第175話 巽の両親
翌日、巽の店が開店したばかりの空いていそうな時刻を狙って訪ねた。
「おはよう」
「おはようカナ、今日はどうしたの?」
「狐太郎君だよ。治癒魔法を掛けてもいい?」
「助かるよ!ありがとう」
巽に案内されてバックヤードに行くと巽に似た紳士とご婦人が狐太郎君をあやしていた。
「狐太郎」
巽が狐太郎君を呼ぶと耳を立ててこちらを向いた。
「ハナちゃんとカナちゃん!」
「おはよう、こたくん」
ハナが狐太郎君に挨拶する。
紳士とご婦人に会釈をして狐太郎君に近づく。
「おはよう、痛みがぶり返していない?」
「うん…」
「痛むんだね」
「うん」
「治癒魔法を掛けてもいい?」
「ありがと」
全身に治癒魔法を掛ける。背中と足は特に念入りに掛けると狐太郎君が目を細める。
「カナちゃんの治癒魔法あったかい…」
「痛みは引いた?」
「うん」
「昨日の午後に治癒魔法を掛けたでしょう?昨日の夜は痛かった?」
「ううん」
「今日の朝は?」
「痛かった」
「寝てる間は?痛くて目が覚めた?」
「起きてない」
「10時間から13時間くらいで効果が消えると思っていいかな、毎日朝と夕方に掛けたら楽になると思う」
「ありがたいけど、いいの?」
「うん。王都にいる間は冒険者ギルドや錬金ギルドや商業ギルドに通うくらいしか用事がないし」
「感謝するよ!」
「ありがとうございます!」
「なんとお礼を言ったらいいか!」
巽を押し退けて狐太郎君をあやしていた紳士とご婦人に手を取って感謝された。
「…えっと」
「ちょっと!カナがびっくりしてるじゃん、2人ともやめてよ。ごめんカナ、この2人は狐太郎を孫扱いしてて」
「ご両親ですか?」
「あらあらあら!私たちったら!」
「自己紹介もせずに申し訳ない。わしらは巽のお父さんとお母さんで、狐太郎君のおじいちゃんとおばあちゃんだ」
「鯉登カナです。この子はハナです」
「聞いているわ!巽ったらハナちゃんに会って従魔を迎えたくなったって。ハナちゃんも可愛いわねえ」
『可愛い』にハナが反応してニコニコしている。
「巽から聞いたよ。狐太郎君はハナちゃんと寄り添って日向ぼっこをしたんだって?」
「ハナと狐太郎君が寄り添って可愛いかったですねえ」
「まあまあまあ!ハナちゃんと寄り添って?」
「そこまで!お父さんもお母さんも仕事に戻って。仕事をサボるなら狐太郎に会わせないよ」
「そんな!」
「これから商談でしょう?今まで以上に秘書の豆助さんに厳しくスケジュール管理してもらうからね」
「巽も豆助も厳しいぞ…」
「ほらほら仕事!」
巽のご両親は豆助さんらしき人に連行されていった。
「狐太郎君は大切にされているんだね」
「ありがたいんだけど過剰なんだ」
「幸せだと思うよ」
「よかったね、こたくん」
「うん!昨日ハナちゃんがおじさんに見つけてもらってよかったって言ってたけど、おれもにいちゃんに助けてもらえて良かった」
「…ぐすっ」
巽が泣いていた。分かる…分かるよ。
「えっと、今日のお昼に巽が経営するカフェに集合でいい?」
「うん、エステルとクラリッサと遠野にも連絡済みだから」
「分かった、後でね」
「ばいばい、こたくん」
「ばいばいハナちゃん」
ハナがペットスリングの中から手をふると狐太郎君が尻尾をふった。狐太郎君とハナのやりとりが可愛いくて胸が苦しい…巽も心臓を押さえていた。




