第212話 バタークッキーのアレンジ
ランチタイム営業を終えた時間に巽たちのお店に行ってみると休憩時間で静かだった。
「裏口に回ろうよ」
裏口の大きな窓からのぞいてみたら茶々丸さんと目が合った。
「こんにちは!」
茶々丸さんが眩しいくらいの笑顔でドアを開けてくれた。
「突然すまない。王都に来たついでに寄らせてもらった」
「うちの店を気にしてくださって、ありがとうございます」
「これはお土産。よかったら皆さんで召し上がってください」
レモンサブレを渡した。
「ありがとう!カナさん」
雪美ちゃんに渡したらさっそくお茶を淹れてくれるようだ。
「今日は巽は実家のお店なんです。弧太郎も一緒に」
「こたくん…」
ハナがしゅんとしてしまった。
「この後、弧太郎君に会いにいこうね」
「うん」
「こっちの状況が落ち着いたし、ここで作っているパンやクッキーを実家のお店で販売してくれているので向こうでも勤務してもらえるのはありがたいんです」
「順調なんですね」
「おかげさまで!」
オムライスのお店も順調らしい。
「長吉さん、桃吉さん、カナさんにいただいたバタークッキーですよ。さっそくいただきましょうよ!」
雪美ちゃんがお茶を淹れてくれた。ハナにレモンサブレを取ってやる。
「おいしー」
「ハナは酸っぱいのが苦手だけどお菓子にすると好き?」
「うん」
レモンメレンゲパイも美味しいと喜んでいたけどレモネードとかは酸味が苦手だろうな…と考えていたら雪美ちゃんたちが騒ついていた。
「カナさん!これレモンの味がする」
「香りが完全にレモン!」
「いちごバターを挟んでいるバタークッキーだと思ったら!」
「見た目はバタークッキーなのに!」
パンとクッキーといちごバターを教えた雪美ちゃんと福子さんと源治さんと小町さんが騒ついていた。
「レモン果汁とすりおろしたレモンの皮を混ぜてアレンジしたんだ、簡単でしょ?」
「ちょっと!!」
「カナさんダメ!」
長吉さんと桃吉さんが参戦した。
「ポカンとしてないで!」
「レシピをホイホイ口にしちゃだめ!」
「…え、もう皆さんレシピ買ってくれてるし」
「あれはバタークッキーのレシピ!」
「そのアレンジだし」
「無料で教えるもんじゃ無いですよ!」
「ドス・グラントでもレシピ販売した時にアレンジを教えたよ」
「えええ…」
「いま私がケチケチしなくても近い将来誰かが思いつく程度のアレンジだよ。クッキーはクッキーだもん」
「カナさんはそれでいいの?」
いいもなにも私が考えたレシピじゃない。歴史上の料理人たちのレシピだ。
「いずれ多くの人がいろんなアレンジを出してくるよ。それが少し早まって美味しいものが増えるのは楽しみじゃない?」
「カナさんのように考える方は稀ですよ」
「だと思います。でも私はこれで良いと思ってます。全然違うレシピを販売する時は料金をいただくので!」
アルバロの眷属になったらしいので余計にお金お金言うのが躊躇われる。
…今後の生活が大丈夫かどうか聞いた事がなかったと気づいた。後でじっくり聞いておこうと心にメモした。
眷属は自力でお金を稼いで勝手に生きろという場合、腕力込みのお話し合いをしようと思う。恵まれた種族でたくさんスキルをもらったけど永遠に働くのは嫌なのだ。50年くらい働いたら20年くらい休みたい!




