第228話 避暑
8月に入り暑さが増した。
最近は昼間の暑い時間を裏山のログハウスで過ごすことが多い。風が通るし山の上なので涼しく過ごせるのだ。
「そろそろ収穫時期だよね」
「そうだな」
「一度に収穫期がきたら大変だな」
「大豆が最初に収穫できそうじゃない?」
「僕が調整するよ。大豆、お米、葡萄、綿花の順番でどう?」
「いいね!」
「新茶の時期が4月中旬から5月中旬だったよね、お茶の旬が秋じゃなくてよかったよ」
「ねえ、畑と養殖場は僕の加護でいい感じにしておくから避暑に行かない?」
「どこに?」
「この東の秘境と呼ばれる一帯の北の方に山脈があるでしょう?そこに裏山温泉を複製して設置したんだ」
「涼しいの?」
「うん」
「行く!」
全員一致で即決だった。
「じゃあ行くよー」
着替えなどの荷物はアイテムボックスに入っているので大した準備は必要なかった。全員揃ったところでアルバロが転移させてくれた。
「本当に涼しいね!」
夏に奥日光に旅行した時を思い出した。
「1週間くらいここで過ごそうよ」
「いいねえ!いいねえ!」
大賛成だ。この気温で入る温泉は最高だろう。
「散歩に行かない?」
「行く!」
アルバロとハナと3人で散策に出たら最高だった。ハナが右に左に走り回って大はしゃぎだ。
「カナちゃん!川があるよ」
一緒に行ってみると綺麗な川だった。
「鑑定してみなよ」
アルバロに勧められて鑑定してみたらお水は飲めるし鮎も住んでいるらしい。
「お魚いるよ!」
「釣りたい!」
アルバロが釣り竿を出してくれたので並んで糸を垂らした。ハナが私の横にぴったりくっついて水面をのぞき込んで可愛い。
「引いてる!」
「やったあ」
「こっちも!」
釣ってみたら大きな鮎だった。アルバロと2人で7尾釣れた。
「焼いてみようよ!」
火を起こしてじっくり焼くことにした。アルバロが火を見ててくれると言うのでハナと一緒に周囲を歩いて回った。特に何もないけど景色がよくてハナもご機嫌だった。
しばらく歩いて戻ると鮎がちょうど良く焼けていたので焼きたてをいただいた。
「おいしー」
「美味しいね!」
ビールが欲しくなる美味しさだった。
鮎を食べ終えたら火の始末をして散策を続けたがこの方向には特になにもなかった。
「明日は違う方向に行ってみようよ」
「そうだね、ここにいる間はゆっくり過ごそうよ」
戻ると父さんとリザも帰っていた。全員一致で休暇中はご飯の支度をしないと決めてコース料理を取り寄せた。一泊で1人10万円近くかかる知る人ぞ知る老舗旅館の1日1組様限定の“おまかせ会席”だ。
「これは凄いな!手間がかかっているし素材も良い」
父さんが絶賛したコース料理は碗物、前菜十皿、伊勢海老と鮑のお造り、焼物、中吸物、炊き合せ、強肴、鍋、季節の炊き込みごはん、デザートだった。
「強肴のステーキが最高だったね!」
「とっても美味しいお肉でした」
「ハナはお刺身が好き」
私とリザはステーキが1番気に入ってハナはお造りが1番だったらしい。
暑さと労働で食欲が落ちていたが今日はお腹いっぱい食べて苦しいくらいだ。
夜は温泉につかって夏の疲れを癒した。田んぼや畑、養殖場を毎日回って疲れていた身体に温泉の薬効がじんわり染み渡った。




