第249話 秋の1日
「秋も深まってきたし、少し向こうの世界に滞在しない?」
「冬服の引き取りにも行かないとな」
「去年も必要とされたから魔石もあるだけ売ろうよ」
暖房の魔道具を稼働させるために魔石がたくさん必要になるらしい。
「あのさ…もし、よければ少しでいいから民にお米を売ってもらえない?」
「アルバロ?」
「でもアルバロの世界では米を食わないんだろう?」
アルバロの世界では一般的にお米は家畜の飼料扱いだ。巽たち妖狐の一族はお米を食べる習慣があるけど少数派だ。
「リオのレシピと一緒に広めてもらえたら冬の食糧不足に備えられるかなって。…冬に飢える民を減らしたいんだ」
── アルバロが神っぽい。
「アルバロがそういうなら売り込むか!」
「私たちはアルバロの眷属だもんね」
「ありがとう!リオ、カナ」
「クラリッサちゃんは、もう抵抗無くお米を食ってるよな」
「巽の実家の商店で新米を買ってくれたって聞いてるよ」
「じゃあクラリッサちゃんに話を持っていくのがいいな」
「レシピも付けないとダメだよね」
「何がいいか考えるから少し時間をくれ」
「ありがとう!」
その日の晩ごはんにクズさんが現れた。
「入り浸り過ぎじゃないの?自分の世界は大丈夫なの?」
アルバロが渋い顔だ。
「俺が司る範囲は狭いからな!」
「もうご飯をよそっちゃったし、お小言なら後にしなよ」
「早く食べようよー」
私とハナはクズさんのいる日常をすっかり受け入れてしまった。
「もう〜」
「はい、いただきます!」
「ます!」
今日は豚キムチ丼でがっつりだ。ご飯はたくさん炊いてあるし豚キムチも中華鍋に山盛りあるので、クズさん1人くらい増えてもどうってことない。
「おいしー」
「うまっ!美味いな!」
「クズさんは見かけによらず育ち盛りなんだからたくさん食べて!」
── 私も一口…美味しい。真ん中の半熟卵を崩して絡めて…はい美味しい!
隣を見るとアルバロが無言でかっこんでいた。
「アルバロおかわり?」
「…ん、大丈夫、自分でするよ。カナはゆっくり食べてて」
「クズさんは?」
「食べる!」
── イケメンの姿のまま仕草や言葉が子供に戻ったクズさんが可愛い。
「僕がやるよ」
クズさんの丼を受けとろうとしたらアルバロがさっさと受けとって、さっさとおかわりをよそっている。
「今日のお米はいつもと違うんだな?」
「雑穀米なの。副菜の酢の物、じゃこピーマンとお味噌汁はどう?苦手なものはない?」
「ない。全部美味いな!」
「今日のご飯は僕が炊いたし豚キムチも僕が作ったんだよ」
「アルが作ったのか!?」
クズさんがうつむいてしまった。
「クズさん?」
「アルが作った飯なんて初めてだ。もっと味わって食えばよかった…」
── クズさんが可愛い…見た目はイケメンなのに小さな子供に見えるぞ!副菜とお味噌汁を作ったのは私だというのは黙っておこう。
「じゃあ、おかわりを味わってよ」
「ああ!」
アルバロがクズさんに丼を差し出すとクズさんが笑顔で受け取った。
「美味い!」
「そっか」
クズさんはクールなイケメンを気取らなくても人気と信仰を集めることが出来ると思う。渋い顔だったアルバロもニコニコだ。
クズさんは2回もおかわりして苦しそうだ。調子に乗りやすいところも子供っぽくて可愛い。
「食べ過ぎた…」
「お茶をどうぞ。帰る時に多めに歩いてね。帰宅後にゆっくりお風呂につかったらお腹も落ち着くんじゃない?」
「そうか、そうだな。今日は遠回りして帰るとするか」
「お土産あるから帰る時は声をかけてね」
「豚キムチか?」
「モンブラン」
クズさんが固まった。
「そ そ そ 、 それは…アルが話していた憧れのスイーツか!?」
「今日のおやつに来るかと思ったら来なかったからクズさんの分を取り分けておいたんだよ」
アイテムボックスから重箱を出して蓋を開けてみせる。
「1段に4個、3段重ねだから1ダースね。多いかと思ったんだけどアイテムボックスに入れておけば古くならないし、クズさんの世界の皆さんにお裾分けしてもいいし、良かったらどうぞ」
「カナは俺に惚れさせようとしているのか!?」
重箱を抱き寄せたクズさんが大袈裟だ。
「そんなこと全然考えていないし」
「いつでも嫁にきていいんだぞ」
「青少年保護育成条例に違反するから。私を犯罪者にしないで」
……数ある犯罪の中でも、特に世間に顔向けできないやつだから本当にやめてください。




