第168話 ホワイトデー
小旅行のように港町やダンジョンを日帰りで楽しんでいるうちにホワイトデーがやってきた。
普通はお返しをもらえるはずだけど、なぜかバレンタインに続いてホワイトデーも私がスイーツを作ることになっていた。めんどくせえ…でもハナが期待しているので作る。
「カナちゃん、何作るの?」
「ふふふ、これ買っちゃった」
「それなあに?」
シリコン型をハナに見せるが反応が鈍い。
「新しい焼き菓子の型だよ。これでマドレーヌを焼くよ」
「マドレーヌ!」
「はちみつのマドレーヌだよ」
「やったあ」
ハナに見守られながら調理開始だ。
卵を泡立て器でほぐしたらグラニュー糖とはちみつを加えて混ぜる。そこに振るった粉類を混ぜたら溶かしバターを加えてよく混ぜたら型に流し入れて予熱しておいたオーブンで焼く。
「次はクッキーね」
「ハナ、カナちゃんのクッキー大好き」
「そうなの?嬉しいな」
丸い尻尾をぴこぴこさせて今日もハナが可愛い。これは頑張って美味しいのを作らないと。
バターと粉砂糖をなめらかになるまですり混ぜたら卵黄を加えてさらに混ぜる。そこに粉を加えて混ぜたらひとまとめにして冷やす。今日は冷却魔法でやった。打粉をして麺棒で伸ばして型で抜いて並べてゆく。クッキーの型が熊であるとハナはまだ気づいていない。
「今日はナッツを乗せていくよ」
熊のお腹にナッツを乗せて右手と左手を折るとナッツを抱きしめる熊のクッキーになるが、ハナはまだ熊の形であると気づいていないようだ。
「クッキーも焼いていくよ」
はちみつマドレーヌが焼けた頃合いなので中心に竹串を刺してみる。竹串に生地がついてこないので焼き上がり。マドレーヌを出して入れ替わりにクッキーを焼く。マドレーヌは網にのせて冷ます。
「待ってる間にナッツ食べる?」
「うん!」
クッキーに乗せたナッツを小皿に入れて牛乳も注いでやる。
「くるみもアーモンドもカシューナッツもおいしー」
「よかったね」
クッキーとマドレーヌがあるので少量のナッツで満足してくれて良かった。ハナがゆっくり食べている間にクッキーも焼けたので網に出して冷ます。
「冷めてから仕上げるからお散歩ダンジョンに行こうか」
「いく」
スイーツへの情熱を発散させたかったようで素直に行くと言ってくれた。仕上げる前だから食べちゃダメとアルバロ宛の置き手紙を残してハナとダンジョンに向かった。
今日のフィールドは海だった。わずかな陸を移動しながらマーフォークを倒しまくった。ハナは楽しくないかもしれないけれどドロップ品が真珠だったので張り切って倒しまくった。
初めて海のフィールドに遭遇した日、ドロップ品がそのまま海に沈んでしまったのでアルバロを締め上げたら海フィールドでドロップしたアイテムは自動的にアイテムボックスに入るようにしてくれた。アルバロは考え方に柔軟性があって良い神様だと思う。
「カナちゃんが好きなのでたねー」
「うん。真珠がたくさんドロップして嬉しいよ」
ほくほくで帰宅した。私が真珠を好きなので、いつもより張り切ってくれたようだ。ハナがいい子で可愛いくてたまらん。
そろそろ冷めたかとキッチンに向かうとお預け状態のアルバロが待っていた。置き手紙が無かったらつまみ食いしていたに違いない。
「おかえり!」
「ただいま」
「これから仕上げ?」
「そう、ちょっと待ってね」
網に乗せて冷ましていたマドレーヌとクッキーを並べてチョコペンを用意した。
「ここに顔を描いていくよ」
チョコペンで目や鼻を描くと熊らしくなる。
「これハナ!ハナに似てる!」
ハナが両手を上下にぶんぶんさせて大興奮だ。
「そうだよマドレーヌもクッキーも熊さん」
「うれしー!早くたべよ?」
「ちょっと待ってね」
全部のマドレーヌとクッキーに顔を描いた。
「お茶の準備をするから父さんとリザを呼んできてくれる?」
「わかったー!」
アルバロがお湯を沸かしてくれていたので紅茶を淹れた。ハナにはミルクティー。こっちの世界はハーブティーばかりなので緑茶や紅茶も栽培したいな。
「可愛く出来たな」
「いただきまーす」
ハナがクッキーをぱくん。
「おいしー」
「マドレーヌは、はちみつのコクがあって美味いな」
ハナにも父さんにも好評で良かった。
「ねえねえ、今日のダンジョンはサービスしたんだよ!」
「ドロップ品が真珠だったこと?」
「そう!気に入った?」
「…ありがとう」
真珠を贈るのではなく『自力で取ってこい、ただし魔物が出るがな!』という状況だったのにアルバロにとってはサービスという感覚なのか、こいつ絶対にモテないな…と思った。




