第19話 チュートリアルのダンジョン
お昼はラタトゥイユをカレーに転生させてぱぱっと済ませた。簡単だけどアルバロもハナも美味しいと喜んで食べてくれた。
「おいしかったー!」
「美味しかったね」
今日もハナとアルバロが大げさなくらい喜んでくれた。私と父さんはダンジョンで運動する予定なので控えめにした。
「これからチュートリアルのダンジョンでスライム?」
「うん、装備はハイ・エルフや竜人族の血を引くハイ・ヒューマンに相応しいものを用意したよ」
アルバロが出してくれた装備は素人目にも良いものだった。
「アルバロ、これは初心者には贅沢なんじゃない?」
「初期の装備は“ ひのきのぼう”や“ぬののふく”なんかだろう?」
「危険なことは絶対にダメ!2人にはいつまでも元気でいてもらって美味しいご飯とスイーツを作ってもr ……ハナが幸せに生きるには2人が健康で元気でいてくれないとダメなんだから!」
言い直したつもりかもしれないけど、本音がダダ漏れだった。
結局アルバロが用意してくれた豪華な装備を身につけてチュートリアルのダンジョンへ向かった。武器は父さんが大剣で私が長剣。ハイ・ヒューマンなら軽々扱えると聞いて庭で素振りをしてみたら軽くて手に馴染んで最高だった。
もしかして…と庭に置いてある角材や庭石などを持ち上げてみたら軽々と持ち上がった。発泡スチロールで出来た舞台装置のようだった。アルバロによると、もともと数十キロの粉類を持ち運ぶ生活で鍛えられていたのがハイ・ヒューマン補正で200kgくらいは片手で持ち上げられるようになったらしい。ヤバい。
めっちゃ強くなってるし装備もカッコいいので父さんと私の厨二病が刺激されて口元がむずむずしたが我慢した。
「説明した通りスライムは酸を吐くよ。飛距離は最大で2m、一度吐くと5分は何もできないから最初の酸を避けて5分以内に倒してね」
ハナを抱っこしたアルバロに肯く。
まずは父さんが1人で挑戦。ダンジョンを進むとスライムが現れたので距離を取って睨み合うと焦れたスライムが酸を吐く。飛んで避けたついでに大剣でなぎ払うとスライムは魔石になった。
魔石を拾ってダンジョンを進み、いろいろな種類のスライムを倒す。スライムは大きくなるほど強くなるようだが同時に数匹現れても問題なく倒せたので交代。私も父さんと同じように軽々と倒せてしまった。
「2人とも問題なさそうだね」
「不思議なくらい動けるな」
「うん。全然怖い気がしないね」
「ハイ・ヒューマンだからね!じゃあ次はモンスターハウスに挑戦してみる?」
「それはゲームで有名なモンスター満載&アイテムいっぱいなアレか?」
「そう、今回はスライムしか出てこないけどね!2人で協力して攻略してね。危なくなったら一時停止するから!」
モンスターハウスは凄かった。めっちゃスライムだったが問題なく連携して最後の1匹まで倒した。
「2人とも上出来だよ!今度はハナも一緒に挑戦してみようか」
「ハナがんばる!」
ハナとの連携は問題ないどころか快適だった。お互いにお互いの動きを無意識に予測して軽々と攻略できてしまった。
「ハナちゃんは凄いねえ!」
抱き上げて頬擦りするとハナもスリスリを返してくれた。
「カナちゃんとパパと一緒のダンジョン楽しい!もう1回モンスターハウス!」
ハナの“もう1回が”3回続いたところでアルバロから終了の合図があった。
「マリオとカナは動きっぱなしだから休憩しよう。ダンジョンにはセイフティゾーンがあるんだ」
アルバロの案内でセイフティゾーンに入った。
「セイフティゾーンには必ず泉があるからお水を補給できるよ。泉には小さな滝があって上の段は飲み水専用で下の段で傷口を洗ったり出来るよ」
ありがたく下の段で手を洗った。
「一般的な水筒や敷物なんかをみんなのインベントリに追加したから出してみて」
セイフティゾーン休憩セットというものが入っていた。
「敷物と水筒と携帯食料…憧れの干し肉とレーションだ!」
ウッキウキの父さんが敷物を敷いて水筒に泉の水を入れる。敷物は大きくて3人と1匹が余裕で休めるサイズだった。
ハナのカップに泉の水をいれると両手でカップを持って飲んだ。すっごく可愛い。
「このお水おいしいね!」
「霊峰の天然水を引いているんだよ」
アルバロはサービスがいいな。
「いい時間だから、おやつね」
スライスして包んでおいたパウンドケーキとスイートポテトを配るとアルバロとハナが大喜びだ。
「おいしー!」
「このパウンドケーキ、昨日より美味しくなってる…?」
「パウンドケーキは焼いてから常温保存で3日目くらいが食べ頃なんだよ」
「もっと美味しくなるの?」
「材料次第。フルーツを入れると水分を多く含んでいるので傷みやすいから早く食べた方がいいとか、食べごろは材料とレシピによるんだよ」
「そうなんだ!」
「なあ、干し肉とレーションを食べてみたい」
「美味しくないよ」
「美味しくないところまでがお約束だな!」
干し肉とレーションを一口ずつ食べた父さんは無言だった。