第239話 クズさんの正体
夕食を食べ終わって九頭龍神へ説明を促すような空気になった。
「そんなに頻繁に会ってた訳じゃないのに急にアルバロにべったりなのは理由があるのか?」
私が食後のお茶を淹れて父さんが説明を促す。
「カナ、俺の世界に来ないか?」
涼しげなイケメンにスカウトされた。
「だめって言ったじゃん!」
アルバロが猛反対だ。
「カナの愛するシロクマも歓迎するぞ」
「もう帰ってよ!」
「俺たちの世界はアルバロの世界よりも多様性に溢れて面白いぞ」
「だめだってば!」
「もちろん加護もてんこ盛りにつけてやる」
「帰れ!」
「どうして私なの?」
「菓子が美味かった」
「それだけの理由?」
「充分だろ」
父さんと私の眉間に皺が寄る。
「自分の世界のパティシエを育成したらどうだ?」
「それが手っ取り早いよね」
「………」
クズさんが黙ってしまった。
「九頭龍は自分の嘘に苦しめられているんだ」
クズさんがビクッとした。
「どういうこと?」
「自分の世界の民が祈りを捧げてくれたり、お供えしたりしてくれるじゃん?」
「うん」
「カッコつけて甘いものより蒸留酒を好むって神託したんだよ。下戸のくせに」
クズさんが目を合わせてくれない。
「それで大好きなスイーツをお供えしてもらえないんだって」
父さんと私が「なーんだ」という雰囲気になった。
「今から訂正すればいい」
「お酒じゃなくてスイーツをお供えしてって神託すれば?」
「俺はクールなイケメン神と評判なんだ」
「だから?」
「下戸でスイーツ好きと知られたらイメージが崩れるだろう」
決め顔で言われた。
「ハナはそろそろお眠かな?」
「俺がハナちゃんのお部屋にお布団を敷いてやる」
「私はお風呂を沸かしてきますね」
「待て!」
私と父さんとリザはさっさと解散することにした。
「待てと言っている!これを見ろ」
私たちの前に回り込んだクズさんがボフンと変化した。
「どうだ!可愛いだろう?俺の世界に来たら好きなだけモフモフしていいんだぞ」
クズさんが狸に変化した。なんだか見覚えのある狸だった。
「特別にモフモフさせてやる」
ありがたく片手で触ってみた。
「……」
「どうだ?」
クズさんが胸を反らす。
「やっぱりハナのふわふわの毛皮って特別なんだなって。ハナは世界で1番可愛いよ」
「カナちゃん…」
「可愛い…」
「カナちゃん好き」
九頭龍神をスルーしてカナとハナが見つめあってラブラブした。
九頭龍狸がワナワナと震え出す。
「そうがっかりするな。狸は日本では一般的だし昔話にもよく登場するが世界的に見れば珍しい動物で海外では割と人気らしいぞ」
父さんの言うことは本当で映画『ズートピア』はその国特有の動物をニュースキャスターにしていてオーストラリア版ではコアラ、日本版ではタヌキになっている。ゲームのマリオのタヌキスーツや同じメーカーのどうぶつのゲームに登場する銭ゲバ狸で初めて狸を知ったという外国の人も多いらしい。
「アルバロ、冷蔵庫に入れてある生どら焼き、2人で食べてもいいしお土産に渡してもいいからね」
「ありがとうカナ」
「おやすみー」
狸に化けたクズさんはモフモフって感じでは無く、愛嬌たっぷりな信楽焼の狸によく似ていた。




