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第182話 果樹園と温室

 朝も昼も夜もクサツの湯に浸かって治癒魔法をかけ続けた結果、3日後の昼に後遺症の赤い部分が消えた。


「良かった…狐太郎…」

 巽が狐太郎君を抱いて黙り込んだ。


 しかしオレンジ色や黄色の部分はまだまだ残っている。

「良くなるまで滞在していくよね?」

「いいの?」

「もちろんだよ」

 涙もろい父さんとアルバロがウルウルしながら肯いている。


「クラリッサたちは1週間のお休みだっけ?」

「ええ、残念だけど残りは3日よ」

「狐太郎君のおかげで私たちまで身体のメンテナンスさせてもらっちゃってラッキーだったわ」

「みんな疲労を溜めすぎだってば。クラリッサとエステルは美貌がマシマシだけど危険じゃない?変な男に尾行されたりしない?」

 エルフのクラリッサもハーフ・サキュバスのエステルも、元々美人なのに美肌の湯のおかげでキラキラ度が増している。


「そういうのは無いわねえ。もし遭遇しても魔法でどうにでもなるわよ」

「私も」

 エルフのクラリッサは魔法が得意だしハーフ・サキュバスのエステルは異性を服従させる系の魔法が得意らしい。…エステルの特技については詳しく聞かないことにした。


「僕のサロンの修復も終わるはずだし、お得意様に連絡しないと。温泉のおかげでガサガサだった手が良くなったよ」

 シャンプーで使うお湯やカラーやパーマの薬剤で美容師の遠野は酷い手荒れに一年中悩んでいるらしい。この数日ですべすべになったと喜んでいる。


「ねえ、狐太郎君に痛みが無ければ今日の午後は温泉治療をお休みしない?」

「だいじょうぶ」

 赤い部分が消えたので痛みに苦しむことはないはずだ。アルバロによるとオレンジ色や黄色い部分は天気が悪いとか体調が悪いとか何かの条件で痛みが出てくるらしいので半日くらい治療を休んでも問題ないだろう。


「みんなで裏山を散策しない?」

「行きたい!フルーツの木があるよ、ハナの好きなやつ」

みんなでフルーツをもいで食べたいというハナの言葉を通訳する。


「見てみたいわ」

「食事の時にいただいたフルーツはとっても美味しかったわ」

「珍しいフルーツもあったよね」

全員一致で果樹園にGOだ。


「お外さむいねー」

 軟弱なハナはペットスリングの中だ。それでも寒いとは、なんと可愛い軟弱熊なんじゃくまだろう。


「こっち?」

「そうだよ」

 狐太郎君が自分の脚で地面を駆けている。


「…狐太郎が走ってる」

 巽がウルウルだ。

 痛がりながら脚を庇うように、よろよろ歩くのが精一杯だった狐太郎君が走っているのだから感動的な光景だ。涙もろい父さんとアルバロはすでに嗚咽している。…2人とも巽を差し置いて泣きすぎだよ。


「りんごの木が見えてきた」

「結構実がなっているのね」

「私たちが食べる分は収穫済みなの。これは野生動物のために残しているんだ」

「それは素敵だね」

「この辺りはりんごと梨、桃、みかん、栗の木。みんなを案内したいのは温室」


さらに進むと温室が見えた。


「立派な温室だね!」

「広いのね」

「苺だけでも紅ほっぺ、とちおとめ、あまおうの3品種、メロンは夕張メロンとアールスメロンとエメラルドメロン。マンゴーは濃厚な甘みのアップルマンゴーとマンゴーの王様アルフォンソマンゴー。他にもパイナップルとかキウィとか、その他いろいろな南国のフルーツをいろいろ栽培しているの」

「食べ放題だ、好きなだけもいでくれ。温室の中の東屋でお茶を飲みながらいただこう」


「カナちゃん、降ろして」

 温室の中でやっとペットスリングから出た。


「こたくん、一緒にいちご食べようよ」

「うん」

 2人が仲良く駆けていった。


「私たちも行こう」

 籠を持って先導する。


「このメロンは美味しいから取っていこう」

鑑定して糖度が高いものを選んだ。


「あっちから甘い匂いがするわ」

「それはアルフォンソマンゴー。クラリッサが触ってるのは糖度が高いから美味しいと思うよ」

「とっていい?」

「もちろんだよ」

クラリッサがもいだアルフォンソマンゴーを籠にいれた。

「あっちもマンゴー?」

「マンゴーだけど違う品種。アップルマンゴーだよ。遠野が触ってるものの隣が甘いよ」

「これ?」

「そう」

遠野がもいだアップルマンゴーも籠に追加した。


「あの辺はいちごとナッツ。ハナと狐太郎君がいるね」


「おいしー」

「おいしー」

 ハナと狐太郎君がハモってた。


「一通り収穫したら戻ってお茶を飲むけどハナと狐太郎君はどうする?」

「一緒がいい」

「おれも」


 ハナと狐太郎君も合流し、みんなで見て回って一通り収穫した。

「じゃあ戻ろうか」



「あら?きれいなお花」

「本当ね」

「カナ、これはどんなフルーツになるの?」


父さんが育てているプルメリアだった。


「それはカナとハナの花だ」

「カナとハナちゃんが育てているんですか?」

「育てているのは俺だ。亡くなったカナの母親が好きだった花でカナとハナの名前の由来になった花だ。暖かい場所でないと咲かない南の花なんだ」

「素敵な由来ね」

「とっても綺麗」

「カナとハナちゃんに似合うね」

「ありがとう」

ちょっと恥ずかしいけど嬉しかった。


 東屋に戻ってフルーツをカットする。

「マンゴーやパイナップルをカットした状態は見覚えがあるでしょう?」

「食事の最後にいただくフルーツが楽しみだったの!」

「どれも美味しかったわ!」

「ここのフルーツは先祖がダンジョンから持ち帰った種を育てたものだ。ダンジョンのフルーツは美味いからな」

父さんが設定通りに説明した。


「これは珍しいと思うよ。サワーソップって言うの」

 柔らかくて繊維質な果肉でココナッツやバナナのような甘い香りに、いちごやパイナップルのような酸味も感じられて食べ慣れないと不思議な味に感じるフルーツだ。

「見た目はトゲトゲしてるのに中身は白くて甘い香りね!」

「これはチェリモヤ。見た目は棘のないサワーソップって感じかな、これも切ってみると果肉は白いよ」



 一通りカットし終わった。みんなの前に山盛りのもぎたてフルーツと取り皿。

「好きにとって食べてね、温室は暖かいから飲み物はアイスティーにしたよ」


「カナちゃん、ハナに白いのとって」

白い果肉はたくさんあるので今日のハナの注文は難しい…。


「おいしー」

「おいしー」

またハナと狐太郎君がハモった。


「うま!」

「甘っ!」

「これ何?」

 クラリッサとエステルと遠野は黄色いフルーツを半分に割ったものをスプーンですくって食べている。


「それはアビウ。南国のフルーツだよ」

「とろけるわ」

「すっごく美味しい」


「クラちゃん、テルちゃん、とのくん、アイスクリーム・ビーンもおいしいよ」

 ハナがお気に入りのアイスクリーム・ビーンを勧めるので通訳した。


「ハナちゃんのおすすめなら絶対に食べなきゃ!」

「そうね!」

「これ?」

「そう」

 大きな空豆の莢かヘチマのような緑色の物体に3人が興味津々だ。

「莢を割ると白い果肉があるでしょう?種は食べられないから出してね」


3人が果肉をすくってもぐもぐ…。

「美味しい!」

「香りが素晴らしいわ」

「ずっと味わっていたいけど、あっという間に無くなっちゃうんだね」


「おいしー!」

「本当に美味しい…」

 巽も狐太郎君に食べさせながら自分も食べて驚いている。

「気に入った?」

「うん!」


「マンゴーが1番好きかも」

「僕はメロン」

「私はアイスクリーム・ビーンが好き」


 みんなお気に入りが見つかったようだ。

この他にグルミチャマ、ビリバ、スターフルーツ、マメイサポテ、カニステル、プラサンなどを食べた。いつものフルーツと父さんと母さんの思い出のハワイ由来の南国もぎたてフルーツ食べ放題は大好評だった。

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