第233話(転移編 最終話) アルバロと一緒
「そろそろ綿花を収穫できるよ」
田んぼと葡萄と大豆畑の世話がなくなって楽になった私たちは元気いっぱいで綿花の収穫に向かった。
大豆畑の時のように根っこから丸ごと収納してゆく。雑に収穫できるので楽ちんだ。
まだ暑いのでハナには魔法陣の効果の中にいてもらった。ハナを淋しくないように1日あたりの作業時間は短めにしたし交代で常に誰かが一緒にいるようにした。
数日かかって全部収穫し、アイテムボックスの中で葉くずや茎などを選り分けてコットンだけを取り出した。
「これで布を作って冬物の服をお仕立てしようよ」
「いいね!」
「仕立てるのは時間が掛かるから早めに発注するのはアリだな」
アルバロも父さんも乗り気なのでまだ暑いけど早めのお仕立てが決定した。
「じゃあ冬向けに厚みのある生地を作るね」
お茶畑や養殖場の世話の合間に通って中古の機械で布を多めに作ることにした。ついでにオーガニックコットンのセーターやカーディガンもお仕立てしたくなったので太めの糸も作ることになった。時間があるから布や糸の染めるところからこだわってオーダーするのもいいねと盛り上がった。
アルバロとハナと3人で布や糸を作っている間、父さんとリザは出来立てのワインやドロップ品の肉、収穫したお米や野菜、フルーツを持ってリザの実家を訪ねている。
まだ暑いけれど冬支度は早めに始めた方がいいのでドロップ品の肉で燻製などの保存食を作る方法を教えたり、お米をお裾分けして美味しい食べ方を教えると張り切っていた。久しぶりなのでゆっくりしてきてくれ。
リザたちの一族は最強なので冬に飢えるほど困らない。それでも冬の生活は楽ではないらしい。少しでも快適に過ごせるようになるといいな。
「こっちの世界に来てもうすぐ一年だね。またハナと一緒に過ごせるようになって幸せだよ」
「ハナも〜」
抱き寄せるとハナが甘えてきて凄く可愛い。
「秋になったら裏山で栗を拾ってスイーツを作ろうか」
「栗!?」
ごろごろ甘えていたハナが反応した。アルバロも笑顔だ。
「土台はタルト生地でその上に栗の渋皮煮を乗せて、その上にマロンクリーム、カスタード、ホイップクリームを重ねてマロンペーストをたっぷり絞るの」
「いいね!」
「ハナも楽しみ!」
嬉しい顔が可愛いのでハナをモフモフした。
「ねえアルバロ」
「なあに?」
「私と父さんを一緒に呼んでくれてありがとう。もしも私だけ呼ばれていたら父さんのことが心配で仕方なかったと思う」
「離れ離れって発想はなかったな、ハナの願いは “もう一度家族と一緒に暮らしたい” だったから」
「能力も大サービスしてもらっちゃったし」
「ハナが平穏な生活を送るために必要な能力だからね」
「眷属になっちゃったんだよね?」
「…嫌だった?」
「ハナと父さんとリザとずっと一緒に居られるんだよ、嬉しいに決まってるじゃん」
「僕と一緒なのも喜んでよ!」
ちょっとムキになったアルバロが可愛いく思えた。
「嬉しいよ」
「本当に?」
「本当だってば」
疑わしいものを見るような目で見られている。思い当たる節がなくもないが堂々としておこう。
「眷属かあ…」
アルバロはご主人様っぽくないから実感がわかない。
「ほら私たちの関係って全然変わらないじゃん?もっとこう従属するような強制力があっても良さそうなものだけど」
眷属になったと聞いた後もケーキのおねだりを断っているし、その度にアルバロは神様の威厳ゼロで縋ってくる。
「強制力みたいな権限は放棄しちゃった」
「どうして?」
「対等な関係でいたいから。カナとリオの言いたいことを言い合う関係がいいなって思って。僕も仲間に入りたいって思ったんだ」
「そっか」
「うん」
「権限は放棄できるのに眷属関係は放棄できなかったの?」
アルバロは私たちがアルバロの眷属になっていたことを言い出せずにいたけど、もしかして放棄できたんじゃないのかと思った。
「カナ!」
情熱的に名前を呼ばれてドキッとした。
「僕から離れていかないで…」
いきなりどうした?アルバロのお目々がうるうるだ。神様のアルバロが眷属に捨てないでと縋るのは主従が逆転していない?
「カナのスイーツを食べられなくなるなんて考えられないし!まだ僕が食べたことないスイーツがたくさんあるって言ってたし!カナは怒ると怖いし!」
── 最後の方は完全につまみ食いがバレた時のアルバロだった。
「アルバロ、正直に話してくれる?」
「………」
「アルバロ?」
「昨夜、夜更かししながら映画を観てて」
「小腹が空いたの?」
アルバロがこくんと肯いた。
「冷蔵庫?」
アルバロが肯いた。昨日冷蔵庫に入れておいたおやつの残りのチェリーパイのことだろう。
「チェリーパイ?」
「…食べちゃった」
「別にいいよ、残りものだし。今日は今日のおやつを用意するつもりだし」
アルバロの表情がぱあっと明るくなった。
いつもなら悪びれずに食べるアルバロがこんなに敏感になっているのは映画の影響だろうか。
「どんな映画を観たの?」
「タイタニック」
船首で両手を広げるポーズの映画か。
「ドラマチックだったよ!」
アルバロの好みの映画だったようだ。
「気になってヒロインのローズのその後を調べたんだよ。ローズは身分を捨ててジャックの姓を名乗って1人で生きていくんだ。新しい出会いに恵まれて別の男性と結婚して子どもにも恵まれて…恋人との別れを乗り越えて新しい人生を生きる潔さにカナを思い出したよ」
そういえば、こっちに来る決断をした理由の1つは元カレの浮気だった。
「つまみ食いくらいでアルバロと訣別しようとまでは思わないよ…たぶん」
「たぶんなの!?」
「余ったものならね、ハナが楽しみにしているものはダメ。怒るよ」
拳を握ったらアルバロがキュッと小さくなった。
「これからも一緒にいてくれる?」
アルバロはいいやつだし顔がタイプだし、何よりハナを可愛がってくれている。モテない性格なのは仕方ない…というか私の方こそ可愛げがない性格なのでお互い様だ。むしろアルバロの可愛げを見習いたいし、実は私の方こそ離れがたいと思っている。
「うん」
「嬉しいよ!」
アルバロの真っ直ぐさが眩しい。私に欠けているのはこういうところだ。こんなに真っ直ぐに喜ばれて嬉しくない訳がない。私の顔がしまらないことになっていそうだ。
「収穫も終わったし僕の拠点に行ってみない?」
「いいの?実は興味あったんだよね」
「本当に!?じゃあ今後は僕の拠点で眷属としての生活との二重生活になってもいい?」
「それも楽しそうだね!」
こちらの生活にも慣れてきたし眷属の生活も楽しみだ。ハナと父さんとリザといつまでも一緒にいられるのが最高だ。
ご訪問ありがとうございます。
皆さまの応援のいいねや感想などを楽しみに更新してまいりました。
おかげさまで転移編は一区切りです。少しお休みして眷属編として再開予定です。再開後も毎日更新できるようお休み中に準備したいと思います。
再開いたしましたらまたご訪問いただけましたら幸いです。




