第184話 オムライス
「鑑定するね」
「うん」
狐太郎君を鑑定するとサーモグラフィーのように色が見える。以前は真っ赤だった場所が黄色やオレンジ色になり、黄色かった場所からは色が消えている。
「1番酷かったところもだいぶ良くなったね」
「昨日もフルーツを食べた後は温泉に浸かって治癒魔法を掛け続けたもんね」
「ありがとう。俺また走れた」
「うんうん。でもまだ後遺症は無くなっていないから治療を続けようね」
「うん」
狐太郎君の治療もひと段落して、エステルやクラリッサの美肌の湯への情熱もひと段落、立ち仕事で足の疲労が酷かった遠野の足ツボマッサージと手荒れ治療もひと段落した。
3人が残る休暇で父さんに料理を習いたいと言い出したので父さんが大喜びだ。
「オムライスでいいのか?」
「是非!」
「お願いします!」
「絶対に自力で作れるようになりたいんです!」
巽はアルバロと一緒に狐太郎君の治療で温泉だ。もともと休暇中に稲荷寿司の作り方を教える約束だったが狐太郎君の治療を優先しているので、まだ教えられていない。
「まずは米を炊くところからな!べちゃっとすると美味くないから水は少なめに炊く」
みんなでお米をといでお鍋で炊いた。
「全員上手に炊けたな!次は具だ。にんじん、ピーマン、玉ねぎを4~5㎜角に、鶏肉は1㎝角に切る」
3人とも上手だ。
「フライパンに油をひいて熱くなったら野菜と肉を炒める。具に火が通ったら塩胡椒で下味をつける」
父さんが全員をチェックして次に進む。
「少し火を弱めて俺の手作りケチャップとバターを加える。ケチャップの水分を飛ばすように炒めたらご飯を加えて全体を混ぜて塩胡椒で味を整えたら完成だ。ぱらっと仕上げると美味い」
父さんが3人をチェックして次に進む。
「まずは薄焼き卵の基本のオムライスな!ボウルに卵を割り入れて塩を加えたらしっかり混ぜる」
3人とも箸は慣れていないのでフォークで混ぜている。
「フライパンに油をひいて火にかけてフライパン全体に油を広げる。熱くなったら卵液を一度に加えてすぐにフライパン全体に広げる」
「卵が半熟状になったら火を止めてフライパンの半分にチキンライスを盛って卵をそっとかぶせる。フライ返しを使うといいぞ。このままフライパンを傾けて卵の開いた部分が下にくるようにお皿に移せば完成だ」
簡単そうに見えるが難しいのだ。
「1人ずつやってみよう」
クラリッサから挑戦する。
「破れちゃったわ…」
次にエステル。
「お皿に移すのって難しいのね…ぐしゃぐしゃだわ」
最後に遠野。
「僕も破れた…」
3人がしょんぼりだ。
「難しいよね、私もよく失敗するんだ」
「食べるとおいしいよ」
「ハナが食べれば美味しいよって言ってる」
「ハナちゃん…」
「優しいのね…」
「破れただけで大成功だと思うぞ」
「リオさん…」
「次はたんぽぽオムライスだ。ボウルに卵を溶きほぐして塩胡椒を加えてよく混ぜる。フライパンにバターを溶かしたら卵液を一気に流し入れる。まん中に寄せるようにしてかき混ぜて底に膜ができたら火から離して奥に滑らせて卵の奥側を手前に返してとじる。難しいようならフライ返しを使ってもいい。中は半熟をキープだ。カナ」
「はい」
父さんの様子を見ながらお皿に盛り付けておいたチキンライスを差し出す。
「チキンライスの上にオムレツを乗せて完成だ」
赤いチキンライスの上に黄色いオムレツがぽってり乗っている。
「きれい!」
「美味しそう」
「そしたら、こうだ!」
父さんがナイフでオムレツに切れ目を入れるとチキンライスを覆うように半熟のオムレツが広がる。
「わあ!」
「美味しそう!」
「こんなに華やかなお料理見たことないです!」
3人とも大興奮だ。
これは3人とも上手に出来た。オムレツは普段から作っているとのことだった。
「最後にドレス・ド・オムライスだ。これは箸を使い慣れていないと難しいかな」
父さんがボウルに卵を割り入れて手早く混ぜる。
「フライパンにバターを熱する。火加減は弱めの中火な!ここに卵液を流し込む。卵の周りが固まってきたら、卵の端から中央に向かって箸を寄せる。卵にプリーツができるだろう?箸を固定したままフライパンを回す」
「卵がドレスみたい…」
「カナ」
チキンライスを盛ったお皿を父さんの近くに置いた。
「卵の中心を菜箸で押さえながら、フライパンからすべらせるようにしてチキンライスにかぶせたら完成だ」
「凄いわ…」
「なんて優雅なの」
これは3人とも失敗した。箸を使い慣れていないためにプリーツが作れずただの丸い卵焼きになった上に破れた。
「これは仕方ないよ」
3人ともしょんぼりだ。
「いい匂い!お腹すいたよー」
「アルバロ」
「午前の治療は終わり?」
「うん。お昼にしようよ、お腹空いちゃった」
お昼は当然オムライスだ。みんなが作った破れオムライスをテーブルに並べた。
「卵が破れたらケチャップやソースをかければいい。今日はいろいろソースを用意したぞ」
父さんがハヤシソース、トマトソース、きのこクリーム、ケチャップをテーブルに並べる。
「カナちゃん、とのくんとテルちゃんとクラちゃんのオムライスとって、全部にちがうソースかけてね」
「はいはい。みんなが作ったオムライスもらうね」
ハナのお皿に3人が作った基本のオムライスを盛り付けてそれぞれに違うソースをかける。
「おいしそー」
ハナがスプーンですくってぱくん。
「とのくんのもテルちゃんのもクラちゃんのもおいしー」
「3人のオムライス美味しいって」
「ハナちゃん!」
「嬉しいわ」
「ハナちゃんは優しいなあ」
「本当に美味しくできてるよ。3人とも料理は得意なんじゃない?」
「いやあ自信無くしちゃったよ」
「オムライスは難易度が高いんだよ。みんなも食べてみて、本当に美味しく出来てるよ」
「本当だ…」
「卵は破れたけどね」
「料理って見た目も大事なのねえ」
「料理教室いいなあ」
「巽君にも狐太郎君の治療と並行して教えるが狐太郎君の治療が最優先だ。なあに時間はたっぷりある。俺たちは長命だからな」
「…そうですね」
置いていかれたような淋しさを覚えていた巽が少し元気になった。
「お米料理のレシピも扱えたらいいのに」
「お!商業ギルドで買ってくれるのか?」
父さんがクラリッサに期待してる。
「残念ですけれどお米を食べる文化がないので売れる見込みが立たないって言われて商業ギルド内で企画を通してもらえないと思うんです」
父さんががっかりだ。
「僕が買うよ」
「巽が?」
「テリヤキの店を出す時もうちの家族の中で猛反対にあったんだ。だから仲間と商会を立ててね、テリヤキは支配人の桃吉と調理師の長吉が共同経営者なんだ。うちの家族の商売とは完全に別。桃吉と長吉に話してテリヤキの店の数量限定メニューから始めて人気が出たら専門店化するよ」
「リオさんと巽たちの商会の独占契約ってことね!是非とも私に担当させてちょうだい」
レシピの独占使用権ということで売れた分だけマージンが入ってくる仕組みらしい。大喜びの父さんが『じゃあ今年はお米もたくさん作るか!』と張り切り出した。父さんたらお米まで売る気になっている。田んぼの面積が予定の倍になりそうだ。




