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第172話 ハナ、初めてのおつかい

「たっくんのお店でカナちゃんのお茶買う!」


カナが固まった。

「ハ、ハナ?」

「初めてのおつかいする!」

「だめだめ!危ないでしょう?ハナはこんなに可愛いんだからさらわれちゃう!」

「ハナ強いから大丈夫!いく」

「えええ…」

「お金ちょうだい」

「ハナ、考え直そう?王都は人が多いし馬車も多いから踏まれたり轢かれたりしちゃう」

「いくの!」

必死で止めるカナと一歩も引かないハナ。


「どうしたんだい?」

ハナの言葉が分からないパルミラだった。


「ハナが1人で買い物に行くと言うんです。危ないし心配で…」

「ハナちゃんはご家族以外言葉が通じないのでは?」

「たっくんは通じる」

「妖狐の巽はテイマーのスキルがあるから通じるんです。それにハナのこともよく知っているんです。でも…」

「ああ、隣の通りに妖狐の一族が経営するお店があるわね」

「さっき酒場で飲んだレモンバーベナのお茶が美味しかったから巽のお店に買いに行くと言うんです」

「行く!」

困った…。


「ハナちゃん、ハナちゃんは従魔でしょう?」

「うん」

「例え相手がハナちゃんを攫おうとした悪い人間でも従魔が人を襲ったら主人のカナさんが罰せられます。だから私も反対です」

パルミラさんがはっきりと言ってくれた。


「やだやだやだー!行くのー!」

ハナには通じなかった…。


「では条件付きでどうでしょう?」

「パルミラさん?」

「ハナちゃんが1人でお店に行きます。少し離れてカナさんと私が着いていきます。ハナちゃんがトラブルに巻き込まれた時にカナさんが対処できるし、私が証言出来ます」

「そんなの初めてのおつかいじゃないもん!」

ハナがぷくっとふくれた。


「この妥協案が受け入れられないならハナちゃんは危険な従魔として登録されて二度と王都に入れません」


 カナたちが王都に行っている間、ひとりぼっちで留守番する自分を想像して我儘を通そうという気持ちが萎えるハナだった。


「……ついてきてもいいけど、ちゃんと離れててね。ハナのおつかい邪魔しないでね!」

ハナが渋々ながら同意した。


「じゃあこれがお金ね。ハナのお財布に入れるよ」

熊柄のお財布にお金を入れて渡す。

「ありがとー!」

ハナがお財布をインベントリにしまう。




「ついてきてもいいけど離れててね!」


 ハナが自信満々に歩き出すのでハナの周りに防御魔法を展開しながら後を追う。これで誰もハナに触れない。

 すれ違う人たちが驚いてハナを見ているがハナは気にしていない。驚いた人たちはハナの後ろを歩く私とパルミラさんを見て事情を察するようだ。


 ハナが通りの端っこで左に曲がった。ちゃんと道を覚えていて、うちのハナちゃんは天才じゃないかな。


「ここ!たっくんの匂いする!」

15分ほど歩いて巽の店に着いた。匂いで巽の居場所が分かるようで迷いなく入っていく。


「たっくん!」

ハナが元気よく走り寄る。


「ハナちゃん!?どうしたの?」

「ハナの初めてのおつかい!カナちゃんにお茶買うの!」

「…じゃあ隣の店に行こうか」

 とりあえずハナを保護しようという雰囲気の巽がハナをがっちり抱き上げて食料品の店舗に向かう。


「どんなお茶がいいの?」

「さっきギルドでのんだお茶!おいしかったの」

「冒険者ギルドから1人で来たの?」

「うん!」

「カナが心配してるんじゃない?」

「カナちゃんは心配しすぎなのよ。ハナはお姉ちゃんだからおつかいできるの」

「おつかいが終わったら僕が送っていくよ」

「ハナ1人で帰れるよ」

「だめ」

「…仕方ないの」

「納得してくれてよかった。お茶はこの列。冒険者ギルドの酒場に卸しているのはこれとこれ」

「それ買う。お金はこれ」

ハナがインベントリからお財布を出した。


「じゃあ100gずつ包もうね、レモンバーベナとローズヒップ。合わせて830シルだけど良いかな?」

「うん」

「じゃあお包みして」

 巽が近くで控えていた店員に指示するとハーブティーを量ってくれているのが見えた。


「どうぞ」

「ハナちゃん、商品の準備が出来たからお財布からお金をもらうね」

「うん」

店員さんがハナのお財布を開けて830シル取り出して見せる。

「830シルもらうね、これが領収証。領収証を折りたたんでお財布に入れてあげて」

店員さんが巽の指示通りに領収証をお財布に入れてくれた。


「ハナちゃんにお財布を返すね」

ハナがお財布をインベントリにしまう。

「これがお茶。ハナちゃんお買い上げありがとうございました」

ハナがハーブティーの包みをインベントリにしまう。


「ハナ、1人でおつかいできたよ!」

「ハナちゃんはすごいね。ハナちゃんができる子なのは証明されたから、もう1人で出かけちゃだめだよ」

「ええー」

「ハナちゃんができる子なのはカナもよく分かっているはずだよ。でもハナちゃんは可愛いからさらわれる心配があるんだよ」

「たっくん、カナちゃんとおんなじこと言う」

ハナがぷくっとふくれると巽が苦笑した。



「ハナ、おつかいできたね」

 もういいかと近づいて声を掛ける。

「カナちゃん!」

 ハナが手を伸ばしてきたので抱き止めるとしがみついてきた。


「カナちゃん、お茶買ったよ!」

 ハナがインベントリからハーブティーの包みを出す。

「本当だ。冒険者ギルドで飲んだのと同じやつだね。ありがとうハナ」

「むふー」

ハナが得意顔だ。


「よかったねカナさん。ハナちゃんも偉かったね」

「パルミラさん、付き合ってくださってありがとうございました」

「かまわないよ。可愛い姿を見られてラッキーだった」

 冒険者ギルドのギルドマスターのパルミラさんを見て巽がいろいろ察したようだ。


「査定が終わったら使いを出すから。またね、ハナちゃん」

「またねー」

 ハナがお気楽に手を振る横でカナが深々とお辞儀をした。



ハナの初めてのおつかいは大成功だった。

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