第194話 王都でバタバタ
寒さも和らぎ、田んぼも茶畑もコットン畑も葡萄も順調だ。
暖かくなってきたので私とハナがお散歩に行っている間に父さんがこたつを片付けた。帰宅後、こたつがないことに気づいたハナが拗ねてこたつ愛好仲間のリザに甘えていたがお気に入りのお昼寝布団を出して日向で気持ち良さそうにお昼寝したら機嫌が直った。
「魔物やドロップ品が溜まったから王都に売りに行こうよ」
「こたくんに会える?」
「会えるぞ。巽君の店の様子も確かめたいしな」
その日はハナが大喜びでなかなか寝てくれなかった。予想通り翌朝ハナは起きられなかったのでペットスリングに入れて出発した。
「そろそろ私たちの順番だね」
王都に入るための行列で落ち着かない私たち。
落ち着かない理由は私たちのギルドカードをパルミラさんがキラキラのエフェクトが出るように改造してしまったからだ。
「偽造を疑われないよな」
「疑われたらパルミラさんを呼んでもらおうよ、そして元に戻してもらおう」
「そうだな」
「………」
「これは冒険者ギルドのギルドマスターの…」
順番が来てギルドカードに魔力を流して本人確認したらガン見された。
「パルミラさんに気に入られたんですね?」
「ちょっと良いものを売ったりしました」
「あの方、めっちゃ強くて怖いのに可愛いものやキラキラとかデコデコが好きなんですよ」
「よくあるんですか?」
「はい」
「よかったー!偽造を疑われそうで不安だったんです」
「ギルドカードはそうそう偽造出来ないですよ」
「やっちゃう人いないの?」
「たまーにいますけど、すぐにバレるしお粗末な出来ですよ」
「ちなみになんですけど…」
「なんでしょう?」
「王都はともかく地方の街へ入る時に変な顔されません?」
「過去に何人もやられているのでたぶん大丈夫ですよ」
「元に戻してほしいなあ…」
「はははっ!あの方なりの好意なんですよ」
「良い滞在を!」
笑って通された。
「いったん家に行こうか」
「そうだね」
王都の家でいつものお茶を淹れて身体を伸ばす。
「王都に家を買って良かったね」
「そうだな」
到着する度に宿探しから始めるよりも断然楽だし使い慣れた道具や自分の部屋があるのは最高だ。
「冒険者ギルドで売るものを預けてからテリヤキの店に行こう」
「それならハナと狐太郎君がゆっくり遊べそうだね」
「やったあ!」
城門をくぐった辺りで目を覚ましたハナが早く行こうと催促するので冒険者ギルドに向かった。
「カルピオパーティの皆さま、いらっしゃいませ」
いつものようにゼカさんが迎えてくれた。
「ちょっと王都に来る用事があってな、そんなに溜まっていないんだが魔物なんかを引き取ってもらえるか」
「承知いたしました、こちらへどうぞ」
倉庫で魔物を出して預かり証をもらい、別室でドロップ品を出して預かり証をもらった。
「急いでいないから、いつでもいいんだけど目安だけ教えてもらえると助かります」
「3日後以降でしたら、いつでも大丈夫です」
「では、それ以降にお伺いしますね」
ハナに催促されるまま近くにある巽のご家族が経営するお店に向かった。
「たっくんの匂いしない。こたくんの匂いもしないよ」
ハナが眉間に皺を寄せながらフンフンする。
「じゃあテリヤキのお店の方かな?」
「行ってみるか」
「まって」
ハナがうっとり顔でフンフンする。魔道具の店舗ではなく食料品の店舗の方だ。
「何か気になる?」
「おいしい匂いする!」
ハナに導かれるまま進んで行くとサラミのようなものが売られていた。
「これ!」
「見た目はスペインの白カビサラミみたいだな」
「フエ カリダ エクストラかな?あれは美味しいよね」
「ハナもたべたい」
「美味しそうですね!」
「少し買っていくか」
リザとハナが期待しているので少し多めに買った。スライスしてそのまま食べると美味しいのだ。
ご機嫌のハナとリザを連れて全員でテリヤキのお店に向かうと、ちょうどお昼時なのでイートインも持ち帰りも混み合っていた。
「出直そうか」
「ランチタイムにお邪魔したら迷惑になるよな」
「カナさんとリオさん!」
引き返そうとしたら雪美ちゃんに確保されて裏口につれていかれた。
「リオさん!」
「カナさんも!」
厨房の全員にロックオンされた。
「僕とリザは裏庭でハナを遊ばせるよ」
「狐太郎も裏庭にいるんだ」
「おっけー、一緒に遊ぶよ」
忙しそうに働く巽が答えた。狐太郎君はランチタイムにひとりぼっちか。ランチタイムじゃ仕方ないけど胸が痛いな。
「何から手伝う?」
「助かります!」
父さんが厨房に入り、私は盛り付けや皿洗いを手伝う。持ち帰りのいちごバターとパン・ド・ミーは今日の分は完売らしい。セットメニューで出す分は確保してあるとのこと。皿洗いは浄化魔法を使えると楽だな。
「助かりました」
「リオさん、カナ、ありがとうございます」
巽たちに深々と頭を下げられた。出勤予定だった長吉さんが子供の看病で予定外のお休みとなったため、いつものスピードで捌けなかったとのことだ。
「イートインと持ち帰り両方は大変だよねえ」
「長吉さんの子供さんは大丈夫なのか?」
「こんこん病っていう妖狐族の子供が一度はかかる病気なんだ。命に関わるものでは無いけど病気の子供を1人にする訳にいかないので」
想像通り微熱と咳が出る病気らしい。奥様は王城で働いていて長吉さんと1日交代で休むらしい。
「そうか!奥さんも休めるなら良かったな。オムライスも注文が入っていたな!」
「はい。1日10食限定にしているんですけどお米を食べる種族の間で評判なんですよ」
「お米を食べる種族って?」
「小鳥系の獣人が多いかな」
雀を想像して萌えた。雀獣人て絶対に可愛い!
働いた分のお金を払う、受け取れない、で揉めた。お金のことはちゃんとしなければという巽の主張は尤もで、私も父さんも反論しきれなかった。
押し切られて悔しいので今度多めにお米を渡してやろうと思う。




