第146話 オースティンのコットン
「土壌改良しちゃう?」
「冬の間、暇だもんね。ワインの醸造所も作っちゃう?」
アルバロと雑な相談の結果、綿花とワインの畑を冬の間に作ることにした。田んぼについて父さんに聞いてみたら稲の苗を温室で育てるからまだいいとのことだった。
「まずは“オーガニックコットンを栽培する場所”の土壌を整えちゃおう」
「“オーガニックコットンを栽培する場所”って長いし言いにくいね」
「秘境全体で秘境って呼んでるから細かい地名は無いんだ」
「オースティンって呼ぶことにしようよ」
「いいよ」
オーガニックコットンはアメリカ南部のイメージがある。南部で真っ先に連想するのはテキサスだったけどテキサスまんまなのは恥ずかしいので州都のオースティンを提案したら受け入れられた。
アルバロとハナと一緒にごっつい車…じゃなくて馬車で向かうことにしてマッピングスキルをカーナビ代わりに起動したら目的地がオースティンになってた。対応が早すぎる。
1時間ほどでオースティンに着いた。
「着いたの?」
「見えないくらい遠くに行っちゃダメだよ。お腹が空いたら帰ってきてね」
「わかったー!」
わかったと言いながら見えなくなったけどマッピングスキルを起動するとシロクマのアイコンが移動しているから居場所は丸見えだ。
水はけが悪い土壌の場合、砂や軽石を混ぜて排水良好な土壌に改良する必要があるから、まずは砂と軽石を混ぜていく。
「砂も軽石もかなり取ってきたよね?」
「うん。みんなのシーツとか家中のタオルとか全部オーガニックコットンに変えたいからけっこう広い畑にしたくて」
アルバロに協力してもらって思い描いた範囲に砂と軽石を混ぜた。
「さらに土壌が酸性寄りだから石灰を混ぜるよ。コットンは酸性土壌を嫌うからね」
石灰も満遍なく混ぜたら四隅に柱を立てた。柱に魔物や害虫、鳥や動物避けの魔法陣を刻んで農薬代わりにする。
「田んぼ予定地はうさぎが3家族、鳥の群れが1つ住んでるって言ってたけど、ここは?」
「棲家じゃないけど縄張りにしてる鳥はいるよ」
縄張りを荒らしたお詫びに少し離れた場所に木の実がなる木を何本か植えた。
「次に休憩所を兼ねた小屋と加工小屋を作ろうよ」
「木材とか素材は温泉旅館を作った時の余りがあるよ」
休憩小屋は裏山のログハウスとほぼ同じに作った。同じなら手順も同じで手間が減るし、こちらは地下貯蔵庫を作らなかったのでより簡単だ。加工小屋にいたっては、中で部屋も分かれていない大きな犬小屋のようなシンプルさだ。
「お腹すいたー!」
ログハウスが組み上がったタイミングでハナが帰ってきた。
「おかえりハナ」
「おうち出来てる!」
「中でご飯にしようか」
「うん!」
設置したばかりの薪ストーブに点火してテーブルの中央にカセットコンロを置く。寒がりのハナは薪ストーブの前から動かない。
鍋の内側ににんにくをすりつけたら白ワインを入れて火にかける。白ワインが温まるまでにインベントリから一口サイズにカットしたバケット、茹でたエビやソーセージ、ブロッコリー、カリフラワー、じゃがいも、アスパラ、ミニトマト、うずらの卵、パプリカ、蕪などを出して並べる。
白ワインが温まったら弱火にしてすりおろしたエメンタールチーズとグリュイエールチーズを何回かに分けて混ぜながら加えて溶かす。
チーズが溶けてなめらかになったら塩胡椒で味を調えてチーズフォンデュの完成だ。
「いいにおい」
薪ストーブの前のハナがフンフンする。
「もう食べられるよ」
「食べるー!」
ハナがすっ飛んできたので両手を浄化していただきます。
「この串で具材を刺してチーズに絡めていただくんだよ」
「いただきまーす」
ハナが最初に選んだのは茹でエビだった。
ぱくん。
「おいしー!」
「気に入った?」
「うん」
いつもは食べない野菜もすすんで食べてくれている。チーズは偉大だ。
「午後はワインの方だよね?」
「醸造所はすぐ作れないけど」
「葡萄はもう植えちゃおうよ。僕の加護があれば根付くから」
「そうなの?ありがとう」
今後の計画を相談しながら楽しいランチだった。
「チーズおいしかったー」
「チーズで味が濃かったからフルーツもどうぞ」
裏山で採れたフルーツをカットしてあったのを出したらハナもアルバロも大喜びだった。裏山のフルーツはスイーツ並みに甘くて美味しい。
食後のフルーツとお茶でゆっくりしてから“ワイン用の葡萄を栽培してワインを醸造する場所”へ向かう予定だが長いのでガロンヌと呼ぶことにした。ガロンヌはフランス南西部を流れるガロンヌ川からとった。ワインの産地で有名なボルドーはガロンヌ川沿いの港湾都市なのだ。
ガロンヌでは葡萄畑を整えて苗木を植えた。こちらも四隅に魔物や害虫、鳥や動物避けの魔法陣を刻んだ農薬代わりの柱を立てて、縄張りを荒らしたお詫びの木を植えた。
「こっちは綿花より狭く作るの?」
「家族で飲む分だけだし充分だよ」
「そうだね」
翌年、リザの実家にお裾分けしたら、全然足りなくて大幅に拡張することになろうとはカナもアルバロも予想していなかった。




