第164話 ハナと蜂蜜酒
「今日はドーロに行こうか」
翌日ハナと一緒にアルバロのダンジョン編成に同行した。ダンジョン改修へ出かける前にハナとアルバロに見張られながらプリンを作らされたことは言うまでもない。
「ここはドーロのダンジョン最上階の上にある隠しフロア」
「何か条件次第で攻略できるの?」
「出来ない。魔物もでないし罠もない僕の管理用なんだ」
「ふうん」
泉があってセイフティゾーンみたいな場所だった。
「全体で40階。このダンジョンは1フロアが広いんだ。フロアを回らずに最短距離を進めばカナたちなら半日でクリアできるよ」
「へえー」
「1フロアをじっくり攻略しようと思えばいくらでも時間をかけられるよ」
「やり込みタイプのダンジョンなんだね」
下層では鱈や鰯や小海老や腸詰や干物などおつまみ系がドロップ。
中層ではワインや蜂蜜酒がドロップ。
上層で武器や宝石がドロップするらしい。
私の提案は主に中層の改修だ。
ハナを連れてきたら中層に行きたがらずに帰ろうとぐずるに違いないので中層にハナの好物をドロップさせたい。
「中層でポップするキラービーのドロップ品が今までは蜂蜜酒だけだったんだけどはちみつも一緒にドロップするように修正して…」
ポップする魔物をアルバロが自由な発想で増やすと冒険者の皆さんの意表をつきすぎて負傷者が増加する可能性があるので基本的に魔物は現状維持でドロップ品を増量させる方向で調整した。“ドロップする蜂蜜酒の量そのまま、はちみつもドロップします!”って感じだ。
「ワインをドロップするグレープトレントはフレッシュな葡萄も一緒にドロップするようにして、ナッツトレントを新たに創造して乾き物(塩味のナッツ)がドロップするように設定っと」
いいぞ、その調子。
「下層でポップするバッファロー型の魔物は腸詰のほかに追加でチーズも一緒にドロップするように修正っと」
「出来た?」
「うん」
「じゃあ攻略してみようよ」
ダンジョンの入り口を通らずアルバロのアドミン権限で1階に転移した。
「認識阻害をかけているから派手に暴れても大丈夫。思いっきりやっていいよ」
「やったあ!」
ダンジョン入り口を通っていないのでアルバロが気を利かせてくれた。さっそくハナが魔物を倒して回るのでドロップ品を拾って回る。
下層はどのフロアも草原タイプのフロアだった。草原にポップするバッファロー型の魔物が腸詰やベーコン、チーズなどをドロップし、草原を流れる川にポップする魚や蟹やエビ型の魔物が干物やスルメ、魚介類をドロップした。
「楽しいねー」
下層を思いっきり走り回って魔物を倒しまくってハナにとって楽しい要素しかない。酒飲みのダンジョンが楽しい場所だとハナの中で認識されたようでしめしめだ。
「じゃあ中層に進んでみようか?」
「いく!」
中層で新たに創造したナッツトレントが蔓をうねうねさせている。新たに追加した魔物は分かりやすくしてもらった。ここまであからさまなら誰が見ても新規の魔物だと分かるだろう。
そしてナッツトレントもハナの一撃でドロップ品に変わった。
「おいしー」
さっそくハナがドロップ品のナッツをつまみ食いして丸い尻尾をぴこぴこさせている。ナッツは熊のハナの大好物なのだ。
「気に入った?」
「うん」
「たくさん取っていこうね」
「うん」
ハナはグレープトレントがドロップした葡萄やナッツトレントがドロップしたナッツを気に入ってご機嫌で倒しまくった。調子に乗ってナッツトレントやグレープトレントを倒してゆくと違う気配がある。
「キラービーの巣だ。あれは小さいのがたくさん攻撃してきてやっかいだから任せて」
「うん」
小さい昆虫がたくさん一気に攻撃してくるのを嫌うハナが後ろに下がったので範囲魔法で一気に凍らせて倒した。キラービーの巣がドロップ品に変わったので蜂蜜酒とはちみつをインベントリに収納した。
「カナちゃん、もういない?」
「全部倒したよ。はちみつもドロップしたよ」
「やったあ」
中層もじっくり回って大量のワインと蜂蜜酒とナッツを獲得した。
「上層は攻略しなくていいよね」
「宝石いらない」
「じゃあ帰ろうか」
アルバロによって一瞬で我が家だ。浄化をかけてハナを放流すると父さんの元へまっしぐらに駆けていった。
ちょうど夕飯の準備中だったのでドロップ品で一品作った。
「今日のドロップ品の腸詰でトード・イン・ザ・ホールを作ったよ。グレービーソースで食べてね」
トード・イン・ザ・ホール(Toad in the hole)は大きめの耐熱容器にヨークシャープディングの生地を流し込んだ上にソーセージを乗せてオーブンで焼いたイギリス料理だ。
さっそくハナに取り分けてやる。
「おいしー」
「よかったね」
高評価でよかった、私も一口…さくっとした生地に肉汁が染みて美味しい。
「美味いな!ほかにどんなものが出たんだ?」
「珍しいのは蜂蜜酒かな」
出来るだけハナから離れた場所に出した。
「全部同じかと思ったんだけどインベントリの中で普通の蜂蜜酒と甘口の蜂蜜酒の2種類の表示になってる。こっちが普通のでこっちが甘口」
「甘いにおい」
ハナがフンフンする。
「甘い香りがするけど飲んでみると甘くないよ。発酵で蜂蜜の糖分が分解されて甘味は消えちゃうはずだから」
「でも甘いにおいするよ」
「はちみつの香りだけ残ってて飲んでも甘くないはずだよ」
「ハナのみたい!」
「ええ!?ハナの好みじゃないと思うよ」
「のみたい!のみたい!のみたいー!」
こうなったら聞かないので仕方ない。
「じゃあ少し試してみようか」
ハナのグラスに甘口を少し注いで渡すとご機嫌で受け取るが、不味いと言い出すだろう。
「甘くておいしー!」
「え?甘いの」
「甘いよ」
新しいグラスに甘口を注いで少し味見してみると蜂蜜酒をはちみつで甘くしてあった。
「もっとのみたい」
「甘くてもお酒だよ、大丈夫?」
「へーき」
「少しずつ試してみようね」
ハナのグラスに半分ほど注いでやるとコクコクと美味しそうに飲むので、気に入ったなら良かったと食事を続ける。
ぽてん。
── ぽてん?
振り返るとハナがへそ天で寝ていた。こたつで良かった、椅子から落ちたら大騒ぎだ。
「お酒がまわっちゃったみたいだね」
「次から量を減らすかソーダで割るかして調整しよう」
父さんがハナの布団を敷いてくれたので、そっと寝かせた。酔っぱらったハナも可愛いかった。




