第201話 レーションを改良したいリオ
フリーズドライ製法をギルドに販売するのは無理だと分かったけど諦められない父さんと私。翌日もレーションの相談をしている。
「魔方陣を仕込んだ装置なら販売出来るんじゃない?デニッシュの時みたいに」
デニッシュのレシピを王都で商業ギルドに販売した時、レシピだけでなく冷凍生地も販売することになった。
冷凍生地は購入時に24時間だけ効果のある冷凍の魔法陣を包装ラップにプリントしており、プリントする装置と冷凍の魔方陣は錬金ギルドに登録した。
「フリーズドライ食品製造機械か」
「それならイケると思うよ。僕の世界だと機械じゃなくて魔道具だけど」
「魔道具は出来そうだから後で考えようよ、まずはどんなレーションを作るか決めない?」
「そうだな!ちょっと欧米のレーションを召喚してみたんだ、見てくれ」
父さんが重そうな小箱をいくつか取り出す。
「これがアメリカ軍のレーション。どれも調理済みだ」
文字しか印刷されていないシンプルなパッケージで、レトルトのビーフシチュー、甘いビスケット、クラッカー、ピーナッツバター、チョコレートバー、粉末ジュースなどが入っていた。
重さは1食分で700gから800gくらい。重たい上に結構かさばるしカロリーも高い。1日2食でも数日分となると持ち運ぶのも一苦労だ。
「ちょっと食べてみよう」
父さんがお皿に出してみると全体的に茶色かった。
「茶色いね」
「食欲をそそる彩りじゃないけどレーションだからな」
父さんとアルバロと3人で味見する。
「…味は悪くないよね」
「ピーナッツバターがアメリカっぽいね」
「調理出来ない環境で食べる非常食だと考えたら充分だな。カロリーを摂れるし、よく考えて作ってある」
アメリカのレーションに対する私たちの評価は“まあまあ”だった。
「そして、こっちは楽しみだったフランスのレーションだ」
段ボール箱をビニール袋で密封してあり、この段ボール1つで1日分、2kg近い重量だった。
開封してみると普通にスーパーマーケットで買えるような缶詰やビスケットの箱が出てきた。フランス軍のレーションは民間の缶詰など食欲そそるパッケージで構成されていた。
「美味しそう!」
「パッケージがそそるよね!」
アルバロと私のテンションが急上昇だ。
「大きな缶詰と小さな缶詰が2つずつ。これがメインだな、インスタントのスープもある」
「主食に塩味のビスケットと甘いビスケットが入っているのはアメリカのレーションと似てるね」
「甘いものも入ってるよ。ヌガー、チョコレートバー、キャラメル、これもアメリカのレーションと似てるね」
飲み物は粉末のインスタントコーヒー、ティーバッグ、ココア、粉末ミルク、粉末ジュースなど、砂糖、塩胡椒の調味料が入っているのもアメリカのレーションと同じだった。
「ねえ、食べてみようよ!」
「じゃあ開けるぞ」
1つめの大きな缶詰はアルザス風シュークルート、これはザワークラウトとベーコン、大きなソーセージの煮込みだ。2つめの大きな缶詰はチキンと豆のトマト煮込み。
小さな缶詰はウサギ肉のパテとチョコムース。粉末スープもアスパラガスのクリームスープなど、おフランスな雰囲気だ。
「パッケージも素敵だし美味しそうだよね!」
「缶詰を開けた時の見た目もいいな。このチキンと豆のトマト煮込みなんてよく煮込んだ玉ねぎやにんじんの彩りが良いし、お皿に出したら立派な一品じゃないか」
「食べてみようよ!」
3人で味見してみたら予想通り美味しかった。
「イタリアのレーションも美味いらしいぞ。気付け薬まで入っているらしい」
「気付け薬って?」
「アルコール度数が40度の蒸留酒だ。量はほんの少しだけどな」
── マジか…。
「そして最後が“かんめし”。自衛隊員が訓練や災害派遣などで食べる糧食だ」
缶詰入りの白飯、赤飯、しいたけ飯 、鳥飯の缶詰。魚と昆布とにんじんとタケノコを煮た缶詰やハンバーグの缶詰。
「どれも美味しいね」
「僕も好き」
「この世界のレーションならフランスのレーションを真似するのが良さそうだな」
「ビスケットとキャラメルは協力出来るよ」
「是非頼む」
「僕もリオを手伝うよ」
「アルバロも助かる」
方向性と担当を決めた頃、ハナとリザが帰ってきた。
「ただいまー!」
「おかえり、今日はどこまで行ったの?」
「リザちゃんに乗せてもらって飛んだよ」
「裏山の周辺をぐるっと回ったり田んぼを見に行ったりしました」
「お散歩ダンジョンも行ったよ」
「楽しかったの?」
「うん!」
「良かったね」
リザとお喋りできるようになってから初めてのお出かけは大満足だったようだ。




