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第160話 雪見酒

雪が降った。


「ハナ、今日はおこたから出ない」

「寒いよね」

全員こたつに入ったまま動けずにいる。


「裏山温泉に行かないか?温泉で温まろう」

「いく!」

全員一致で温泉行きが決まった。



「戸締まりも元栓もよし。いくぞー」

 魔方陣で転移した。ハナはバスタオルで包んでペットスリングの中だ。


 移動のためにハナをこたつから出そうとこたつ布団をめくったら、ハナがこの世の終わりのような声で鳴いた。寒くてこたつから出られないと言い張る驚きの軟弱ぶりだった。



 ハナは普段から大袈裟に鳴くことがある。触っていないのに尻尾のブラッシングを嫌がってブラシを見ただけでひゃんひゃん大騒ぎするのだ。



「ハナ、女湯だよ」

 湯船の近くでペットスリングから出るよう促すと、やっと動いた。

「温泉ー!」

 横着なハナが湯船に向かって駆け出した。横着熊おうちゃくまめ。


 リザと私も身体を洗ってハナに合流する。足がつかないので両手で縁につかまっているハナを抱き寄せるとリラックスして身体を預けてきた。


「ハナ、見てごらん窓の外は雪だよ」

ハナが向きを変えて背中を預けてくる。


「気持ちいいねー」

「雪が積もる様子を眺めながら温泉につかるって贅沢だよね」


 しばらくリザとハナと一緒に降り積もる雪を眺めた。



「リザ、これをどうぞ」

 雪を堪能したところでリザにお酒と串焼きを大量に渡す。雰囲気を壊さないよう桶酒だ。

「お酒とお肉ですね!」

「雪見酒だよ、好きなお湯につかって雪を見ながら楽しんで」

 大喜びのリザがお酒とお肉を自分のインベントリにしまってニュウトウオンセンキョウの湯に移っていった。高血圧の治療をしながら暴飲暴食か…。


「カナちゃん!」

 ハナが私の顔を登る勢いで迫ってくる。

「ハナの分を出そうとしてるんだけど前が見えないよ」


 降りてくれたのでハナ好みのものを出してゆく。

「美味しい牛乳とりんごジュース、皮をむいて一口サイズにカットしたフルーツの盛り合わせ、アイスクリーム」

「全部すき!カナちゃん、ありがとー」

 いったん全部を自分のインベントリにしまってから悩むハナ。悩みに悩んで最初に出したのはアイスクリームだった。


「おいしー」

 温泉の湯気で溶けてゆくアイスクリームをすくっては『おいしー』を繰り返している。ハナの満足そうな様子を確かめて自分の分を出す。

 桶酒の容器に手作りのスパークリング・シードルを入れてみた。グラニュー糖を加えて二次発酵させたスパークリング・シードルをよく冷やしておいたのだ。冷たくてしゅわしゅわの喉越しが美味しい。


 アイスクリームを食べ終わったハナは犬かきで泳いだり、へそ天でぷかぷか浮かんだり温泉を堪能している。私はちょっとのぼせてきた。

「ハナ、ちょっと暑くなってきたからぬる湯に移ろうと思うんだけど」

「ハナも行く!」

ハナを抱いてぬる湯に移った。


「こっちも気持ちいいねー」

「あったかいお湯と交互に入ろうか」

 喉が渇いていることに気づいてハナに牛乳、自分に水を出した。

「牛乳おいしー」


 食べたり飲んだりしながら温泉と壺湯と寝湯とぬる湯全部を堪能した。


「ふやけちゃったね」

 ハナと自分を魔法で乾かすと一瞬でサラッとしたが私の手の指がしわしわになっている。

オーガニックコットンで作った浴衣と半纏を着て家族部屋に行ってみると父さんとアルバロがこたつにあたっていた。


「ゆっくりだったな」

「雪見酒を楽しんだんだ」

「こっちもだ」

「寒くなったらまた入りにいくよ」

「ハナ、雪がやむまでここにいたい」

「そうだな、ゆっくりしていこうな」


 身体の熱が冷めてきたのでもう一度温泉に入って戻ると夕飯の準備が出来ていた。

「雪見酒で食ったりしたから軽くした」

 白菜と豚肉のミルフィーユ鍋だった。切った白菜と豚肉を重ねてお鍋に詰め込んだだけで準備出来ちゃう簡単お鍋だ。


 煮えたら取り分けてから自分好みに調味する。

「大根おろしとポン酢、柚子胡椒もあるぞ。ごま油と塩とねぎで食うのもおすすめだ」


 おろしポン酢や柚子胡椒で食べて、あっさりに飽きたら塩ねぎごま油で食べた。今日は〆は無し。お鍋のスープはそれぞれが取り皿で好みの味付けのスープにしていただいた。


「あと何日くらい降るのかな?」

「2〜3日で晴れるよ」

アルバロが言うなら間違いないだろう。

「じゃあ晴れるまで温泉だね」

「そうだな」



 アルバロの言う通り2日後に雪が止んで3日後に晴れた。

寒いけど引きこもるのも飽きたので裏山温泉の周りを散歩した。軟弱なハナはふわふわのバスタオルに包んでペットスリングの中だ。可愛い軟弱熊なんじゃくまめ。


「けっこう積もったね」

「こんなに晴れて、溶けてぐしゃぐしゃになっちまうな」

「明日も晴れたら帰ろうよ」

「そうだな」


 マッピングスキルを展開しながら周囲を探ると果樹園に鳥や小動物がたくさんいたので近寄らないようにした。私たちの気配を感じたら一斉に逃げ出してしまうかもしれない。そうなったら鳥も小動物も食べるものに困るだろう。


 リザとハナの匂いがするので裏山にドラゴンやウルサスが相手にするような魔物や動物は近寄らない。その代わりに鳥や小動物が頻繁にやってくる。リザやハナがあくびして相手にしないのを知っているようだ。


 2時間ほど歩いて裏山温泉に帰った。


「汗かいたから温泉に入ってくる」

 歩いていないハナは運動不足なので温泉で犬かきさせた。湯上がりラウンジのマッサージチェアで身体をほぐしたり、水を飲んで熱った身体を冷ましたら、また温泉につかった。


 一日かけて温泉を堪能して家族部屋に行くと父さんが夕飯の支度をしてくれていた。


「カレーうどんにしてみた。あったまるぞ。ハナちゃんのは辛くしていないからな」

「ありがとパパ」


 ゆで卵と大きなエビ天が乗った和風のカレーうどんだった。途中で粉チーズを追加してこってり味変しても美味しかった。



 食後にまた温泉につかって翌日、帰った。

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