第213話 王都の友人
巽の実家が経営する商店に来た。
「こたくんの匂いする!」
ペットスリングの中のハナがそわそわする。ぽんぽん宥めながらお店に入ってゆくと以前もお話ししたことのある店員さんがハナを見つけてくれた。
「お客様、もしかして巽さんのお友達のクマちゃんではありませんか?」
「はい、巽と弧太郎君に会いたくて」
「ご案内しますね、こちらへどうぞ」
案内されたバックヤードには弧太郎君がいた。ハナをペットスリングから出してやると走り出した。
「こたくん!」
「ハナちゃん!」
お鼻とお鼻をくっつけてご挨拶した。
「巽さんを呼んで参りますので少々お待ちください」
「お仕事中なのにすみません、ありがとうございます」
弧太郎君を撫で回していたら巽が現れた。
「お待たせしました」
「こっちこそ突然押しかけてすまん。ハナが弧太郎君に会いたがってな」
「嬉しいです。弧太郎も会いたがっていたんですよ」
「俺とハナちゃんにボール投げて!」
興奮した弧太郎君とハナがフンフン言っている。走らせて疲れさせないと治まらないだろう。
「弧太郎君とハナちゃん、私と遊びましょう」
テイマースキルを得たリザが名乗りをあげた。弧太郎君とも会話できるようになった嬉しさが隠し切れていない。
「さっきテリヤキに行ったの」
「巽君に会えなくても、何か役に立てることがあればと思ったんだが順調そうで良かった」
「はい。おかげさまでオムライスのお店も常連さんがじわじわ増えているんです。稲荷寿司のメニューはもう少し時間を置いてテリヤキの限定メニューにしようと考えているんです」
「俺も急ぐ必要は無いと思うぞ」
「安定した大豆の仕入れとか今はそういう環境を整える事に注力しているんです」
「堅実でいいと思うぞ!」
原材料の安定供給とか今後のメニューとか巽といろいろ話していたら結構時間が経過していた。
「カナちゃん!牛乳のみたい」
ハナと弧太郎君がハッハしていたので弧太郎君には深皿でハナにはカップで牛乳をあげた。2人が牛乳を飲む姿が可愛くてデレデレ見ていたら巽が鳥型の魔道具を受け取った。
「カナ、みんなの予定が合ったよ。今夜ヘンリクさんのお店でみんなで集まろうよ」
「みんなに声を掛けてくれたの?ありがとう」
お土産に弧太郎君の好きな裏山で採れたりんごを渡した。改めて夜にお店で集まるので王都の家に帰った。
王都の家から魔法陣で我が家に帰り、お散歩ダンジョンでハナにお散歩させてから改めて出かけた。ヘンリクさんのお店に着くとヘンリクさんが自ら迎えてくれた。
「先日はククサをありがとうございました。大事に使っています」
「日用品だからあんまり畏まらずにどんどん使ってね」
「日常使いできるようになるまでもう少し余韻を味合わせてくださいよ」
特別なギフトだから大事にしたいと言ったら優雅に微笑まれた。
「カナ!ハナちゃん!」
「クラちゃん!」
案内された個室にはクラリッサがいて、ハナが駆け寄ると抱き寄せてモフモフしている。
「今日も可愛いわ」
「えへへ」
エステル、巽と弧太郎君、遠野も到着したので料理を注文して乾杯した。
「カナが間を開けずに王都に来てくれて嬉しいわ」
「エステルと僕にタタンカさんを紹介してくれてありがとう」
「見て!遠野の手!つるつるじゃない?」
「本当だ!」
「一年中ガサガサにひび割れて特に冬は痛くて辛かったんだけど今年はほとんどケアしていないのに快適なんだよ」
「私が勤務しているお店でも評判なの、タタンカさんのアクセサリー目当てで新規のお客様が増えているのよ」
「そうなんだ!」
「こっちも順調よ、巽のお店での売上も上々なんでしょう?」
「ご想像の通りだよ」
「いちごバター目当ての行列が凄かったんだから。開店前に整理券を配っていたのよね?」
「名簿を作って同じ人のリピートも制限したし買い占めや転売対策もしたから今はだいぶ落ち着いているよ」
「オムライスのお店も順調って聞いたよ」
「お米を食べる習慣のない種族も来店するようになってきたんだ。クラリッサとエステルの宣伝効果もありがたかったな」
「期間限定メニューを食べたくて2人で通ったのよ」
「どんどんメニューを変えるんですもの」
「春キャベツとあさりのクリームソースのたんぽぽオムライスは最高だったわ」
「中のご飯がチキンライスじゃなくてエビだったのも良かったわ」
「酸味のあるトマトケチャップのご飯とこってりしたクリームソースが合うのよね」
「いくら頼まれてもレギュラーメニューにはできないよ。春キャベツが旬の時期だけの期間限定だから」
王都のみんなと共通の話題が増えたのも嬉しいけど、自分がちょこっと貢献できているようでくすぐったい。今日のお酒は美味しくなると確信した。…飲み過ぎたらアルバロに任せよう。




