第157話 節分
オーガニックコットンやワインを仕込んでいる間に2月になった。
「今日は節分だから豆まきするぞ。夕飯は恵方巻きな」
「節分て?」
アルバロがポカンだ。
「みんなが健康で幸せに過ごせますようにって願いをこめて悪いものを追い出す日だよ。炒った大豆を撒くの」
「炒るの?」
「そのままの豆だと追い出したはずの悪いものが芽吹いて育っちゃうから」
「ああ、なるほど!」
「歳の数だけ炒った大豆を食べると、体が丈夫になって病気になりにくいって言われているんだよ」
「…えっ」
「恵方巻きは巻き寿司のことね!」
「カナちゃん、豆まきしたい!」
「はいはい」
愛犬時代は室内に撒いたそばから食べちゃっていたハナだったが今生のハナは豆を撒く側だ。ペットスリングの中のハナに炒った大豆の入った容器を差し出す。ペットスリングから撒くと高い位置から撒けるので豆まきの雰囲気が出ると喜んでいる。
「おにはそとー!」
小さな手で掴める豆はほんの数粒だけどハナが楽しそうなのでいい。ハナと一緒に家中の窓や出入り口を回った。
「おしまい」
「ありがとうハナ」
「楽しかったね」
「そうだね」
キッチンに戻るとご飯が出来ていた。節分の日に食べると良いと言われている食材で夕食だ。
雷こんにゃく、鰯の梅煮、一口サイズの小さなお蕎麦、鬼除け汁、恵方巻きというか太巻きいろいろ。海鮮巻きや牛肉巻き、アボカドとエビとツナ巻き、トロたく巻きなどを長いままではなくカットして盛り付けてある。
「今日のお味噌汁に入っているのは豆ですか?」
「鬼除け汁だ。大豆と豚肉が入っている。この他に節分の日は炒った大豆を歳の数だけ食べるんだ」
「私は54粒ですね」
リザって54歳だったのか、長命種族の54歳って若造扱いだよね。父さんの実年齢より若いし。
「アルバロは泣きそうな顔でどうしたんだ?」
「その豆、今日ぜんぶ食べなきゃダメ…?」
「…いや。俺たちの世界の風習だし」
「食べない人も多いよ」
「よ、良かった…」
「ちなみに何粒食べる予定だったの?」
「1772粒」
アルバロは1772歳だった。この世界に文明が生まれてだいたい1700年〜1800年くらいってことか。地球にも紀元前があったし単純に年数だけ聞いてもピンとこないな。
「良かったー!ご飯食べようよ。いただきまーす」
アルバロが晴れ晴れと鬼除け汁を啜る。私たちがご飯を食べている間、ひたすら炒った大豆を食べる自分を想像して泣きそうになっていたのか。炒った大豆1772粒は喉に詰まりそうだな。
「鮭のお寿司おいしー」
「良かったね」
ハナはサーモンの巻き寿司が気に入ったようだ。雷こんにゃくも鰯の梅煮もぜんぶ美味しかった。
「恵方巻きっぽいスイーツだよ」
クレープ生地でフルーツとクリームを巻いてみた。薄い生地で小さく作れば食事の後でも重たく無い…アルバロの分はちょっと分厚い生地で大きく作った。薄い生地で大きく作ると破れてしまうから。
「おいしー!」
「中に苺やマンゴーを入れてみたよ、気に入った?」
「うん。ハナ節分すき」
来年の節分のメニューもサーモンの巻き寿司とフルーツたっぷりのスイーツに決まりだ。




