第149話 年末のスケジュール
オースティンのオーガニックコットン畑とガロンヌのワイン醸造所を整えたところで週末となったので裏山温泉でのんびりした。
今日の夕飯は父さんとリザが用意してくれた。
「納豆とぬか漬けは俺とリザで作ったんだ」
「すっごく美味しいよ」
私たちが土木作業に明け暮れている間、父さんとリザは発酵食品を仕込んでいた。納豆やぬか漬けのほかに味噌や醤油、みりん、鰹節、ヨーグルト、生ハム、チーズ、黒酢、バルサミコ酢、アンチョビなど。
「甘酒おいしー」
「ハナちゃんは甘酒が気に入ったか。甘酒は身体にいいんだぞ」
──父さんがハナのために大量の甘酒を仕込む姿が目に浮かぶ。
「週明けはオーガニックコットンの様子を見にいこうかと思っているんだけど」
「いいんじゃないか?日本にいたら、なんとなくムードに飲まれてクリスマスだけどな、あはははは」
──うかつ!父さん、うかつ!
「クリスマス!」
「マス!」
── 手遅れだった。アルバロとハナが期待に満ちた無邪気な顔で私と父さんを見ている…
「クリスマスってなんですか?」
「ウィキペディアにはイエス・キリストの降誕を記念する祭って書いてあるね」
「お祭りですか?」
「クリスマスツリーやリースを飾って自宅で家族と過ごす日だよ」
── リザの質問に当たり障りない範囲で答えた
「カナが作ってくれたクリスマススイーツのビュッシュドノエルは美味かったな」
「スイーツ!?」
── アルバロとハナが反応した。父さんのバカ!ハナとアルバロが食べる気になってる…面倒だけど作るか…
「カナが小さな頃はローストビーフやハムやターキーを焼いたな!」
──そっちは父さんに任せるよ…
「牛とハムとターキーですか!」
── リザがハナとアルバロそっくりな無邪気な顔で父さんを見ている。
「リ、リザ?」
── 父さんがやっと無邪気な2人と1匹の視線に気づいた。
「…カ、カナ?」
── 手伝って欲しそうにこっちを見ているが私はスイーツ担当だ。
「やるか…」
「断れないよね」
「久しぶりにツリーを出すか」
「納戸から取ってくるね」
ハナが一緒にきてくれた。
「これこれ。ハナは覚えてる?」
「うん!」
「一緒に飾り付けしようか?」
「やる!」
一般家庭用のクリスマスツリーをハナと一緒に飾り付けた。雪に見立てた綿もいい感じだ。
「これは?」
ハナが大きな星を持っている。
「それはてっぺんに刺すの」
ハナを抱き上げて刺してもらって完成だ。
「ツリーだー!」
ハナが嬉しそうにツリーを見ている。ハナの愛犬時代はイタズラするし飾りを噛んで誤飲しそうで危険なので対策していた。私が赤ちゃんの頃に使っていた柵でツリーを囲んでいたからハナは柵越しのツリーしか見たことがない。
「そうだ、ちょっと待ってて」
自分の部屋のクローゼットから箱を持ってきた。
「それなに?」
「以前、お店で使った小さなツリーをもらったんだ」
勤務先の洋菓子店でクリスマス時期に焼き菓子を置いている棚に飾るために買ったものの、商品を置く場所が足りなくなって2日で用無しとなったものをオーナーが従業員に配ったことがある。12個は飾りすぎだった。
「これも飾り付けてハナの部屋に飾ろうか」
「うん!」
「もっとキラキラしたい」
付属の飾りだけではご満足いただけなかった。ハナは愛犬時代から仕草も性格も好みも女の子らしい子だった。
「使わなくなったアクセサリーをバラして飾りにしようか」
社会人になってから使わなくなった天使モチーフのピアスやイミテーションパールのネックレスなどをバラしてからハナの好みに組み合わせて飾りにした。
「これで完成?もっと?」
「完成!」
「じゃあハナの部屋に飾ろうか」
ハナはなかなかセンスがいい。
「カナちゃん!ここに置いて」
「ここ?」
「うん。寝るときに見えるから」
こんなに喜んでくれるならクリスマスも張り切らざるを得ない。
クリスマスが終わったらお正月の準備だからオーガニックコットン畑と醸造所の続きは年明けだな。




