第193話 田植え
巽のお店で一通り講習を終えて我が家に戻った。パン・ド・ミーと同じ生地でホットドッグに使うようなパンも教えたらテリヤキサンドで柔らかいパンを選んでもらえるようになると喜ばれた。
「いよいよ田植えだね」
「巽君たちのお店に卸すことになったから多めに苗を用意して良かったな」
「コシヒカリ、ヒノヒカリ、ミルキークイーン、ササニシキだっけ?」
「ヒノヒカリは粒がはっきりしてて丼ものやカレーライス、オムライスなんかに合うんだ。ミルキークイーンは冷めても美味いからおむすびや稲荷寿司に向いているから、巽君たちに売るのはヒノヒカリとミルキークイーンだ」
父さんの好きなコシヒカリは絶対に作るし、お寿司に合うササニシキは家族用だ。
土魔法で田んぼの土は整備済みだ。苗も12〜15cmまで成長しているので田植え機で田んぼに移植する。予定よりたくさん栽培することになったので田植え機を追加で買った。
田んぼは父さんとリザに任せて私とハナとアルバロはコットン畑や葡萄棚、茶畑の世話をすることになり、今日はコットン畑に来ている。
「ハナー、見えないくらい遠くに行っちゃダメだよー」
「わかったー!」
分かったと言いながら見えなくなった。いつも通り全然分かっていない。マッピングスキルを起動したらシロクマのアイコンがぴこぴこ移動している。
土魔法でコットン畑全体の土壌を掘り起こした。砂や軽石を混じりの土を混ぜ返して土壌を整えたところでお昼になった。
「カナちゃーん!」
ハナが元気よく戻ってきたので抱きとめてわしわしした。
「お腹すいたー」
「はいはい、ご飯にしようね」
今日はコニードッグの別名で親しまれているホットドッグだ。コニードッグは牛ひき肉たっぷりで豆無しのチリにチェダーチーズと玉ねぎのみじん切りを乗せて完成。サラダとクラムチャウダーでご飯にしよう。
「出来たよー」
コットン畑の周囲に散らばった木屑や石などを片付けてくれていたアルバロとハナがテーブルについたのでハナの手を浄化してやる。
「おいしー」
「今日の赤いスープも美味しいね」
「マンハッタン風のクラムチャウダーだよ」
あさりの旨味が出て美味しいスープが出来た。
午後は種まきをして我が家に帰ってハナのお散歩ダンジョンに行った。お散歩ダンジョンから戻ってもまだ父さんとリザが帰っていなかったのでアルバロと一緒に夕飯の支度をすることにした。
「きょうのご飯はなに?」
ハナが丸い尻尾をぴこぴこさせて聞いてくる。
「春巻きはどうかな?」
「好きー!」
「リザにはお肉が足りないと思うから唐揚げも揚げようか」
「いいね!僕が唐揚げの準備をするよ」
「やったあ」
春巻きも唐揚げもハナの好物なので大喜びだ。春巻きは普通のと海老入りの2種類、唐揚げもたくさん揚げたところでハナが何かに気づいた。
「パパとリザちゃん帰ってきた!」
「ご飯も炊けたし丁度いいね」
「おかえりー」
ハナが玄関まで2人を迎えに行った。
「ハナちゃん!お出迎えありがとう」
リオがハナをわしゃわしゃする。
「今日は春巻きと唐揚げだよ」
「嬉しいです!」
「唐揚げおいしいよね」
「私の大好物です」
全員揃ったのでいただきます。
「おいしー」
「やっぱり唐揚げは美味しいです」
しっかり下味をつけた唐揚げがハナとリザの好みの味つけだったようだ。もりもり食べてくれて嬉しい。
「コットン畑はひと段落したよ、田んぼはどう?」
「全部の田植えが終わるまではまだ何日かかかるな」
「茶畑と葡萄棚は1人でも大丈夫だからアルバロが手伝いに行く?」
「予定よりも拡張したいし来てもらえると助かるな」
「分かった、じゃあ明日は3人で田んぼだね」
明日はハナと2人で葡萄棚だ。ワインのために頑張ろう。
「コットン畑に魔物は出たか?」
「出なかったよ。お散歩ダンジョンはたくさんポップしたけど」
「そうか」
「田んぼは?」
「たくさん出たぞ」
鷲の姿をした巨人のフレスベルク、100本の腕を持つ巨人のヘカトンケイル、山の巨人のベルグレシなどがグループでやって来たらしい。
「俺が相手をしようとしたら猛烈に嫌がられた。リザがドラゴン化したら大喜びで…あいつら肝試し感覚なんじゃないか?」
「売ったばっかりなのに魔物が溜まっちゃうね」
「ある程度溜まったら売りに行こう」
「そうだね」
東の秘境での日常が戻ってきた。




