第216話 回復
3日目にはほとんど熱も下がり、寝ていることに飽きたので居間でハナと一緒にテレビを観ている。
平日の昼間は主婦向けの番組が多い。テレビ番組も異世界仕様に変換されていて、今日はこっちの世界に存在するモンテ=サンテという巨大な石を信仰する村を紹介していた。巨石を中心に家を建造し、大きな石が屋根に乗っかっているように見える。
「面白いねえ!」
「家がつぶれちゃう」
「あのレストランの屋根の石、大きいねえ」
「ハナちょっと怖い」
巨石のレストランで干し鱈のコロッケや血のソーセージが紹介された。
「ハナ、ソーセージ食べたい」
「私も」
「じゃあ今夜はソーセージにするか」
「やったあ」
父さんが夕飯をソーセージにしてくれるという。マスタードたっぷりで食べたい。
「あ」
「アルバロ?」
「どうしたの?」
「王都の家にクラリッサたちがお見舞いに向かってる」
慌てて魔法陣で王都の家に戻るとドアノッカーが鳴った。
「僕が出るよ、カナは座ってて」
アルバロに言われた通りハナと一緒にソファーに座っていると玄関から話し声が近づいてきた。父さんとリザは紅茶を淹れてくれている。
「カナ!」
「ハナちゃんもこんにちは」
「みんな!」
クラリッサとエステルと遠野と巽と孤太郎君だった。
「カナったら本当に小さくなって…」
「具合は良さそうね」
「うん。もう熱も下がって寝ていられないくらい元気だよ。もうすぐ大人に戻ると思う」
「それは良かった」
「座っているとハナちゃんと同じくらいで可愛いわ」
手足の長さが違うので立ち上がると身長差が発生するが座高は同じくらいだ。
「寝込んでいる間もハナがずっと寄り添ってくれたんだ」
今もぴったり密着して座っている。
「ハナはお姉ちゃんだから心配なの」
「そばに居てくれて嬉しいよ」
「カナちゃん…」
「ハナちゃん…」
カナとハナが抱き合った。抱き合うというより、がっぷり四つに取り組んでいるような姿だった。
「カナったら可愛い…」
「カナもハナちゃんも可愛いわ…」
クラリッサとエステルが悶えた。遠野と巽も頬を染めている。
「回復して飲みに行けるくらい体力が戻ったらこれを使って」
こちらの世界でメール代わりに飛ばすことが多い鳥型の魔道具だった。都市をまたいで届けてくれる魔道具は高価になるが王都内のやり取りなら3つで100シル程度の物で充分だ。
「良くなったら飲みに行こう。ヘンリクもカナの具合を気にしてるから顔を見せてやってよ」
「そういえばヘンリクさんのお店で小さくなっちゃったんだっけ。びっくりさせちゃったよねえ」
「うん。僕らも人族も馴染みのない症状だったからね、だから飲みに行けるくらい元気になったら連絡して」
「分かった、ありがとう」
「じゃあ私たちはおいとましましょう」
「長居しちゃカナを疲れさせちゃうわね」
「みんな来てくれてありがとう、お見舞いのお花もヨーグルトも嬉しい」
「早くよくなってね」
「うん。狐太郎君もお見舞いありがとう」
「またねカナちゃん、ハナちゃん」
「ばいばい、こたくん」
アルバロと手を繋いで玄関まで歩き、ハナと一緒にみんなを見送った。
その日の夜、眠っている間に大人に戻っていた。
「おはよう」
「カナ!」
「戻ったのか!」
「良かったです」
ハナを抱いて居間にゆくと取り囲まれてちょっと恥ずかしいけど元に戻れてよかった。
カナが元通り大きくなってリオは喜んだが、ちょっと残念な気持ちのハナとカナだった。
「ねえハナ、今夜も一緒に眠ろうか?」
「うん!」
ハナと抱き合って一緒に眠った。




