第177話 我が家にご招待
冒険者ギルドでの買い取りは再来週あたりに延期してもらって王都の友達を東の秘境にある我が家に招待することになった。
王都の門を出たところで馬車を出してリザがドラゴン化しても騒ぎにならない場所まで移動する。
「みんなシートベルトしてね」
「これ?」
「そう、ガチャっと」
アルバロのサポートで全員シートベルトを装着できた。
「出発するよー」
私の馬車にはクラリッサとエステルと遠野と巽と狐太郎君とハナ。父さんの馬車には父さんとリザ。
馬車はこっちの世界に来る前は車だったが、こちらの文化レベルに合わせて馬車に自動変換された。動力は馬型オートマタで運転方法は車と同じだ。
私の馬車の方が父さんの馬車より大きくて立派な理由は『事故にあった時に華奢な車だと大怪我しそうだから』という理由で父さんが出資してくれたからだ。こちらで大型馬車になったので全員ゆったり乗れた。
最初から街道を外れてマッピングスキルが示すまま30分ほど走ったら人がいなくなった。
「父さんがスピードを落としたから、そろそろ停止するよ」
ゆるゆる停車した。
「じゃあ、みんな降りてー」
アルバロが手伝ってシートベルトを外して全員降りたので馬車をインベントリにしまった。
「じゃあ私の背中に乗ってくださいね、私はカナさんの義理のお母さんです。移動はお母さんに任せてください!」
新婚気分のリザがドラゴン化した。2人は田植えが終わったら新婚旅行に行くと言っているが遅くなった分、ゆっくりしてきてほしい。
「ほらほら乗って」
父さんと私で全員を引き上げた。
「寝そべっていても落ちないし寒くないからリラックスしててくれ。リザ、頼む」
「はーい!」
リザが機嫌良く飛び立った。
「…風を感じないわ」
「凄いわ、移動している気がしないのね」
「昼寝してても寝返りをうっても落ちないからリラックスしてて大丈夫だぞ」
リザの背中でくつろいでしまった。
2時間半ほどでいつもの景色が見えてきた。着陸するのは裏山温泉の少し上だ。飛び立ったり着陸する時の風が凄いので建物から離れた場所にリザ専用のヘリポートのような場所がある。
「着きましたよ」
降りやすいようリザが身体を傾けてくれた。全員降りたのでリザも人化して裏山温泉に向かう。
「あの建物だよ、こっちは裏側だから入口は反対側なんだ」
裏山温泉の周りはちょっとした庭園になっている。もちろん和風だ。
「やっぱり妖狐とハイヒューマンって文化が似てるかも、建物や庭園の雰囲気が近いと思う」
「そうなの?気に入ってもらえるといいんだけど」
そんな話をしているうちに入口に着いた。
「ここが玄関。さあどうぞ、この廊下を進むと左に座敷の大広間、右にテーブルの部屋。トイレは男女別だよ」
テレビとコタツを置いた家族部屋は空っぽの畳の部屋になっているので安心だ。流石にテレビは見せられない。
「まずは昼飯にしよう、空腹で温泉に入ると体調を崩すことがあるからな」
今日はサンドイッチだった。BLT、えびアボカド、照り焼きチキンと卵のてり玉サンド、ツナマヨきゅうり、焼き肉サンド、カツサンド、ローストビーフ。
「パンはカナが焼いて具はおじさんが作ったんだ。たくさん食べてな!ハナちゃんの好きなフルーツサンドもあるぞ。スープはミネストローネな」
「カナちゃん、ローストビーフとって!苺のも」
「はいはい」
ハナに好みのものを取ってやる。横を見ると狐太郎君も巽に好きなものをとってもらっていた。
「おいしー」
「おいしー」
ハナと狐太郎君の『おいしー』がハモった。すごく可愛い。
「食べたことない美味しいソースを挟んであるのね」
「どの味付けも美味しいわ」
「お肉が柔らかいですね!」
「たくさん食えよ!」
「後でお部屋を選んでね。全室にトイレと露天風呂、縁側がついているから庭園を眺めながら露天風呂に入れるよ。雰囲気の違う内装で20部屋あるから」
「凄い施設ですね…」
「我が家は質素なんだがな。ここには週末だけ来るって決めているんだ」
「平日は畑なんかの仕事を頑張って、ここは週末のご褒美なの」
ハイヒューマンって圧倒的な力があるのに堅実なんだなと感心する巽たちだった。




