第173話 狐太郎
ハナの初めてのおつかいは大成功だった。
「ごめんね、ハナが1人で来てびっくりしたでしょう?」
「まさか王都にいると思わなかったしね」
「昨日着いたの。今日は朝から家族で冒険者ギルドに行ってたんだけどハナがお買い物するって聞かなくて。パルミラさんが間に入ってくれて私たちが後ろから着いて行くことは受け入れてくれたの」
困ったようにハナを見るがハナは知らんぷりだ。
「ちょうど僕もカナに相談があったんだ」
「相談?」
「冬の間に商談でコルナスに行ったんだけど帰りに従魔を保護したんだ」
予想もしない相談だった。
「紹介するから一緒に来て」
バックヤードの日当たりの良い場所に置かれたクッションの上で毛玉が丸くなっていた。
「狐太郎」
「にいちゃん!」
もっふもふの小狐がピンと耳を立てて尻尾を振る。
「かわいー」
ハナが一目で狐太郎を気に入ったようだ。
「この子はハナちゃん、ハナちゃんのパートナーのカナ、2人とも僕の友達だよ」
「おれ狐太郎。兄ちゃんがつけてくれた名前!」
「かっこいい名前だね」
「えへへ」
巽が狐太郎を撫でる。
「保護した時に狐太郎は怪我をしててね、ポーションでも治らなかったんだ。うちの両親と姉が狐太郎に夢中で3人が狐太郎のために良い治療師を探すと言っているんだけど冬の間は移動もままならないから」
「最高級ポーションは試した?」
「うん。でも完全には良くならなかったんだ」
「そうなんだ…父さんとアルバロにも相談してみたいんだけど狐太郎君を連れてうちに来てもらうことって出来る?」
「いいの?しくしく痛むらしくて、なんとかできたらと思うんだ」
「約束は出来ないし治療法のヒントがあればいいなって感じなんだけど」
「それでも嬉しいよ、ありがとう」
巽の仕事がひと段落した午後に家まで来てもらうことになった。
「じゃあ、午後にね」」
「ハナちゃん、お買い上げありがとうございました、またね」
「こたくん、ばいばい」
ハナが狐太郎君に手を振る。
「ばいばい」
狐太郎君が尻尾を振り返してくれて可愛い。
冒険者ギルドに戻ると父さんたちがそわそわ待っていた。
「ハナちゃん!」
「パパ!」
ハナを降ろすと父さんに向かって走っていった。
「みて!ハナが買ったお茶」
ハナが得意げにインベントリからお茶の包みを取り出す。
「ハナちゃんは凄いな!」
「むふー」
ハナの鼻息が自慢げだ。
「帰ってハナが買ってくれたお茶を飲む?」
「そうするか!」
家に帰ってお湯を沸かす間、ハナが足元をちょろちょろする。
「お湯が沸いたよ。こたつで飲む?」
「うん!」
こたつにやかんを運ぶとガラスのティーポットとカップが用意されていた。
「ハナ、お茶を出してくれる?」
「うん」
ハナがインベントリから出したレモンバーベナの茶葉をティーポットに入れてお湯を注ぐ。少し待つと綺麗な色がでて爽やかな香りが広がったので人数分のカップに注いで配る。
「これは爽やかだな」
「おいしー。ギルドで飲んだのとおんなじ」
「うん、同じだね」
レモンバーベナのお茶が大好評でハナが嬉しそうだ。
「カナちゃん、もう一つも」
「はいはい」
ローズヒップティーを淹れて配る。
「薄いピンク色で綺麗だな」
「おいしー」
「ローズヒップティーはビタミンCがレモンの20倍入ってるらしいよ、美容にもいいんだって。どっちも美味しいよハナ」
「むふー」
よほど嬉しかったのか、ハナが夜までずっとはしゃいでいた。




