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第159話 バレンタイン

 熟成中のワインは途中で沈殿物が出るから上澄みだけを別の容器に移し替える必要があって、この作業を澱引きと呼ぶらしい。


 今日も澱引きのために醸造所に来て作業を終えた。

「ハナー、帰るよー」

「はーい」

 外で遊んでいたハナを呼び戻すと可愛い顔で走ってきたので抱きとめてワシワシした。



 我が家に帰ってコタツで温まっているとアルバロがやってきた。

「カナ!」

 アルバロが期待に満ちた顔をしているが心当たりが無い。

「なあに?」

「2月中旬といえばアレだよね!」

「中旬?15日?涅槃会ねはんえ?」

「…なにそれ」

渋い顔のアルバロに逆に聞かれた。


「お釈迦様が亡くなった日だよ。お釈迦様を偲ぶためにお寺で法要が行われる日じゃん」

「知らない…」

 涅槃会で配られる涅槃団子が目当てかと思った。涅槃会じゃなかったら何だろう。


「もうっ!バレンタインだよ」

「チョコレート?」

「そう!準備しないと!」

 ほらほらと急かされる。そういえば去年までは忙しかった…。

「今年のバレンタインはゆっくりしたかったのに」

「年寄りみたいなこと言わないでよ」


「カナちゃん、なに作るの?」

 ああ…ハナがキラキラしてる。何も作らない訳にはいかないな。


「うーん、苺のチョコがけにしようか。ミルクチョコとホワイトチョコと2種類」

 溶かしたチョコに苺をくぐらせるだけだから簡単だ。チョコが2種類あれば豪華に見えるし。


「いいね!あとは?」

 あとは?…アルバロの食いしん坊め。ケーキは面倒だから作りたくないのに。


 りんごゼリーをハナの為に残してくれた時に次はアルバロが喜ぶものを作ろうと思ったことはもう忘れた。寒いし動きたくない。


「苺のほかにキウィやバナナもチョコがけにする?」

「ケーキは?」

直球で問いかけられた。

「カナちゃん、ケーキ作るの?」

── ハナがキラキラしている。逃げ道は絶たれた。


「…考える時間をください」

「やったあ」


 しかし考える時間はなかった。なぜなら明日がバレンタインデーだから。



 スクエア型のベイキングディッシュでムース・オ・ショコラを作ることにした。大きなスプーンですくって盛り付ければお腹の空き具合に合わせて食べる量を調整出来る。

今日もハナに見守られながら調理開始だ。



 溶かしておいた製菓用チョコレートに卵黄を加えてよく混ぜたら温めた牛乳を少しずつ加え混ぜる。

 別のボウルに卵白を泡立ててメレンゲを作ったらチョコのボウルにメレンゲを加えてふんわり混ぜる。ふんわりだから重すぎず食べやすい。

 混ざったらスクエア型のベイキングディッシュに入れて平らに均して冷やす。


 次はフルーツのチョコがけを作る。苺はヘタをとる。バナナなどは一口大にカットしておく。

「ハナ」

ヘタをとった苺をハナの口に運ぶ。

「おいしー」


 新しいボウルに製菓用チョコレートを溶かして竹串に刺したフルーツを溶けたチョコレートにくぐらせて並べてゆけば完成。


 使った道具を洗いつつ牛乳を温める。

「牛乳どうするの?」

「余ったチョコでホットチョコレートにしよう」

「やったあ!」

 フルーツのチョコがけで余ったチョコを加えて牛乳を温めたら完成。ハナのカップに注ぐ。

「おいしー」

「良かったね」



 あとは特にすることもないのでハナと一緒にお散歩ダンジョンに行った。今日は岩山っぽいフィールドでリザード系の魔物がポップした。

 アイスリザード、ファイアーリザード、ブラックリザード、ポイズンリザード、メタルリザード、ハイリザード、リザードロードたちは宝石をドロップした。


「おいしいの出なかったね」

「そうだね」

 食べ物がドロップすることは少ないので今日はそれほどがっかりしていないようだ。玄関で浄化して放流するとキッチンへ走っていった。


「ただいまー」

「おかえりハナちゃん」

「いいにおい」

ハナがフンフンする。

「今日はビーフシチューだ。向こうで待っててな」

 父さんからハナを受け取ってコタツに連れていくと寒がりなハナがコタツに潜ったので支度を手伝った。



「ごはんだぞ」

リザとアルバロも揃っていただきます。


「おいしー」

「お肉がほろほろ!」

「おかわりください」

 父さんのビーフシチューが大好物のリザのおかわりの勢いがすごい。今日はアルバロもたくさん食べて父さんがご機嫌だ。



「おいしかったー」

「ごちそうさま」


「カナちゃん!」

「はいはい」

 冷蔵庫からムース・オ・ショコラとフルーツのチョコがけを取ってきて目の前で取り分ける。


「ハナはこのくらい食べられそう?」

「うん」

 フルーツのチョコがけと一緒に盛り付ける。リザと父さんにも取り分けて残りはアルバロだ。


「おいしー」

 メレンゲでふわっとさせて軽いから食後でもするっと食べられる。フルーツのチョコがけはフルーツが甘酸っぱいのでさっぱりいける。どちらも食後にちょうど良かった。



 それにしてもアルバロめ、涅槃会を知らないくせにバレンタインを知っているとは。

今後も予想外のリクエストがありそうだけどハナも喜ぶし楽しければいいかなと思った。

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