第186話 3人が王都に帰る日
「3人とも忘れ物はない?」
「ええ、全部収納したわ」
「じゃあ、これはお土産ね」
フェイスタオルを3枚ずつ、青竹踏み、お米、鎧蜂のはちみつ、3人が気に入ったフルーツを渡した。
「ちょ!」
「カナ!」
「え!いいの?」
「青竹踏みは床に置いて上に乗って足踏みしてね、この突起が足裏に効くから」
召喚魔法(インターネット通販)で取り寄せた青竹踏みは木製に自動変換された。
「巽と狐太郎君には帰る時に渡すね」
「嬉しいよ、ありがとう」
「私はタオルが嬉しいわ」
「洗顔の後、ポンポン押さえてね。ゴシゴシはだめだよ」
「分かったわ」
「カナのお肌がすべすべツヤツヤで気になっていたのよ」
「私もよ」
クラリッサとエステルから、そんな評価だったと初めて知った。照れるわ…。
「じゃあね、巽」
「先に帰ってるね」
「また王都でな」
3人と一緒にドラゴン化したリザの背に乗って飛び立った。人気のない場所に降り立って、そこからは私の馬車で王都に向かって城門で3人と別れた。
「リザ、付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ」
「用事が終わったらリザが好きな串焼きを食べていこうね」
「嬉しいです!」
お肉の話をしながら巽のご両親が経営するお店に向かった。
「すみませーん」
「はい。…あら?先日お茶を買ってくださった熊ちゃん」
店員さんがペットスリングの中のハナに気づいてくれた。
「あのお茶はとっても美味しいですね」
「ありがとうございます。本日はどのようなものをお探しですか?」
「今日は巽の手紙を預かっているんです」
「それでは奥にどうぞ」
ハナとリザと3人で待っていると新しいお茶を出してくれた。
「これもおいしー」
「そうだね」
「お待たせしました!」
巽のご両親が揃って現れた。
「息子と孫(狐太郎)がお世話になっております」
深々と頭を下げられてしまった。
「いえいえ!これ、巽の手紙です。滞在を延長することになったので」
「まあまあまあ!」
「…走れるようになったのか!」
ご両親が泣き出した…どうしよう。
「ぐすっ…」
「なんとお礼を言っていいか…」
「いえいえ!完治する保証もないんですが限界まで治療したくて滞在を延長することになったのでご報告です」
「こちらのことは気にするなと伝えてください」
「ええ、狐太郎の治療が最優先よ」
「承知いたしました。それではこれで失礼します」
「待って!」
「はい?」
「ハナちゃんを抱っこさせてもらえないかしら?」
「ハナ?」
「いいよ」
ハナが私のお膝から降りて巽のお母さんの足元までポテポテ歩いてゆく。
「まあまあ可愛いわ!」
巽のお母さんがハナを抱き上げる。
「ふわふわね」
「ハナちゃん、おじさんも抱っこだ」
「とっても可愛いわ」
「むふー」
「いい子でお利口さんだな」
「むふー」
巽のお母さんとお父さんに可愛がられてハナがご機嫌だった。
次に向かったのは巽が経営するテリヤキのお店だ。店名はテリヤキ。
「すみませーん」
「いらっしゃいませ!ご予約のお名前をお伺いします」
「いえ、巽からの手紙を預かってきただけなので」
バックヤードに通された。
「お待たせしました、支配人の桃吉です」
「こんにちは、これが桃吉さん宛でこっちが長吉さん宛です」
「これはどうも!長吉を呼んできますね」
2人揃って手紙を読んだ。
「そうですか…狐太郎が」
「……良かった。こっちのことは心配ないと伝えてください」
「はい、必ず伝えます」
お使いが終わったので中央市場の屋台に直行するとリザのお気に入りの串焼きの屋台が営業中だった。
「やっぱり美味しいです」
まだ行列じゃなかったのであるだけ買ってリザがたくさん食べた。私とハナは1本を分けあってお腹いっぱい。
食べ終ったら城門を出て馬車で人気のない方向へ走った。
「ここまで来ればいいかな」
マッピングスキルを呼び出して確認すると認識できる範囲に人がいなかったので馬車をインベントリに収納して魔法陣で裏山温泉に帰った。
流石にみんなの前では魔法陣を使えない。こんなことが出来ると知られたら城門で人の確認が無意味になってしまう。アルバロが禁忌にしている技術だ。
「ただいまー」
ハナが厨房に向かって駆けてゆくので後を追う。
「おかえりハナちゃん」
父さんがハナをわしゃわしゃする。
「いいにおい」
「今日のお昼は狐うどんだ。海老天も乗せるぞ。リザには肉うどんな」
「リザは王都の屋台で串焼きを食べたけどお腹は大丈夫?」
「肉うどんくらい余裕です」
今日もリザは頼もしかった。
「お待たせー」
アルバロと巽と狐太郎君が戻ってきた。3人とも温泉でほこほこしている。
「カナ、おかえり」
「これはご両親から、こっちは桃吉さんと長吉さんから」
4人からの手紙を渡す。
「ありがとう。向こうは問題ないみたい」
「良くなるまで治療に専念して大丈夫って言ってたよ。狐太郎君、もう少し頑張ろうね」
「ありがとうカナちゃん」
「さあ飯にしよう」
「おいしー」
「おいしー」
ハナと狐太郎君がハモった。
「うちの一族の間では油揚げは狐の好物とされててな、お揚げの乗ったうどんを狐うどんて呼ぶんだ」
「これ好き」
「狐太郎君も気に入ったか!天ぷらを乗せたら天ぷらうどん、肉にを乗せたら肉うどん、卵を乗せたら月見うどん、餅を乗せたら力うどん、天かすを乗せたらたぬきうどんだ」
「妖狐の間では醤油ベースの濃い味のつけ汁でつるっといただく夏の料理なんです」
「麺類は暑くて食欲なくてもつるっと入るもんね」
「具沢山の暖かいうどんの美味しさを王都に帰ったら家族にも伝えたいです」
「そりゃあ、いいな!」
「ねえ、午後は狐太郎君は私たちと治療しない?その間に巽は父さんから稲荷寿司の作り方を教わったら?」
「そうするか?」
「是非!お願いします」
稲荷寿司や油揚げのレシピも巽のお店と独占契約することになった。レシピを教える対価をもらうつもりは無かったけど、この世界での常識に従うことにした。




