第166話 ひな祭り
「ひな祭り?」
「カナとハナちゃんの日だ」
ハナがポカンだ。
「ハナちゃんは覚えていないか?カナ、お雛様を出してみたらどうだ?」
「納戸から取ってくるね」
ハナがついてきた。真横をトコトコ歩くハナが可愛い。
「これこれ。7段飾りだから組み立てが大変なんだよね」
全部の箱をインベントリに入れると運ぶのが楽だ。
「ハナの部屋の床の間に出すよ、骨組みから組み立てていくから組み立て中は近づき過ぎて怪我しないようにね」
近づきすぎないようハナに注意してから組み立て始める。
「ひな壇を組み立て終わったから赤い毛氈を敷くよ。次にお人形やぼんぼり、お道具を乗せたらお人形に扇子や刀を持たせて完成」
「これ知ってる!」
「思い出した?」
「うん」
これも愛犬時代のハナは柵越しにしか見たことがないはずだ。
「ぼんぼりのスイッチ入れようか」
スイッチを入れると中心の傘がくるくる回るのが楽しいようでハナが夢中で眺めている。
「きれいねー」
「気に入った?」
「うん」
「お雛様は早めにしまうのが良いって言われているから、ひな祭りが終わったらお片付けしようね」
「ええー」
「出しっ放しだと来年の楽しみが無くなっちゃうでしょ」
「うん」
不満そうだったが分かってくれて良かった。
「お!出来たのか、きれいだな」
父さんが襖を開けてのぞいてた。
「これも飾ったらどうだ」
父さんが差し出したのは裏山の温室で栽培しているプルメリアだ。プルメリアは亡くなった母さんが好きだった花で、私とハナの名前の由来になった花だ。裏山の温室で父さんが世話しており途切れることなく美しい花を咲かせている。
「カナちゃんとハナのお花!」
「ひな祭りはハナとカナの日だからな」
「うれしー!カナちゃん飾って」
「はいはい」
花瓶にいけて水魔法で花瓶に水を注ぐ。水道まで行かずに横着した。
「ひな祭りの日はひな祭りのご馳走だぞ」
「ごちそう!?」
ハナが父さんに飛びついた。
「ちらし寿司とはまぐりのお吸い物と甘酒だ。ちらし寿司にはサーモンも乗せような」
「鮭!」
その日から寝る前に雛人形のぼんぼりのスイッチを入れて眺めるのがハナの習慣になった。眺めながら眠ってしまうハナを布団に寝かせてスイッチを切るのがカナの仕事になって数日でひな祭りを迎えた。
「今日は鮭?」
ハナが夕飯の支度をする父さんの足元をちょろちょろする。
「ああ。たくさん入れような」
「やったあ!お昼に食べた桜餅もおいしかったね」
ひな祭りのご馳走を一度にたくさん食べられないハナのために桜餅は昼に食べた。ご馳走と桜餅を一度に食べるのはハナのお腹に負担が大きい。
「お出汁のいいにおい」
はまぐりのお吸い物に向かってハナがフンフンする。
「そろそろ出来るぞ」
「お腹すいたー!」
こたつに運んでいただきます。
「ちらし寿司は具沢山にしたぞ。ハナちゃんにはサーモンのお刺身もな」
父さんがハナのちらし寿司の上にサーモンのお刺身を薔薇の花のように可愛く盛り付けた。
「おいしー」
「うん、美味しいね!」
「シーフードのダンジョンのサーモンだ。また取りに行こう」
「シーフードのダンジョン以外の港町の朝市も行ってみたくない?」
「それもいいな!」
春を待たずに出かけることになった。行ったことない街への小旅行だ。
「おいしかったー!」
「じゃあスイーツを切ろうか」
「やったあ」
菱餅に見立てて緑、白、赤(桃)の3色ババロワを作った。緑は市販のピスタチオのアイスを使って簡単に、ピンクは裏山で採れた苺で作った。
「緑は厄除けと健康、白は子孫繁栄と長寿、赤(桃)は魔除けの意味があるんだって。ちょっと待ってね、今日は盛り合わせにするから」
ババロワの横にバニラアイスを乗せて召喚魔法(インターネット通販)で買ったパステルカラーのひなあられをバニラアイスに散らした。パステルカラーがひな祭りっぽい。
「すっごいー!」
ハナが大興奮だ。好みも性格も女の子らしいハナはキラキラやピンクやパステルカラーが大好きなので喜んでもらえた。
「ひな祭りって楽しいね!」
「来年もやろうね」
「うん」
今日もハナが可愛いかった。




