとハイ・ヒューマンの身体能力のおかげで狙った場所に針が沈んでいった。
……しかし魚は賢かった。簡単に釣れてはくれないので何度か餌を変えてみたら食いついてくれた。
「やった!」
「カナちゃん!がんばって」
ハナの応援に応えるべく糸を巻いていたら竿がしなって折れそうだ。
「むむむ…これは不味いかも…」
ちょっと工夫した。水魔法で魚の周りの海水ごと引き寄せた…ズルではない。ちょっとした工夫だ。
「ハナ、水がかかるから少し離れてて」
ハナが距離を取ったのを確認して海水ごとバケツに着地させた。
「もう大丈夫だよ」
バケツの中でビチビチ跳ねて暴れる魚をハナがのぞき込む。
「おっきいね!」
「鑑定してみたら戻り鰹だって」
「食べられる?」
「美味しい魚だよ、父さんに捌いてもらおうね」
「やったあ!」
喜ぶハナを愛でていたら離れた場所の声が聞こえた。
「なんか騒いでる。父さんたちも釣ったみたいだね」
「ハナ見てくる!」
駆け出すハナを見送って再び竿を振るった。
「カナちゃーん!パパきたよー」
「釣れたのか」
ハナが父さんを連れてきた。
「うん、戻り鰹だって」
「なかなか立派じゃないか」
父さんが締めて血抜きをしてくれた。
「ありがとう」
「また釣れたら呼べよ」
父さんが自分のポイントに戻り、ハナは今度はアルバロの方へ駆けていった。
魚を追ってポイントを変えながら3時間ほどでさらに真鯛を4尾釣った。釣れるたびにハナが父さんを連れて来てくれて助かった。
「私は戻り鰹が1尾、真鯛が4尾」
「僕のはこれ」
アルバロの釣果は鰍とカワハギとニシンだった。
「俺とリザは鱸とアオリイカ、秋刀魚、鰯、ニシン、イシガレイだ」
「父さんたちはさすがだね」
自作の防水オーバーオールのような装備で海に入って漁師のようだった。
「ハハハハハ!もっと褒めていいんだぞ」
……この調子に乗りやすい性格が遺伝していないといいなと思った。
「今日は魚を食べるの?」
「ああ美味しく料理してやるからな」
「やったあ!」
ハナが父さんに抱きついた。
我が家よりも広くて設備が立派な裏山温泉のキッチンで調理した。
「秋刀魚は塩焼きで戻り鰹はたたき、アオリイカはフリット、イナダはなめろうにするぞ!」
父さんが見事な包丁さばきで調理した。リザには残り物のローストビーフとローストポークもある。
「凄いご馳走、美味しそうだね」
「たべようよ!」
はしゃぐハナを抱き抱えて家族部屋に向かう。お鍋や食器は全部アイテムボックスに入れておけば運ぶ手間も省ける。
「ご飯もたくさん炊いたから、おかわりしろよ」
「ありがとう!」
漁師町の人気食堂みたいに豪華だ。
ハナはアオリイカのフリットからぱくん。
「おいしー」
熱々で美味しそうだ。
「私はたたきから…これも美味しい!」
「藁焼きの風味がいいね!」
アルバロも気に入ったようだ。
「秋刀魚の塩焼きも美味しいね、シメはなめろうでお茶漬けにしようかな。ハナも食べる?」
「たべる!」
「僕も!」
丼でお茶漬けにしてからハナとアルバロと小さな器で分け合ってごちそうさま。
「おいしかったー!」
「美味しかったね」
今日も裏山温泉に泊まって明日は王都だ。




