第231話 新米
大豆の収穫の後、少し間をおいて田んぼ一面が黄金色に輝き、刈り取りできるようになった。
「コンバインを買おうかと思ったら高額でな…」
父さんが持つタブレットをのぞいてみたら中古でも1台百万円以上する。
「こんなに高いんだ…。コンバインて具体的に何をするんだっけ?」
「刈り取りと脱穀ができるらしい。脱穀っていうのは籾を分離する作業だ」
「それはアイテムボックスでできるんじゃない?脱穀した後は?」
「脱穀した籾はその日のうちに乾燥機で乾燥させるらしい」
「それもアイテムボックスでできるね。その後は?」
「脱穀と乾燥の次は籾すりだ。籾すりっていうのは籾から籾殻を取り除いて玄米にする工程だ」
「それもアイテムボックスでできるね。その後は?」
「精米だな。玄米から糠と胚芽を取り除く工程だ」
「全部アイテムボックスでできるじゃん」
「コンバインを運転してみたかったんだ」
「アイテムボックスの方が早いよ」
コンバインの購入は見送ることになった。
今回もハナは魔法陣の中にいてもらった。交代で休憩を兼ねてハナと遊びながら1日5時間程度の作業時間で1週間かけて収穫した。
父さんの好きなコシヒカリ、冷めても美味しいからおむすびや稲荷寿司向きのミルキークイーン、お寿司に合うササニシキなどが豊作だった。
「今日たべるの?」
ハナが期待に満ちた表情で父さんに抱きついている。
「ああ、今日は新米を食おうな」
「やったあ!」
我が家に帰ってメニューについて相談した結果、ササニシキでばらちらしに決まった。
乗せる具材もみんなで決めた。まぐろ、サーモン、いか、海老、鯛、こはだの酢じめ、ホタテ、穴子、いくら、とびっこ、きゅうり、厚焼き卵を乗せることになった。ハナにはサーモン多めだ。
調理は父さんにお任せすることになった。
「米は研いでザルに上げて、新米だから水は少なめ。昆布を入れて炊く。酢、砂糖、塩を混ぜ合わせてすし酢を作っておく」
お米を炊いている間に卵焼きを作る。
「溶いた卵に砂糖、塩を混ぜたら熱した卵焼き器に油をひいて卵液を流し入れる」
手早く巻いて次の卵液を加えて巻いて残りの卵液を入れてふっくら焼き上げたら、熱いうちに巻きすで包んで形を整える。
「まぐろとサーモンは1.5cm角に切って醤油とみりんを合わせたタレを絡めて漬けにしておく。ハナちゃんには漬けじゃないサーモンもあるからな」
「ありがとパパ」
その他の具材もすべて切っておく。
「そろそろ米が炊き上がったな」
リオが手際よく片付けながら調理を進める。
「米が炊き上がったら昆布を外して飯台に移してすし酢を回し入れる。団扇で冷ましながら切るように混ぜて艶をだす」
美味しそうな酢飯ができた。
「乾燥しないように水で濡らして絞った手拭いをかけておく」
「今日は舞茸のお吸い物を合わせるぞ」
舞茸をほぐしてお豆腐を食べやすい大きさにカットして三つ葉を切る。
「鍋に昆布と鰹節でとっただし汁を入れて火にかける。煮たってきたら舞茸、豆腐を入れる。酒、みりん、薄口しょうゆ、塩で味を整える」
「舞茸のいい匂い…」
「僕も舞茸好き」
「ばらちらしを仕上げるぞ」
器に酢飯を盛り、具材を彩りよく散らす。
「どこをとっても全部の具が味わえるように具材を置くんだ。ハナちゃんには鮭を多めに…完成だ」
「美味しそう!」
「さっそく食うか」
「うん!」
父さんがお吸い物をお椀に注いで配ってくれた。注ぐ時に三つ葉を添えていい香りだ。
「いただきまーす!」
すし酢の塩梅もちょうど良いし漬けも味が染みて美味しい。
「鮭もマグロもおいしー」
「美味しいね」
お吸い物も香りが良いし出汁が出て美味しい。
「穴子もこはだも美味しいね、漬けも美味しいよ!」
「アルバロも気に入ったか、おかわりあるからたくさん食えよ。後で温室で採れた桃を切るからお腹に余裕を残してな」
肉食のリザも肉肉言わず無言で食べている。みんなで育てた新米も父さんの本気のばらちらしも美味しかった。




