第242話 クズさんは恥ずかしがり
新居の夕食にクズさんが現れた。
「ちょ!呼んでないし!!」
アルバロが慌てているが問題ない。
「夕食くらいいいじゃない。リザと一緒だった癖で作りすぎちゃったし」
そう、つい大鍋いっぱいに作ってしまった。ハナとアルバロと3人で完食するには何日もかかるだろう。
「やけに親切だな。カナはもしかして俺に一目惚れしたんじゃないか?いつでも嫁にこい」
「なっ!」
アルバロの温度が上がった。
「無いから」
「照れているのか?」
「信楽焼の狸と結婚とか無いから」
「信楽焼?」
クズさんが首を傾げた。
「ちょっと待って」
インターネット通販で小さな信楽焼の狸を召喚してクズさんの前に置いた。
「滋賀県甲賀市信楽の有名な狸。鏡を見ている気分じゃない?」
「似てない!」
「そっくりじゃん!」
「………上半身はともかく…か、か、か、か下半身が……ハレンチだ」
クズさんが真っ赤になって震えながら俯いてしまった。
「金だから金運アップみたいな意味があるらしいよ。ちゃんと調べたことないんだけど江戸時代ごろは狸のタマタマを誇張して大きく描く浮世絵がたくさんあったんだって。狸のタマタマって落書きでも大きくコミカルに描かれがちだし、そういう影響もあって信楽焼の狸のタマタマも大きく作られているんじゃないかと思ってるんだ。正確なタマタマの由来は調べたことないけど」
「きn…とか…たm…とか…連呼するな……」
真っ赤なクズさんが消えいるように小さな声で絞り出すようにつぶやいた。
本当はアラサーなので初々しさに欠ける私がずけずけ話したらクズさんの限界を超えてしまったようだ。でも伝統文化だし。見たまんまの事実だし。事実を正確に描写してるだけだから恥ずかしくないし。
涙目でぷるぷるしてしまったクズさんの目の前からそっと信楽焼を退けてクズさんにパンとシチューを勧めるアルバロ。
クズさんのことは優しいアルバロに任せて私はハナにパンを取ってやったりシチューを注いでやった。
「おいしー」
「よかったね」
「パンとって」
「どれがいい?」
「うーんとね、コーンのパンがいい」
トングで甘くないコーンブレッドを取ってやった。
「パンもおいしー」
「よかったね」
私もシチューを一口。豆乳で和風のシチューにしてみたけど鮭のうまみでコクが出て美味しくできた。これはおかわりだな。1杯目はバゲットでいただいたから2杯目はトリュフバターの塩パンを合わせよう。
フンフン。
「カナちゃんのパン、いい匂い」
「ハナも食べる?」
「1個はむり」
「じゃあ半分こしようか」
「うん!」
トリュフバターの塩パンを半分こしてハナに渡すと目を細めてフンフンする。
「すっごくいい匂い」
「特別なキノコを使っているんだよ。ケレンカ村でマタンゴを倒したの覚えてる?」
「おぼえてる!」
「あの時にドロップした白トリュフで作ったんだよ」
「すっごく、おいしー」
今日のシチューにも合うパンに仕上がった。焼いている間の匂いも最高なのでまた作ろう。
シチューもパンも満足な夕飯だった。全員がお腹いっぱいで食事を終えてお茶を淹れた。
「あのパンは俺も気に入ったぞ。いつでも嫁にこい」
クズさんが強気に戻った。さっきまで真っ赤になってぷるぷるしてたくせに。
「これあげますから帰ってください」
目の前に信楽焼の狸を置いたら、みるみる赤くなったクズさんが どろん!と消えた。本当に狸なんだなと思った。




