第191話 いちごバターとオムライスの契約
巽のお店と父さんの独占契約、私のいちごバターのレシピ販売で商業ギルドに来た。
「こたくん!」
「ハナちゃん」
案内された個室には巽と狐太郎君が先に到着していた。狐太郎君とハナが鼻と鼻をちょこんとくっつけてご挨拶した。
「今日はよろしくね」
「任せてちょうだい!まずはカナのいちごバターね」
「パン・ド・ミーもね。いちごバターはパン・ド・ミーに合うから」
「あの皮が薄くて柔らかいパンを薄く切って焼くとカリッとして美味しいわよね」
「分厚く切ると中がもちもちだよ」
「以前カナに貰ったけど大切に少しずつ食べたの。分厚く切るなんて贅沢、考えられなかったわ…」
クラリッサに恨めしそうな目で見られた。巽も何か言いたげだ。
「じゃあ試してみようか」
分厚く切ってトーストして4分の1にカットしてからすぐに時間停止のインベントリに入れておいたものを出す。
「よく冷えたいちごバターが溶けていくのを目で楽しむも良し、たっぷり乗せて味わうも良し、お好みでどうぞ」
「カナちゃん、ハナのトーストにたくさん乗せて!」
「はいはい」
ハナと狐太郎君に分厚いトーストにたっぷり乗せて渡してやる。
「おいしー」
「おいしー」
ハナと狐太郎君がハモった。
「やっぱり美味しいね、うちの店に置かせてもらったら入荷、即品切れだね。買い占め転売対策しないと」
「分厚いパンと合うわ、固い田舎パンにも合う。溶けたのも美味しいし、よく冷えたいちごバターをたっぷり乗せて溶ける前に食べても美味しいわ…」
「これは禁断なんだけど…」
インベントリからバタークッキーを出した。
「これはドス・グラントでレシピを販売したクッキー。今日はいろいろ試食するから小さく作ってきたよ。まずはこれだけで食べてみて」
クラリッサと巽がクッキーの手を伸ばす。ハナと狐太郎君も食べる。
「おいしー」
「おいしー」
ハナと狐太郎君がハモった。
「富裕層向けの贅沢なお菓子って聞いてたけど…」
「これは素晴らしいね」
「カナったら、まさか…」
「これをこう!」
クッキーにいちごバターを挟んでやった。
「クッキーよりもいちごバターの方が多くない?カナったらギルティ!」
「これは大変だよ…。クラリッサ、このクッキーのレシピも買うから手続きよろしく」
「任せてちょうだい」
「おいしー」
「おいしー」
契約に興味のないハナと狐太郎君がハモった。
クラリッサがもう一口食べる。
「美味しいわ…」
「罪な味だよね、太るから食べすぎには注意してね」
クラリッサに睨まれた。
「いちごバターとパン・ド・ミーは一般的なレシピ販売でいいの?」
「うん。隠したって腕のいい料理人なら、いずれ再現できるもん。買いたい人がいたらどんどん買ってもらって」
そもそも私が考えたレシピではない。歴史上のパン職人の皆さまありがとう。
「うちで先行販売もいいの?」
「すでに人気の巽のお店で宣伝してもらえるなんて願ったり叶ったりだよ」
テリヤキのお店で提供してもらって気に入ったらパンもいちごバターも持ち帰り出来るし、巽一家が経営するお店でも買えるようにしてくれるとのことだった。
「期間限定でセットメニューのミニデザートとして組み込むよ。王都近辺の全てのいちご農家と今後の買付け契約は済んでいるから来年までうちが独占かな」
目端のきく料理人や商売人が目をつけてもいちごが無ければ作れない。新しくいちごの栽培から始めなければ参入出来ないから今年は稼ぎ放題だろう。思っていたよりも巽はやり手だった。
「いちごバターとパン・ド・ミーはテリヤキのお店のスタッフが担当するの?」
「うん、テリヤキの店舗で講習してもらっていいかな」
「問題ないよ、よろしくね。パン・ド・ミーの型は錬金ギルドに卸しておくね」
「じゃあ書類はこれ」
クラリッサが一枚ずつ説明してくれるので分かりやすい。
「問題なし!すっごく分かりやすい」
「さすがだよね」
私と巽がサインして魔力を流して契約完了。
「では次にリオさんのオムライスと稲荷寿司のレシピの独占契約です。オムライスにはケチャップの、稲荷寿司の契約にはお豆腐と油揚げの契約も含まれます。こちらはお米の売買契約書です」
「オムライスも稲荷寿司も真似出来ないレシピだもん、独占の意味があるよね」
「まあお米料理は難しいよね、僕は勝算があるけど」
上にオムレツを乗せるタイプのオムライスと稲荷寿司を作ってみせたら共同経営者の長吉さんと桃吉さんも独占契約に乗り気らしい。
こちらもクラリッサが契約書を一枚ずつ隅々まで説明してくれた。
「分かりやすい説明だ、クラリッサちゃんは頭が良いんだな!」
「いえいえ!これが仕事ですので」
父さんと巽がサインして契約完了。
「余ったもので悪いけど良かったらどうぞ」
パンとクッキーといちごバターをクラリッサに渡したら喜ばれたが『太るから気をつけて』と付け加えたら『カナは一言多い』と頬っぺたを引っ張られた。




