第165話 竜人族と温泉
リザの実家に温泉を引きに来た。
竜人族の中でも若いリザが熱心にニュウトウオンセンキョウのお湯で治療するくらいだから一族全員つかった方が良い。
竜人族の里に引くお湯は高血圧症、動脈硬化症、皮膚病、糖尿病などに効果があるニュウトウオンセンキョウの源泉だ。
竜人族は焦げた肉と生焼けの肉と塩分と強いお酒ばっかり飲み食いしているようなので、いくら丈夫な種族でも病気になりそうで心配だ。
温泉のお湯は様々な成分を含んでいて効果効能があるとされているけれど、この世界の温泉は魔力も含んでいて高い治療効果があるらしいから竜人族のみんなが温泉を好きになってくれたらと思う。
「じゃあ公衆浴場ってことで大きめの施設を作るぞ」
作ったのは裏山温泉のような旅館ぽい施設ではなく大浴場と更衣室と湯上がりラウンジだけの建物だ。もちろん女湯と男湯に分かれている。
現地で基礎を作ったら、あらかじめ建物部分を竜人族の住居っぽい外観で用意しておいたので組み立てるだけで出来た。
ハナと触れ合いたい竜人たちがギラギラした視線を送ってきて怖いから長居したくないというハナの希望で短い滞在期間になるよう工夫した。施設を作っている間、ハナはペットスリングの中にこもって出てこない。まるでコアラのようだ。
「出来たな。リザと俺はゆっくりしていくが、カナたちは帰るか?」
「うん」
ハナが即答した。
「じゃあ先に帰ってるね」
「ああ」
いろいろ気になるけど、ずっとペットスリングの中にいたハナが運動したくてそわそわしているから帰ってお散歩ダンジョンに行った。
今日のお散歩ダンジョンは梟頭に熊の体のアウルベアや肉食の鳥のアックスビーク、ヴィゾーヴニルのような鳥型の魔物がポップした。ドロップ品はもちろん肉。
「チキンでたねー!」
ハナの中で鳥肉は全部チキンだ。久しぶりにお肉が出たので丸い尻尾をぴこぴこさせて喜んでいる。
「チキン南蛮で食べる?」
「うん!」
チキン南蛮はハナの大好物だ。ハナに見守られながらアルバロと手分けして夕飯の支度。タルタルソースも手づくりした。
「おいしー」
「よかったね」
「カナ、リオたちは問題ないよ」
父さんたちが気になって食事に集中出来ずにいるとアルバロが心配ないと言う。
「アルバロは問題無いって言うけどさ、ちゃんとしたいって言う父さんの気持ちの方に共感しちゃうんだよね」
竜人族は結婚の習慣が無ければ、1人の相手と添い遂げる習慣もないらしい。もちろんプロポーズの習慣も無い。
私たちがオーガニックコットンやワインの醸造所作りで別行動をしている間に父さんがリザにプロポーズしたらリザはポカンだったらしい。哀れな父さん…一大決心だっただろうに。
「竜人族は細かいことを気にしない種族な上に強い異性に惹かれる習性があるんだ。しかもリザはリオに胃袋を掴まれちゃっているから心配ないよ」
リザは父さんと添い遂げてくれるだろうとアルバロが太鼓判だ。
こっちの世界の結婚観は種族ごとに考え方や習慣が違うのでゆるゆるだ。竜人族には結婚の習慣もないけど一度ちゃんと挨拶したいというのが父さんの希望だった。温泉施設は結納の贈り物だ。
リザと添い遂げたい意思とリザの一族には健康で長生きしてほしいからという理由で温泉を贈ると伝えたらとても喜ばれた。今ごろ竜人族と宴会の最中だろう。
父さんが長命種族で相性ぴったりなリザと出会えてよかった。リザも父さんも長命種族なので一緒に老いていける。
「父さんの老後は日本にいた頃から気になっていたんだよね。私が生まれてすぐに母さんを亡くして再婚もしない父さんの老後が心配だったし、もっと歳をとった時の介護を私1人でどうしようと思っていたんだ」
「人族にはそういう悩みがあるんだ」
「アルバロは神様なんだから、人間の生活の悩みも知っておいてよー」
「カナたちとの生活は新しく知ることばかりだよ」
知ったところで神様にどうにか出来ることは無いかもしれないし神様が気にかけることじゃ無いかもしれないけど、ついつい言いたいだけ言ってしまった。
言いたいだけ言ったものの私の一言でアルバロが余計な事をしちゃったらどうしよう…。
アルバロはダンジョンの改修で変なことばかりする神様だし、アルバロが暴走しないように近くで見張っておこうと思った。




