第229話 キラキラの半輝石
どの方向に進んでも特に何もないけど景色が素晴らしいし空気が澄んでいて気持ちが良いので、お喋りしながらあてもなく旅館の周りを歩いていた。
「キラキラしてる!」
ハナが何かに気づいたので近寄って見てみると石が鈍く光っていた。
「アメジストっぽいね」
「きれー」
岩石に埋まっている半輝石の紫の部分が少し露出している状態だ。
「周りの石と分離してみようか」
「うん」
アイテムボックスに入れると原石フォルダができた。原石フォルダを開くと岩石とアメジストの2項目が表示された。
原石フォルダ
┗岩石
┗アメジスト
アメジストだけを取り出すと透明から薄紫のグラデーションが美しい石だった。岩石は捨てた。
「きれいー」
「ハナのアイテムボックスに入れておく?」
「うん!」
気をつけてみてみると周辺に半貴石らしきものが点在しているのが分かった。半貴石はダイヤモンドみたいに希少価値が高くないし硬度も低い石だ。価格も安くて気軽に買えるお手軽な宝石だけど、いろんな色があって綺麗で私も大好きだ。
「この辺りは半貴石がよく採れるの?」
「そうみたいだね。秘境の中だし今まで採りにくる人もいなかったから簡単に見つかるね」
「ハナいっぱいみつけたい!」
キラキラしたものが好きなハナがやる気になった。私も嫌いじゃないから探してみることにした。アルバロは当然付き合うって顔してる。こう言う時に面倒だと嫌がったりしないからアルバロはいいやつだ。一緒に楽しんでくれるから付き合わせるこちらの気持ちも楽だ。アルバロのこういうところは見習いたい。
「カナちゃん、これとって!」
ハナがさっそく見つけたようだ。
「どれどれ」
「アイテムボックスできれいにして」
「はいはい」
岩石の中に半透明の石が混ざるように埋まった石をアイテムボックスに入れると原石フォルダができた。原石フォルダを開くと岩石と水晶の2項目が表示された。
「水晶だって、どうぞ」
「これもきれいー」
喜んだハナが私の手のひらに乗った水晶を鼻先でちょんと触ってアイテムボックスに収納した。
自分でも見つけたくなってマッピングスキルを起動したらキラキラしたエフェクトが表示されたので、表示された辺りを探したら見つけた。
「この辺りの岩ごと収納してみるか」
大雑把に巨大な岩ごとアイテムボックスに入れると原石フォルダができた。原石フォルダを開くと岩石とガーネットの2項目が表示された。
ガーネットだけ取り出してみると巨大な岩の割にガーネットはちょっぴりだった。目を疑うほどちょっぴりだった。
── 俄然やる気になった。
休暇中は新婚の父さんたちと別行動と決めたのでハナとアルバロと3人で気兼ねなく採取することにした。
「そろそろお昼にしようよ」
「ハナもお腹すいちゃった」
アウトドアのテーブルセットを設置してデリバリーのピザを取り寄せた。休暇中は料理をサボると決めたのだ。
「おいしー、チーズとろとろ」
「久しぶりに食べると美味しいね」
期間限定のミート系とシーフード系にサイドメニューの揚げ物とサラダとスープを取り寄せて満腹だ。
食後に採取した石をテーブルに出してみることになった。
「これが私の」
ガーネット、翡翠、ペリドットを出した。
「ハナの」
アメジスト、水晶、ローズクオーツ、カルセドニー。ハナは地面に近いので探しやすいのかもしれない。どれも立派な原石だった。
「僕はこれ」
ムーンストーンとアクアマリンだった。
「いろいろあるね!」
近い場所でこんなにいろんな種類が出るものか疑問が浮かんだけど異世界なのでこれが普通なのかもしれない。
「休暇の間、いろいろ採取してみようか?」
「ハナいっぱい集めたい!」
全員一致で採取することになった。
休暇の間、旅館の建物から遠く離れた場所まで足を伸ばしてキャンプを楽しんだ。父さんたちと別行動だったから旅館に戻らず気の向くままのキャンプは楽しかった。
休暇中は料理をしないつもりだったけどキャンプご飯は別だ。焚き火もキャンプご飯も雰囲気があって楽しかった。
「今日の午後は旅館に戻って明日の最終日は旅館でゆっくりしようよ」
「そうだね」
「ハナ温泉につかりたい」
最終日は旅館に戻って温泉につかり、夕飯はベテラン寿司職人の大将と一流ホテルで修業をしたシェフが共同経営する和と洋の融合がセールスポイントのオーベルジュから取り寄せた。
「お肉もお魚も美味しそう!」
季節野菜のテリーヌ、旬魚の船盛り、和牛のステーキ、大将の握り寿司などが届いた。
「お肉おいしー」
「野菜も味が濃くて美味しいね!」
「僕はお寿司が気に入ったよ」
全員が大満足の夕飯だった。
「ねえ、集めた石を見てみない?」
「出してみようか」
食後のお茶を飲みながら提案したら全員で出してみることになった。
「ハナのこれ!」
ハナが出した原石は色も形も種類が豊富だった。
「どれもきれいだね、家に帰ったらお部屋に飾る?」
「かざる。ハナこのピンクが好き」
ハナはローズクオーツが特に気に入っているようだ。ピンクとキラキラが好きなハナらしい。
「ローズクオーツは優しさと思いやりの心を高めるパワーストーンなんだって、ハナに似合っているね」
モテないアルバロらしからぬ一言だった。
── やるなアルバロ、ハナが喜んでいる。
「私はこれ。小さい石ばっかりだったよ」
残念ながら小ぶりな粒ばかりだが色が濃いものが多くて気に入っている。
「このガーネットはいいね!ガーネットは血流をよくするパワーストーンなんだって」
「よかったね!カナちゃん」
── ハナへのコメントと違いすぎるだろう。やっぱりさっきのはまぐれだ、こいつやっぱりモテないな。
「僕のはこれ」
「きれいねー」
アクアマリン、ムーンストーン、ラピスラズリ、グリーンアメジスト、イエローアベンチュリン、オニキスなど色も種類も豊富だった。
「これはハナにあげる。ラピスラズリは幸運て意味があってグリーンアメジストは身体や心、空間を浄化すると言われているんだよ」
「ありがとー」
ハナの肉球にラピスラズリとグリーンアメジストを乗せてやるとハナが大喜びだ。
「アクアマリンには幸せな結婚、ムーンストーンには愛を伝える石って意味があるんだよ。だからこれはカナにあげる」
「…ありがとう」
クソコメントからの恋人っぽいプレゼントにびっくりだった。動揺したまま休暇は終わった。




