第180話 へろへろな4人
クラリッサとエステルがフットマッサージを堪能した頃、狐太郎たちが男湯から出てきた。
「随分叫んでいたけど、2人はどうしたの?」
「この椅子は凄いわ…」
「癖になるわね…」
へろへろのクラリッサとエステルが巽と遠野も試せと言う。
「俺とリザで夕飯を仕上げちまうから後を頼む。このマッサージチェアは効くぞ!」
「狐太郎君は私と一緒にこっち。巽たちがマッサージしている間、治癒魔法で治療しよう。ハナは私の隣ね」
狐太郎君をお膝に乗せるとハナが隣で寄りかかってきたので抱き寄せる。すごく可愛い。
「鑑定しながら治癒魔法を掛けてもいい?」
「うん」
狐太郎君を鑑定すると後遺症がばっちり残っている。大きな傷跡にも小さな傷跡にも丁寧に治癒魔法を掛けてゆく。
「あったかい…」
狐太郎君が目を細める。
── ぺろ
ハナが狐太郎君を労わるようにぺろっとしたら狐太郎君の尻尾が嬉しそうに揺れた。
ほのぼのな空気に包まれていると巽と遠野がうるさくなってきた。
「いてえ!いてててて!気持ちいてえ!」
「そこ!効く!だめ!」
2人ともうるさい。
「にいちゃん!」
狐太郎君がオロオロだ。
「狐太郎、にいちゃんは大丈夫だでででででででで!」
「これが効くのよ」
「もう少し強くしてみましょうよ」
エステルとクラリッサが巽と遠野の身体で遊び始めたけどアルバロがついているから大丈夫だろう。
「痛くて気持ちいいたーん!」
「アーッ!」
気にせず治癒魔法を掛け続けた。
「マッサージで血流やリンパの流れが促されて老廃物を排出しやすくなっているから水をたくさん飲んでお水と一緒に老廃物が体外に排出されるようにすると効果的だよ」
『トイレで出す』を丁寧に言った。何度か水分休憩を挟んだら4人ともトイレが近くなっていた。頑張って2リットルくらいは飲んでくれ。
「効いてるな!マッサージはどうだ?」
父さんが迎えに来た。夕飯の支度が出来たのだろう。
「気持ちいいのと痛いのと不思議な感覚です」
「身体がじわじわしてて…」
「うんうん効いてるな。明日は眠くて起きられないと思うぞ。そろそろ夕飯を食えるか?」
「実はお腹すいちゃって」
「はしゃぎ過ぎました」
「狐太郎君の治療が1番の目的だが、せっかくだから楽しんでいってくれ!食堂はこっちだ」
「今日はテーブル席にしてみた。うちの一族の食文化は幅広いんだが今日は王都っぽくしてみたぞ。疲れているところに食べ慣れないものを食うのは身体に負担だろうからな!」
「狐太郎君は巽さんの隣ですよね、これは子供用の椅子です」
「ありがとう」
「ありがとうございますリザさん、狐太郎もありがとうと言っています」
「いえいえ可愛いですね」
リザから狐太郎君に向かってハートが迸っている。
「王都のレストランや屋台で食べて美味かったメニューを再現してみた。おかわりあるからな!」
「これはロイヒケットですね」
「当たりだ!遠野君のお友達のヘンリクさんのお店で食べた野菜と鮭のミルク煮込みが美味かったんだ。今じゃハナちゃんの大好物でよく作るんだ」
「鮭!」
「嬉しいな、ヘンリクが喜びますよ」
「当然だけど同じようには作れないから似た料理だ!また食いに行くと伝えてくれ」
「この串焼きは中央広場の屋台に似てる!」
「当たりだ。リザの大好物なんだがいつも行列だろう。買い占めるのは並んでる人に悪いからリザの為に研究して似た味を出せるように頑張った」
「奥様想いなんですね」
「…エステルさんたら、恥ずかしい」
ラブラブを指摘されて照れまくるリザが照れながら大量の串焼きを食べてエステルを圧倒した。
「全部美味しいです!」
「明日からうちの一族っぽい料理も出していくな!」
「巽の一族には似たものがあるんじゃない?」
「僕もカナたちが味噌やうどんを食べると知って驚いたよ」
「妖狐はお米も食べるし、共通点が多いよね」
「お米を食べるの?」
「うん」
エステルと遠野がびっくり顔だ。この世界でお米は飼料扱いだから飼い葉を人間が食べるようなイメージなのだろう。
「うちは人間が食べる用に美味い米を栽培しているんだ。料理ごとに品種も使い分けているんだぞ」
「リオさんのお米料理、いただいてみたいです!」
ビジネスっぽい顔でクラリッサが拳を握った。王都でお米料理が流行る日が来るかもしれない。




