第170話 王都とアスパラガス
春一番が吹いた。
「そろそろ王都に行かない?」
「売りたい魔物やドロップ品も溜まってきたしな」
全員一致で王都に滞在することになり、1日かけて父さんと私とアルバロのインベントリにあるドロップ品を整理した。
売ってもいい食べ物は父さんのインベントリ、魔物はアルバロのインベントリ、それ以外の鉱物や宝石は私のインベントリに整理出来たので翌日王都に向けて出発した。
「リザのスピード凄いね!」
今日もドラゴン化したリザの背に乗って王都の近くまであっという間だった。そこから馬車に乗り換えてマッピングスキルに表示される危険地帯を浄化しながら王都に向かった。
「アンデッドが出没する場所は少ないね」
「王都に近づく前にたいていの魔物は倒されるし、人が多い場所はスキル持ちがいるから浄化済みなんだよね」
ほとんど寄り道せずに進めるのでハナの機嫌が良い。
「やっぱり王都に入るのは行列なんだね」
行列を父さんたちに任せてハナと一緒に我が家に魔方陣で転移してハナを庭で遊ばせて私は家庭菜園の世話をした。
「カナちゃん、それなあに」
「アスパラガスだよ。ちょうど収穫どきだね」
ハナにフンフンされながら緑のアスパラガスと白いアスパラガスを収穫した。父さんが美味しく料理してくれるだろう。
「そろそろだよ」
アスパラガスの収穫が終わる頃、アルバロが迎えに来てくれたので泥だらけの自分とハナを浄化して馬車に戻った。ハナをペットスリングに入れて馬車から降りると前回と同じ門番さんだった。
「この前のクマちゃんだ。ギルドカードをピカピカさせてたよね」
「これが私とハナのギルドカードです」
ハナが得意げに魔力を流してギルドカードをピカピカさせる。
「ハナちゃんていうの?可愛いね。はい、みなさん問題ございません。王都の滞在をお楽しみください」
愛犬時代から『可愛い』を言いすぎてハナは自分の名前が『可愛い』だと勘違いして混乱することがあった。今日も『可愛い』に反応してご機嫌だ。
「家でゆっくりしてから冒険者ギルドでいいよな」
「うん、少し休もうよ」
前回の滞在で買った中古住宅に向かい、家に入ると手分けして全体を浄化した。
「カナちゃーん」
浄化の間、放流していたハナが庭から私を呼んでいるので窓から顔を出すと塀の向こうにお隣のタタンカさんがいた。
「タタンカさん!」
「お久しぶりですね」
塀の向こうのタタンカさんがニコニコ微笑んでいた。
「タタおじさん抱っこ」
タタンカさんをお茶に招待するとハナがタタンカさんに抱っこをねだった。テイマースキル保持者のタタンカさんはハナの言葉を理解して、優しくハナを抱っこしてなでなでしてくれた。
「どうぞ、これは領地で採れたお茶なんです。うちの種族が古くから飲んできたもので、お好みで砂糖やミルクを入れてくださいね」
タタンカさんに紅茶を出した。
「ハナはミルクティーにして」
「はいはい」
ハナの分は私がミルクティーにした。
「今日のお菓子ははちみつマドレーヌとナッツのクッキーです」
ホワイトデーの残りだけどタタンカさんの好みだと思う。ハナを1人で座らせてタタンカさんにお茶とお菓子をすすめた。
「香りのいいお茶ですね、とても美味しいです」
タタンカさんはハナと同じくミルクティーにしていた。
「このクッキーはハナちゃんかな?とても可愛いね」
「ハナがナッツを好きなので。ナッツを抱いている熊なんですよ」
「おいしー」
ハナもドヤ顔でクッキーを食べている。
「マドレーヌははちみつで甘くしてあるんです」
タタンカさんが雷に打たれたような顔をした。相変わらずはちみつ大好きなようだ。
「とても美味しいですね、素晴らしい…」
「ピアスのおかげでオーブンで火傷の心配もないんですよ」
タタンカさんはネイティブ・アメリカンぽいハンドメイド・ジュエリーのデザイナーで宝石商で付与師で、父さんが私のために注文してくれた火傷防止ピアスの製作者だ。
「役に立っているようでよかったです」
着いたばかりで長居は迷惑だからとタタンカさんに、はちみつマドレーヌとナッツのクッキーをお土産に包んだ。
「タタおじさん、またね」
ハナが名残惜しそうだ。隣人がタタンカさんでよかった。
冒険者ギルドへ魔物やドロップ品を売りに行くのは明日にして今日収穫したアスパラガスで晩御飯にした。
「前菜はアスパラガスのオランデーズソースでスープはホワイトアスパラガスのヴルーテ。メインは春野菜とクラーケンでパスタにした」
「おいしー」
「私もオランデーズソースとアスパラガスの組み合わせ大好き」
オランデーズソースは、卵黄とバターとレモン果汁で作った濃厚なソースで私の大好きなソースだ。
「スープも美味しいね」
「じゃがいもと玉ねぎとエシャロットも入っているぞ。アスパラガスの茹で汁ごと滑らかなスープにしてあるんだ」
春野菜とクラーケンのパスタも美味しくて大満足な夕食だった。




